「再死 (punarmrtyu)」の発見
ここしばらく, J.ゴンダ (Jan Gonda, 1905-91)の『インド思想史』を読んでいたわけである。
紀元前1200年頃の『リグ・ヴェーダ』の成立に始まり,紀元前800~前600年のブラーフマナ文献の主要部分の成立,紀元前5世紀頃のジャイナ教,仏教の誕生を経て,紀元5世紀以降のヒンドゥー教(インド教)の隆盛までをコンパクトにまとめた書籍である。
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インド思想にはもちろん様々なバリエーションがあるわけだが,基本的に次のような内容に立脚していると言ってよい。
- 宇宙の根本原理としての「梵 (brahman)」の存在
- 人を含めた生物全てが延々と生死を繰り返すという輪廻 (samsara)の思想
- 輪廻からの解脱が宗教の最高の目的
『インド思想史』の第6章「仏陀」によると,仏陀自身は梵や輪廻の存在を肯定も否定もしない不可知論の立場をとっており,あらゆる体験の停止,すなわち涅槃に至ることによって解脱することを説いたようであるが,その後の仏教思想の発展をみると,結局はインド思想の範疇に戻っていったように思われる。
それはさておき,本記事で話題にしたいのは輪廻思想の誕生である。
この考え方が誕生する前段階として「再死 (punarmrtyu)」の思想があったというのが本書を読んで初めて知ったことである。
インド以外の古代文明では,人は死んだ後,適切な葬送儀礼を経て,あの世(天国,来世等)に生まれ変わり,永遠に生き続ける,という考え方があった。例えば,エジプトなんかそうである。
ところが,インドではブラーフマナ(文献)時代になると,あの世での生活も永遠には続かないかもしれない,あの世でもまた死ぬかもしれない,という「再死 (punarmrtyu)」の思想が生じたようである。
ゴンダは「再死」の思想から「輪廻」の思想に至った理由は明らかでないと述べているが,小生などが見たところ,ごく自然に展開していったのではないかと思われる。二度あることは三度ある,三度あることは……という具合に。
小生としてはどちらかというと「再死 (punarmrtyu)」の思想が生まれたこと自体が驚きである。このあたり詳しく研究した人はいないものか?
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コメント
集合論を使った自然数の定義を連想しました。発想方法が数学的というか・・
もちろん発想の端緒は不安や恐怖なんでしょうけれど。
投稿: 拾伍谷 | 2013.12.18 16:32