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2014.04.14

胞子文学のススメ

消費税が上がって以来,書店に行くのを我慢していたのだが,とうとう書店に行って本を買ってしまった。

行ったのは広島の丸善ジュンク堂。出張のついでである。

そして買ったのは,田中美穂編『胞子文学名作選』(港の人)である。

胞子文学名作選胞子文学名作選
田中 美穂

港の人 2013-09-20
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丸善ジュンク堂の文学の棚に『胞子文学名作選』を推奨するPOPが貼りついていた。それが気になって本棚を何回も見直したところ,渡辺淳一のどうでも良い本の陰に隠れるようにして『胞子文学名作選』が2冊あった。

まず何よりも驚くのがその装幀である。吉岡秀典という人がブックデザインを担当しているらしいが,様々な種類の紙を使い,フォントを駆使して,遊び心のある本を作り出している。

松岡正剛が本の身体性ということをよく口にするが,重さ,紙の手触り,透過性など,本が我々に及ぼす物理的な影響を想わずにはいられないような本である。

Kurimotokaorukabi
↑栗本薫「黴」は光沢のある半透明の紙に印刷されている。

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↑井伏鱒二「幽閉」はボコボコのボール紙のような紙に印刷されている。


『胞子文学名作選』には以下の作品が収められている:

  • 永瀬清子「苔について」
  • 小川洋子「原稿零枚日記(抄)」
  • 太宰治「魚服記」
  • 松尾芭蕉 俳句
  • 小林一茶 俳句
  • 伊藤香織「苔やはらかに。」
  • 谷川俊太郎「交合」
  • 多和田葉子「胞子」
  • 野木桃花 俳句
  • 川上弘美「アレルギー」
  • 尾崎一雄「苔」
  • 内田百閒「大手饅頭」
  • 河井酔茗「海藻の誇」
  • 栗本薫「黴」
  • 宮沢賢治「春 変奏曲」
  • 佐伯一麦「カビ」
  • 前川佐美雄 短歌
  • 井伏鱒二「幽閉」
  • 尾崎翠「第七官界彷徨」
  • 金子光晴「苔」

よくもまあこれだけ集めたものだと感心する。ページ数の多くを占めるのは女性の作家たちである。伊藤香織「苔やはらかに。」も多和田葉子「胞子」も栗本薫「黴」も,読んでいると,空気に含まれる高濃度の胞子が我々の体の中に入り込み,神経の隅々まで菌糸を張り巡らせ,ついには我々を支配してしまうかのような感覚を起こさせる。とどめは尾崎翠「第七官界彷徨」で,多分これが胞子文学の最高峰ということになるのだろうと思う。


  ◆   ◆   ◆


『胞子文学名作選』に触発されて,家にある胞子関係の本を並べてみた。

Housikinoko

四手井淑子『きのこ学騒動記』と『きのこ学放浪記』は,著名な森林生態学者の四手井綱英の妻である。主婦からきのこ研究者になった女性が,家庭生活とのバランスに悩みながら研究を続けている様子を書き綴っている。

きのこ学騒動記―学問と主婦事情 (1983年)きのこ学騒動記―学問と主婦事情 (1983年)
四手井 淑子

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浅田彰『ヘルメスの音楽』がなぜ胞子関係の本だと言えるのかというと,「キノコの音楽――ジョン・ケージを聴く」という一章が掲載されているからである。

ジョン・ケージはキノコ狩りを趣味としていた。

Asadaakirakinokonoonngaku
↑浅田彰『ヘルメスの音楽』(筑摩書房,1985年,pp. 102 - 103)より

ケージがよく言うように,「キノコ」と「音楽」は辞書で隣り合わせに並んでいる。むろん,それは単なる偶然だ。だが,その偶然に賭けることから彼の音楽のすべてが始まる。(浅田彰『ヘルメスの音楽』「キノコの音楽」,p.102)
ヘルメスの音楽 (水星文庫)ヘルメスの音楽 (水星文庫)
浅田彰

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星野之宣『2001夜物語』の2巻がなぜ,胞子と関係あるのかというと,「共生惑星」という作品があるからである。

Yukinobuhoshinokyouseiwakusei
↑星野之宣『2001夜物語 Vol.2』(双葉社,1985年,pp. 168 - 169)

「アリーナがロックを開けた時にすでに胞子はコロニー全体に――」(星野之宣『2001夜物語 Vol.2』p. 169)

みずへび座β星第5惑星に進出した人類は菌類とどのような関係を構築できるのか?


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というわけで,家の本棚をあさってみるといろいろ見つかるものである。

よくよく考えてみれば,坂口謹一郎『日本の酒』(参考)も胞子関係の本であるし,うちの本棚にはないが,石川雅之『もやしもん』もまた,胞子漫画の傑作として挙げることができる。


  ◆   ◆   ◆


本書の姉妹編として『きのこ文学名作選』というのがあるのだが,これは未入手。

きのこ文学名作選きのこ文学名作選
飯沢耕太郎 萩原朔太郎 夢野久作 加賀乙彦 村田喜代子 八木重吉 泉鏡花 北杜夫 中井英夫 正岡子規 高樹のぶ子 宮澤賢治 南木佳士 長谷川龍生 いしいしんじ

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コメント

花粉症の季節も終わりつつあるところで何やら鼻がむず痒くなるお話…
パッと思い出すのは「ナウシカ」でした。「黴」と言えば徳田秋声にも同タイトルの小説がありましたね(青空文庫で読めます)。宇野浩二の「蔵の中」はお布団大好きダメ男の話なのですが不思議とカラリとした読後感。J・G・バラードの「沈んだ世界」は…と、外国文学まで手を広げるのは反則でしたか。

投稿: 拾伍谷 | 2014.04.15 01:37

花粉症の季節が終わりつつあるとはいえ,小生の場合,まだ時折くしゃみをし,喉もイガイガしております。

言われてみれば,「ナウシカ」も胞子漫画ですね。

栗本薫の「黴」は栗本薫らしく,サスペンスでした。「第七官界彷徨」はもう,なんというか,乙女チックなのに肥しの臭いが漂っているという,すごい有様。

投稿: fukunan | 2014.04.15 18:25

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