STAP論文問題は全部で3つの問題に分けられる
分野が違うので偉そうに書けないが,「研究論文とは何か」という一般論で考えると,今話題のSTAP論文問題はまず2つの問題に分けられる。
一つはSTAP細胞が本当に作成されたのかどうかという問題。
もう一つは論文の記述が正しいかどうかの問題。
前者は「真実」に関わる問題である。
後者はさらに「再現性/追試可能性」に関わる問題と「論文作法」に関わる問題に分かれる。
ということでSTAP論文問題は全部で3つの問題に分けられる。
◆ ◆ ◆
「真実」に関わる問題は非常に難しい。とくに,「できた」と言われて,その真贋を確認するのは難問である。なのでここではこの問題はパス。
「再現性/追試可能性」に関わる問題というのは,たとえ,STAP細胞が本当にできたのだとしても,他者にもそれが再現できるように,どうやって作ったのかが正確に記述されていなければ,論文としてはアウトだということである。
実際の研究者コミュニティでは追試の手間が大変なので,よほどの大発見や大発明でない限り,ほかの研究者がいちいち追試をすることはない。それでもほかの研究者が追試できるように記述することが鉄則である。
しかし,今回は生物学を揺るがすような内容なので,多くの研究者が追試に取り組んだわけである。その結果,再現できないというクレームが世界各地から出てきた。
「論文作法」に関わる問題というのは,適切な引用とか,正しく図表を示すとか,そういう一見瑣末に見える問題である。
これは本質的な問題でないように見えるが,古来から「神は細部に宿る」と言われるように,通常の研究者はこの点に気付けている。通常目にする研究論文はまず,文章,図表がきちんとしている。逆に,文章,図表に何かしら瑕疵が見られるときには,論文自体の信用性が疑われる。
(【脱線】 STAP論文そのものの話から逸れるが,小保方博士の博士論文の文章に「剽窃」にあたる部分が見られるという指摘がある。
ネット上の熱心な人が,NIH(米国立衛生研究所)が幹細胞 (stem cell)について解説した文章と小保方博士の博士論文の文章とを比較した結果を表示している:
http://altair.dbcls.jp/difff/dev/obokata_copypaste.html
博士論文上のこういう問題に関しては,数年前に発生したアニリール・セルカンの事件を思い出した。)
◆ ◆ ◆
今回の件,この3つの問題のいずれにも抵触しているように見えるが,まだはっきりしない。
"publish or perish" (発表か破滅か)というプレッシャーの下で発生した一エピソードということになるのか?
いわれのない疑いということになるのか?
いずれにせよ理研の調査結果待ちである。
![]() | 背信の科学者たち―論文捏造、データ改ざんはなぜ繰り返されるのか (ブルーバックス) ウイリアム・ブロード ニコラス・ウェイド 牧野 賢治 講談社 2006-11-21 売り上げランキング : 218381 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 固定リンク
「アカデミック」カテゴリの記事
- 『<学知史>から近現代を問い直す』所収の「オカルト史研究」を読む(2024.05.23)
- データ主導時代に抗して(2023.11.08)
- モンゴル語の"Л (L)"の発音(2022.11.18)
- 『学術出版の来た道』を読む(2021.12.10)
- Proton sea | 陽子の海(2021.06.03)
コメント