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2014.02.18

ダルモン&カリエ『石油の歴史―ロックフェラーから湾岸戦争後の世界まで』を読む

東日本大震災以来,日本でも再生可能エネルギー導入への意欲が高まっているが,それでも世界のエネルギー市場が石油を中心に動いているのは変わっていない。成長著しいアジア各国では石油への依存がますます高まっている。

石油の歴史,より正確には石油産業の歴史は1859年,ドレーク「大佐(通称)」がペンシルベニアのタイタスビルで石油を掘り当てたことから始まる…とダルモンとカリエは『石油の歴史』(文庫クセジュ)に記している。

石油の歴史―ロックフェラーから湾岸戦争後の世界まで (文庫クセジュ)石油の歴史―ロックフェラーから湾岸戦争後の世界まで (文庫クセジュ)
エティエンヌ ダルモン ジャン カリエ Etienne Dalemont

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まあ,それ以前から石油の存在は知られていて,日本でも日本書紀にそれらしきものが宮廷に献上されたという記録が残っている。だが産業として成立するのは19世紀後半からである。

アメリカで石油が採掘されるようになってからの展開は早い。一気に石油産業が成長する。石油は最初は照明用に利用されるが,しばらくしてエジソンによる白熱灯に駆逐される。しかし,今度は自動車や船舶などの動力源として使用されるようになり,需要はますます伸びていった。

急成長する石油産業の中で頭角を現してきたのがロックフェラー,マーカス・サムエル,デターディングといった人物である。

ロックフェラー「スタンダード石油 (Standard Oil company)」を率い,利益を計画的に再投資しながら一大帝国を築くことに成功した。石油産業最初の50年はスタンダード石油を中心に動く。

マーカス・サムエルはロスチャイルド一族の盟友であり,カフカスなどロスチャイルド家が利権をもつロシア産石油の輸出を手掛けていた。1892年にマーカス・サムエルは「シェル」を設立する。

東南アジアのスマトラ島でも石油が発見され,1890年にオランダ資本の「ロイヤル・ダッチ」が設立されていた。このロイヤル・ダッチを率いていたのがデターディングである。

世界市場を手中に収めつつあるスタンダード石油に対抗すべく,マーカス・サムエルとデターディングが手を結んだ結果誕生したのが「ロイヤル・ダッチ・シェル」という巨大企業である。

石油産業の初期はまるで三国志のように企業間の競争が展開される。「石油英雄伝説」とでも言おうか。


  ◆   ◆   ◆


英雄たちの時代はやがて終わる。アイダ・ターベルが1904年に著した『スタンダード・オイルの歴史(The History of the Standard Oil Company)』は,政財界に大きな影響を与え,スタンダード石油による市場支配への批判が高まってきた。結局1910年に米国最高裁がスタンダード石油の解散を命じ,ロックフェラーの帝国は解体された。エクソンとかモービルとかいう石油企業はいずれもスタンダード石油の解体後の姿なのである。

ただ,面白いのは帝国解体はロックフェラーの資産に悪影響を与えなかったということである。反トラスト法により会社が分割された結果,むしろ市場は活性化し,株価は上昇。ロックフェラーの資産はむしろ増加したという。


  ◆   ◆   ◆


初期の石油は主としてアメリカ,ロシア,インドネシアなどで採掘されたが,戦間期(1914年~1945年)には中東での開発が進んだ。また,メキシコやベネズエラなど中南米でも開発が始まった。この結果,戦後は中東の情勢が世界のエネルギー市場に影響を与えるようになる。このあたりが描かれているのが本書の第2章。

戦後,1970年までは欧米の石油メジャーとよばれる巨大企業群が石油の利権を掌握しており,産油国側にはあまり力はなかった。イラン危機(モサデグ),スエズ危機(ナセル),イラク危機(カセム→フセイン)など中東では様々な政治危機が起こったが,石油メジャーはうまくこれらの危機に対処した。まさしく「大企業の絶頂期(第3章タイトル)」である。

状況が変わるのは1973年の第1次オイルショックからである。これ以後は産油国側の発言力が強くなり,石油企業,産油国,消費国が入り乱れての「激動の時代(第4章タイトル)」に突入する。このへんは日本も翻弄されており,よく知られていることである。

本書の本編は湾岸戦争あたりで記述が終わっているが,さらに,補遺として湾岸戦争以降2005年までの情報も加えられている。

もちろん本書ではその後の石油の金融商品化と価格高騰などは触れられていない。また,フランス人が書いたということもあって,フランスが中東の石油開発にどのようにかかわってきたのかという話は出ているが,日本のことについてはごくごくわずかしか触れられていない。まあ,その辺は百田尚樹の『海賊と呼ばれた男』でも読めばよいことか。

しかし,わずか160頁足らずで石油の歴史を通観することができるのはすごいことである。


  ◆   ◆   ◆


小生は一応,エネルギー問題を専門としているので,本書でカバーされていない,ここ十年ほどの石油価格の推移について情報提供してみたいと思う。

下の図はDOE(アメリカエネルギー省)の一部局であるEIA(Energy Information Administration)等が公表している原油価格(1バレルあたり何ドルか)の推移を示している。

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第1次オイルショック以前の石油メジャー絶頂期,石油価格は1バレル(159リットル)あたり2~3ドル程度で安定していた。しかし,第1次オイルショック時には11.7ドル,第2次34ドルというように約3倍ずつ上昇した。

その後,北海油田の開発やソ連の石油供給増加などがあって,1986年ごろに「逆オイルショック」が発生し,原油価格の低下が起きる。湾岸戦争時には若干のピークがあったものの,2000年までは1バレルあたり20ドルで推移するようになる。

ところが2000年以降は石油が先物取引の対象,つまり金融商品化され,需要供給以外の要因で価格が変動するようになる。歴史上最大のピークを迎えたのがリーマンショック直前の2008年7月で147ドルまで上昇した。この辺の話はダルモン&カリエ『石油の歴史』ではカバーされていない話である。

リーマンショックが起きたとき,投資家たちは現金を手にするために石油を投げ売りした,それが原油価格の急激な低下を招いている。しかし,世界経済がリーマンショックから立ち直るにつれ,再び投資が始まり,さらに中国・インドなどの新興国需要が加わり,原油価格は再上昇した。最近は高水準,だいたい1バレル100ドル近辺で安定しているところである。

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