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2014.04.09

研究倫理は倫理。法律ではないから裁けない:先進理工学研究科・疑惑の博士論文には多分お咎め無し

小保方博士(暫定)のSTAP細胞騒動が飛び火して,小保方博士(暫定)のものも含め,早稲田大先進理工学研究科の過去の全博士論文約280本を対象に,盗用など研究不正が無いかどうか精査することになったそうである。

小保方博士(暫定)の博士論文以外にも盗用らしき箇所がある博士論文が複数あることがネット上で指摘されているので,それに対応するための措置であろう。

悪質なケースについては博士号の取り消しも,ということである。


しかし,これは小生の予測だが,いくつかの博士論文に盗用らしきものが発見されても,おそらく博士号の取り消しなどは無く,厳重注意程度でおさまるだろう

理由は三つ。


  ◆   ◆   ◆


理由の一つ目は,前にも述べたように,Nature掲載のSTAP細胞論文に関する理研の不正調査委員会が「文章のコピペは研究不正行為に当たらない」という判断を下していることである。

いわば,出典を明らかにしないコピペでも,意識が朦朧としているときにやってしまったとか,単なる過失であると主張できれば,不正行為とは言い切れないという訳である。過失である理由はいくらでも主張できるから,理研は「文章のコピペは研究不正行為に当たらない」とお墨付きを与えてしまったようなものである。


理由の二つ目は,アカデミズムにおける「弱者保護」の姿勢。早稲田の先進理工学研究科は2007年にできたばかりの歴史の浅い大学院である。そこを出た約280人のほとんどは若い研究者だろう。

アカデミズムの世界というのは面白いところで,個々の研究者はわがままで身勝手な性格の人物が多いのだが,集団になり,議論の場になると「性善説」がまかり通るようになる。もしも,若い研究者が不正を働いた場合には,ベテラン研究者たちはその若い研究者を「弱者」と見なし,「前途ある若者をこんなことで潰してしまってよいのか」とかいう議論をする。多分,反省文を書かせて終わり。


理由の三つ目は,著作権侵害は親告罪であるということ。文章の盗用があった場合,著作権侵害という立派な犯罪として扱うことができる。しかし,著作権侵害の処罰は親告罪であるので,著作権者が告訴しない限り,刑事責任を問うことができない。

研究論文の文章が盗用されたとしても,元の論文の著者なり,出版社なり,著作権者が盗用者を訴えない限り,訴追されないわけである。おそらく,よほどのことが無い限り著作権者は面倒臭いし,時間と金の無駄なので盗用者を訴追しないだろう。盗用されるぐらいの論文を書くのは優秀な研究者だったりして,法廷での争いよりも,研究に力を割きたかったりする。第三者がワーワー言ってもダメ。事実上,法律の問題としてではなく倫理の問題として扱われることだろう。

倫理というのは法律の裏付けのないものである。また倫理の基準は人によって異なるので,良し悪しの判断は困難である。もしも良し悪しについて結論を出すことができても処罰には結びつかない。倫理規定で処罰を定めている場合もあるが,それすらあいまいになることが多い。法律じゃないので。


  ◆   ◆   ◆


まあいろいろ書いたが,結局,研究不正は研究倫理の問題であって,違法行為として処罰することができない。

研究に関する倫理規定があれば研究不正を処罰できるかもしれない。しかし,日本の場合,研究に関する倫理規定はアカデミズムの世界全体に浸透していないので,法律と違って強制力を持たず,適用するのは困難だろうと思う。無理に適用すれば,名誉毀損訴訟等の裁判沙汰になるだろう。

もし研究不正に対する処罰に当たるものがあるとすれば,それはアカデミズムの世界における悪評ということになるだろう。だが,悪評は広がる範囲が限られているし,いずれは薄まり消失するものである。

ということで,先進理工学研究科の全博士論文約280本の中のいくつかに疑義があろうとも,基本的には深刻な結果にはならないであろうと予測する。外れたら黒霧島飲んで寝ます。

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