巫祝(シャーマン)の系譜に連なる孔子: Confucius in a genealogy of shamans
白川静『孔子伝』によれば,孔子は巫祝(ふしゅく)の伝統を受け継いだ人物である。巫とは女性,祝とは男性のシャーマンである。
『史記・孔子世家』によれば,孔子は士大夫の男・叔梁【糸乞】(しゅくりょうこつ)と顔徴在の野合によって生まれたという。野合とは正規の結婚を経ずに生まれたということである。『孔子家語』等を手掛かりに,顔徴在は顔氏の末娘であり,家の祭礼を司る巫女だったのであろうと白川静は述べる。巫女に男女関係は禁物である。ゆえに,顔徴在が孔丘すなわち孔子を生んだことは野合と見なされたというわけである。
儒教の「儒」という文字の旁(つくり)である「需」は雨乞いをするシャーマンを描いたものだという。
儒教の最重要テキストの一つである『論語』には葬礼に関する記述が多いが,それもそのはず,儒教とは葬礼を司った巫祝の伝統を受け継いだものだからである。
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孔子が野合の結果生まれた子供だったとしても,それはなんら孔子を貶めることにならない。巫祝の系譜に連なる孔子はやがて偉大な思想家として立ち上がることとなる。
孔子は巫女の子であった。父の名も知られぬ庶生子であった。尼山に祈って生まれたというのも,世の常の事ではなさそうである。あのナザレびとのように,神は好んでそういう子をえらぶ。孔子は選ばれた人であった。それゆえに世に現れるまでは,誰もその前半生を知らないのが当然である。神はみずからを託したものに,深い苦しみと悩みを与えて,それを自覚させようとする。それを自覚しえたものが,聖者となるのである。(白川静『孔子伝』56頁)
さて,ここで急展開。孔子および儒教のシャーマニックな側面を強調していくとどうなるかというと,諸星大二郎『孔子暗黒伝』に結実する。
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この作品の中で,孔子の発言の多くは『論語』に依拠しているが,元の文脈から切り離されて自由にコラージュされ,別の意味を孕むようになっている。
『孔子暗黒伝』では孔子と陽虎との対立が一つの重要な柱となっているが,白川静『孔子伝』でも,孔子は生涯のほとんどにわたって,陽虎の幻影に翻弄され続ける。陽虎については稿を改めて書くことにする。
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