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2014.01.07

ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』を読む

これはだいぶ前(2008年末)に買った本であり,今回再読しているところだ。
買ったきっかけは,昔、NHKBSプレミアムで放送されていた書評番組(教養番組)「週刊ブックレビュー」で紹介されていたからである。

読書に関わる本はこれまでにいろいろと読んできたが,これは最高に面白い本である。

読んでいない本について堂々と語る方法読んでいない本について堂々と語る方法
ピエール・バイヤール 大浦 康介

筑摩書房 2008-11-27
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そもそも,本を読むとはどういうことだろうか? 本書はそれが非常にあいまいな行為であることを明らかにする。

本を読むことと読まないことの間には広いグレーゾーンが広がっており,もしも,あなたがある本に関心を持っているのならば,あなたはすでにそのグレーゾーンのどこかに立っているのであり,その本について語ることが可能である……そういうことを本書は伝えている。

ピエール・バイヤールは「読んでいない」という状態を次の4つに分類している:

  • 全然読んだことが無い
  • ざっと読んだ(流し読みをした)
  • 人から聞いた
  • 読んだことはあるが忘れてしまった

全然読んだことが無い本についてすらあなたは適切にコメントできる,とバイヤールは断言する。その本が置かれた位置についての「全体の見通し」が立っているのならば…。

わたしたちが一生の間に読むことができる本の冊数は限られている。どんなに速読の技術が向上しても,読んでいない本の数の方が読んだ本の数よりも多い。では,読書が徒労かというとそんなことは無い。ある本を読んだときに,その本が他の本との関連でどんな位置づけになっているのかということを知っていれば,読んだ本のみならず関連本までを我が物とし,適切にコメントできるようになるのである。

それどころか,「全体の見通し」が立っているのならば「全然読んだことが無い」本についてすらコメントできるようになる。

本書は「全然読んだことが無い」以外の3つの状態についても考察を加えているが,いずれの場合においても本について適切に語ることができるとバイヤールは述べている。

本書で面白いのは,バイヤールの意見が彼の偏見ではなく,高名な知識人,ヴァレリーやエーコやモンテーニュの言説・事例に依拠しているということである。

例えば,ヴァレリーはプルーストの作品をまともに読んだことが無かったにもかかわらず,プルースト追悼の文を書き,しかもその中でプルーストの仕事について正鵠を射た批評をした。これはざっと読んだ(流し読みをした)本についてきちんとしたコメントができるという事例である。

こうした事例紹介はトリビアとして読者を楽しませると同時に,バイヤールの意見に強い根拠を与えている。


  ◆   ◆   ◆


本書では,全く読んだことのない本についてコメントしても,うまく乗り切っている例をいくつか紹介している。

例えば,『第三の男』の登場人物ロロ・マーティンズが読書人の集まる講演会で講演するというエピソードや,アフリカ西海岸ティブ族の人々がシェークスピア作品「ハムレット」を聞かされた時の反応などである。

これらのエピソードはとても面白いのだが,長くなるので省略。興味のある方は是非,本書を手にとって読んでいただきたい。


「読んでいる」と思っていたら実は「読んでいない」のかもしれない。逆に「読んでいない」と思っていたら実は「読んでいる」のかもしれない。そういう読書行為の危うさ/あいまいさを浮き彫りにしてくれるのが本書『読んでいない本について堂々と語る方法』である。

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