地域・環境・エネルギーについて考えるための10冊
東日本大震災をきっかけとして,日本全体でも,個人的にも地域と環境・エネルギー問題とを関連させて考えることが多くなった。
目下(都知事選含め),大きな議論を読んでいるのが,原発問題だが,小生としては勉強不足なので,この問題には立ち入らない。
小生が興味を持っているのは,「地域に根差したライフスタイルとエネルギーの需給態勢はどうあるべきか」ということである。
この問題を考える上で重要な情報や考え方を教えてくれるのが,次の4つの新書である:
エネルギーを選びなおす (岩波新書) 小澤 祥司 岩波書店 2013-10-19 売り上げランキング : 26397 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21) 藻谷 浩介 NHK広島取材班 角川書店 2013-07-10 売り上げランキング : 206 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
適正技術と代替社会――インドネシアでの実践から (岩波新書) 田中 直 岩波書店 2012-08-22 売り上げランキング : 46514 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
グリーン・エコノミー - 脱原発と温暖化対策の経済学 (中公新書 2115) 吉田 文和 中央公論新社 2011-06-24 売り上げランキング : 195593 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
それぞれの本についてはすでに記事を書いたのでここでは繰り返さないが,コミュニティの再生と適正規模・適正技術レベルのエネルギー生産・消費活動を同時に進めていこう,という考え方である。
- 小澤祥司『エネルギーを選びなおす』を読む 2013.12.10
- 藻谷浩介+NHK広島取材班『里山資本主義』を読む 2013.07.25
- 発展途上国から世界を変える/地方から日本を変える: 田中直『適正技術と代替社会』 2012.09.13
- 『グリーン・エコノミー』を読む 2011.12.04
経済性ということを前面に出して考えれば,コミュニティ再生も再生可能エネルギー導入も非効率的に見えることだろう。ただ,一つの思考実験として経済性追求が何を生み出すか,考えてみると凄まじいことになる。
ICTの急激な発達によって労働力としての人間はどんどんいらなくなっている。経済的に非効率的だから。まずはブルーカラーが駆逐され,現在はホワイトカラーが駆逐されつつある。必要なのはクリエイティブクラスだと言われるが,それすら人工知能の発達で駆逐されるかもしれない。究極的には人間はいらなくなる。そうすると何のための経済性追求だったのか,よくわからなくなるだろう。
これは,経済性は重要な指標の一つだが,それだけではおかしなことになるという思考実験である。
コミュニティ再生も再生可能エネルギー導入も手間がかかり,非効率的に見える。しかし,経済性一本槍ではなく,「手間の効用」というものを考えてみようというのが上に並べた4冊の新書の示唆するところである。そして手間というものが意外にコミュニティの再生や環境・エネルギー問題の解決に結びつそうだということがこれらの本の中で示されている。
◆ ◆ ◆
地域に根差す,ということはどういうことかと考えさせてくれるのが,これから紹介する3冊である。
まずは松本健一による本が2冊ある。
海岸線の歴史 松本 健一 ミシマ社 2009-05-01 売り上げランキング : 371805 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
海岸線は語る 東日本大震災のあとで 松本健一 ミシマ社 2012-03-10 売り上げランキング : 391983 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
これら2冊については既に過去記事の中で記述の難点も含めていろいろ述べてみた:
- 松本健一『海岸線の歴史』を読む:好著だが誤記の修正や文章の整理が必要 2014.01.05
- 松本健一『海岸線は語る 東日本大震災のあとで』を読む 2014.01.19
松本健一は折口信夫の「海やまのあひだ」という言葉を用いて,われわれ日本人は海と山に囲まれた場所に住む民であるということを再認識するべきだと述べている。
松本健一は『海岸線の歴史』において,海沿いに住む人々の生活の多様性と,日本人が海に対して抱いている認識が時代とともに変容している状況とを描き出している。
そして東日本大震災後に書かれた『海岸線の歴史』においては,日本人は海への畏怖を思い出すべきだということ,そして海沿いに住む人々の生活の多様性を踏まえた上で,画一的ではないコミュニティ再生を図るべきだということを述べている。
松本健一は「海やまのあひだ」と言いつつ,専ら海沿いの生活に着目して論述しているが,かつて,民俗学の巨人が海と山との交流を詳しく語っていた。それが,宮本常一『塩の道』である:
塩の道 (講談社学術文庫 (677)) 宮本 常一 講談社 1985-03-06 売り上げランキング : 15950 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
かつて,海沿いの主要な産業として製塩があった。製塩には莫大なエネルギーが投入されたが,それは山から薪として供給された。山中では塩が取れないため,海沿いから塩を購入する。こうして海のコミュニティと山のコミュニティとの交流が生じるわけである。
『塩の道』によれば昭和18年ごろの岐阜の山中で,薪を伐ることを「塩木をなめる(塩を焼くための薪を伐る)」と言っていたという。薪が製塩の燃料として重要だったこと,海と山との結びつきの強さを思わせる言葉である。
◆ ◆ ◆
宮本常一『塩の道』は,エネルギー供給源としての里山の重要性を教えてくれる本だが,そもそも里山とは何のことか,そしてそれは日本の歴史の中でどのように発展してきたのか,さらにどのように衰亡してきたのか,里山の役割と歴史について詳しく教えてくれるのが,次の2冊である:
里山〈1〉 (ものと人間の文化史) | |
有岡 利幸 法政大学出版局 2004-03 売り上げランキング : 595980 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
里山〈2〉 (ものと人間の文化史) 有岡 利幸 法政大学出版局 2004-03 売り上げランキング : 596263 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は岡山県出身の林業の専門家。1956年から1993年まで大阪営林局に勤めていた。
『里山〈1〉』の方は縄文時代から江戸時代までの里山の歴史を,『里山〈2〉』の方は近世以降の里山の歴史を描いている。著者の業務経験がベースになっているので,中国地方の里山に関する記述が詳しい。
藻谷浩介+NHK広島取材班『里山資本主義』では里山の利用に日本の未来を見ているが,ちょっとバラ色過ぎる面がある。そもそも里山はなぜ,どのようにして衰退していったのか,そのことを認識しないと,バイオマスに過剰な期待を抱いてしまうことになる。やはり,『里山〈2〉』の第七章で描かれている,高度経済成長期に始まった里山衰退のプロセスをしっかり理解した上で里山の再生について考えていく必要があるだろう。
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さて,最後に一冊。地域に根差すということを文化的というよりもより根本的なレベル,地形,地質,土木のレベルで理解させてくれる本が最近出た。
「流域地図」の作り方: 川から地球を考える (ちくまプリマー新書) 岸 由二 筑摩書房 2013-11-05 売り上げランキング : 4050 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
地域と言ったとき,我々は地図上の地域で考えてしまう。しかし,川,つまり人間にとって生命にかかわる最も重要な物質である水の流れという根本的なものによって,自分のいる場所を認識してみようという試みがここに記されている。
地域・環境・エネルギーに関する問題を,最も基本の物理的レイヤーで見直すことを考えさせてくれる本である。
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