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2013.11.15

『論語』のどの部分が孔子のもともとの発言を伝えているか?―『論語』原典批判

孔子はイエスやソクラテスと同じく自らは著作を残さなかった。

『論語』は儒教の根本を成す孔子の言行録とされるが,『論語』は成立までに長い年月を経ており,孔子以降の様々な思想家の考えが反映されている。

孔子の本当の声を聴きたいと思えば,『論語』の資料的検討を行わなければならない。

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白川静『孔子伝』の中で,『論語』の内容を8つに分類している。

資料種別内容
第一資料孔子亡命中の言行。
第二資料子貢関係の記述。孔子の没後,六年服喪し孔子の塚を守った子貢がまとめたものと考えられる。
第三資料子游,子夏,子張の語録。これら三者によって始まった学派は互いに対立関係にあり,『論語』の中に子游,子夏,子張の発言を残すことによって,学派の正当性を位置づけようとした。
第四資料曾子学派によるもの。
第五資料「郷党篇」ほか孔子の日常を規範としようとする意図を持つ,儀礼的記述が多いもの。
第六資料「季氏篇」ほか「稷下の学」を経たと考えられる資料。斉の儒家の手になると考えられる。
第七資料堯舜禹など古代の聖王の説話。
第八資料「微子篇」の逸民的説話。南方の儒者が加えたものと考えられる。荘周学派との関係が示唆される。

白川静『孔子伝』では,原資料の批判的検討の一例として孔子が伯夷・叔斉について述べた条を検討している(『孔子伝』273~276頁)。

これによれば,「公冶長篇」における伯夷・叔斉に関する孔子の発言は第一資料であり,「述而篇」における伯夷・叔斉に関する孔子の発言は第二資料であると推測されている。

『論語』は儒教各学派の論争によって改変が行われていると考えられ,「とても,安心してよめるものではない」(白川静『孔子伝』277頁)。


  ◆   ◆   ◆


『論語』の成立に関する問題は昔から検討されている。

吉永慎二郎氏は,「孔子の仁とは何か(上)」(※)の冒頭部分で「『論語』の中から孔子の真を伝えるテキストを選定する」という問題に関する,伊藤仁斎,竹内義雄,津田左右吉,木村英一の見解を紹介している。

(※)秋田大学教育学部研究紀要,人文科学・社会科学部門,vol.52, pp.1-16, 1997年

そして,竹内,木村の両説をもとに次のような見解を示している:

「孔子の言葉を伝える最も古い資料として両者の見解の重なり合うのは,上論十編のうち為政・八佾(イツ)・里仁・公冶長・雍也・述而の六篇である。したがってこれら六篇は『論語』中の最も古層のテキストと認定して大過ないであろう。」(吉永慎二郎「孔子の仁とは何か(上)」)

「篇」を単位として検討すると,こういう結論に至るらしい。

しかし,先ほどの白川静の説では,「公冶長篇」伯夷・叔斉関連部分は第一資料,「述而篇」伯夷・叔斉関連部分は第二資料,という話である。吉永氏が等しく最古層のテキストとみなした「公冶長篇」と「述而篇」の中でも条ごとに点検すると,まだ成立時期の違いが現れそうである。

『論語』についてはまだまだ原典批判を続ける必要があるようだ。

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