アフガニスタンでは4月5日に大統領選挙を迎える
今,手もとに2011年10月6日の毎日新聞1面の切り抜きがある。
「タリバン首都包囲網 アフガン戦争10年 戦闘激化」という見出しが付いている。
同じ日の3面にも関連記事が掲載されており「政府統治『点』に縮小」という見出しの下,大都市を除くアフガニスタンの大部分がタリバンの支配下に置かれている状況をレポートしている。
同記事では女性社会活動家で元下院議員のマラライ・ジョヤ氏の発言を紹介している
「カルザイ大統領は一国の大統領ではなく,『カブール市長』になってしまった。これが,世界最強の米軍が10年にわたって駐留した結果だ」
つまり,アフガニスタン政府が掌握しているのはカブールやジャララバードといった大都市のみで,それらの都市がタリバン支配地域の海の中で孤島のようになっているのが2011年10月の情況だったということである。
これらの記事は2001年10月7日に始まったアフガニスタン戦争から10年経過したことを機に書かれたものである。では,その後のアフガニスタンの情況はどうなっているのか?
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オバマ政権は今年,2014年末までにアフガニスタン政府に治安権限を完全に委譲することを宣言している。これに伴い,アメリカ主導の北大西洋条約機構(NATO)の国際部隊の撤退が進められている。
この状況下で,タリバンは勢力を拡大しつつある。「NHKワールドWave Tonight」が2013年9月30日に「アフガニスタン 自立・安定への険しい道のり」という特集を組んでいるのだが,国際部隊が撤収するたびにタリバンが支配地域を拡大しているという状況が紹介されている。
アフガニスタン政府が掌握していた数少ない大都市もいよいよタリバン支配地域の海に飲み込まれてしまうのだろうか?
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来月,というか来週の2014年4月5日,アフガニスタンでは大統領選挙及び県議会選挙が実施される。
タリバンの上層部はこの選挙には正統性が無いと非難し,各地にいるタリバンの指導者に選挙妨害を指示している。
カブール市内でもタリバンほか反政府組織の活動が活発化している。選挙妨害と直接関係あるかどうかわからないが,3月11日にはスウェーデン人ジャーナリストがカブール中心部の路上で(参考),3月20日にはアフガニスタン人ジャーナリストがカブール市内の高級ホテル・セレナで(参考)射殺されている。
外務省の海外安全ホームページを見ると,アフガニスタン全土にレッド・アラート,退避勧告が出ている(参考)。もはや最悪の状態である。
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なぜ,タリバンが勢力を拡大できるのか,というと,タリバンを支持する人々がいるからである。Zachary Laubの記事"The Taliban in Afghanistan"によるとアフガニスタン人の1/3(主としてパシュトゥン人と農村部の人々)は反政府武装勢力,とくにタリバンにシンパシーを感じているという。
アフガニスタン政府に対する不満,とくに腐敗への不満がタリバン支持につながっているようである。国軍や国家警察は高い信頼を得ているが,地方の警察は民兵と変わりなく,人々に対して強圧的で,金銭を徴収したりして評判が悪い。農村部では政府が設立した法廷よりもタリバンが設置したイスラム法廷の方が,民族差別もなく賄賂も要求せず,信頼に足ると支持されている。
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以前,『アフガン零年』(2003年)という映画を見た。タリバン政権下で生きる少女とその家族の恐怖と苦しみを描いた作品である。エンディングには絶望した。
アフガニスタン政府は今後も都市連合としてかろうじて存在し続けるかもしれない。だが,そこから一歩でも出ると「アフガン零年」の世界が広がっている・・・そんな未来が待ち構えているような気がする。
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