村井紀が「戦時の折口」をたたき切る
現在発売中の『現代思想 2014年5月臨時増刊号 総特集=折口信夫』では,豪華執筆陣が折口信夫を様々に論じている。
そのことは先日のブログで述べたが,反折口の旗幟鮮明な村井紀の文章の切れ味が凄い。短い文章だからだと思うが,昨今の折口に関する新たな研究成果など目もくれず,折口の戦争責任の一点に集中砲火を浴びせている。
「坊主めいたペンネームにキリスト像めいたスケッチ,わけのわからぬ『死者の書』」(『現代思想 2014年5月臨時増刊号 総特集=折口信夫』村井紀「再説・反折口信夫 神道の戦争責任」, p.34)
と折口の業績もボッコボコ。
「折口信夫は,諸氏の折口信夫論の前提にある,アウトローを装ったホモソーシャルな"性政治"を含めて,「皇国史観」に集約される日本ファシズム研究の資料である。」(『現代思想 2014年5月臨時増刊号 総特集=折口信夫』村井紀「再説・反折口信夫 神道の戦争責任」, p.35)
と折口を研究材料扱い。
戦前・戦中の日本の政治体制をファシズムと見なすかどうかですでに議論があるのにもかかわらず,「日本ファシズム」と言ってしまうあたり,潔いとしか言いようがない。
いま,うちの本棚に村井紀が2004年に作品社から上梓した『反折口信夫論』がある。
同書所収の「序説」で村井紀はこのように宣言している:
「この男は時代をこえた存在として,ロマン的,反時代的な人物として語られている。
しかし,私はここで,こうした反時代的な折口信夫像を,彼が生きた時代に回収し,いいかえれば限りなく凡庸化し,諸家が黄金だと言うところを鉛だと言おうと思う」(『反折口信夫論』「序説 反折口信夫論」, p.7)
この本が出てから10年経ても,村井紀の姿勢にぶれは無い。
折口が戦時体制に対して抵抗したというエピソードはいくつも知られている。しかし,村井紀は,そういった"抵抗神話"は日本ファシズムに同調する指導者層の内部抗争事例に過ぎないと一蹴するわけである。
村井紀は
- 叙事詩を以て神話を偽造し,人々を戦争へと駆り立てた
- 戦後は,敗戦理由を国民の信仰不足とし,国民に戦争責任を押し付けた
という2つの理由を以て,折口の戦争責任を追及して止まない。
『現代思想 2014年5月臨時増刊号』の他の執筆陣が,とくに中沢新一が,折口の思想から何かを汲み出して,未来へとつなげようとしているのとは一線を画している。
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コメント
ケチョンケチョンですねw
ご存知かと思いますが村井紀は以前「南島イデオロギーの発生」で柳田を厳しく批判し、折口は相対的に評価する視点だったかと記憶しております。
その後折口を批判するようになったのですが、その批判内容は手心を加えず徹底しており読むべきものがあると私も思います。松浦寿輝の批判しているのか魅了されているのか曖昧な折口論(おそらく両方なのでしょう。それはそれで読み物として面白いのですが…)よりも、頭がスッキリして対折口解毒作用が効く分読後感は良いと思いました。
さて柄谷行人が柳田論を上梓していることもご存知かと思いますが、その中で折口を批判しつつも、戦争末期出征する藤井春洋を養子にした事実を挙げ、国家神道から国際神道を目指すようになる戦中戦後の折口の宗教思想とは異なる、より柳田に近い神道感がそこにはあったのではないだろうかと補足している点が印象的でした。
投稿: 拾伍谷 | 2014.04.28 01:10
『南島イデオロギーの発生』は村井紀の代表作と言えるでしょうね。『反折口信夫論』では,柳田よりももっとアカンのが折口,というような論調です。思わせぶりな文章よりもこの人のようにズバッと斬ってしまう文章の方が読んでいてすっきりします。貴兄の言う,「対折口解毒作用」ですね。
投稿: fukunan | 2014.04.30 01:25