江戸芸術再評価の件
昨日の記事では,山口県立美術館で公開中の狩野一信「五百羅漢図」全100幅を紹介したが,江戸芸術の再評価はまだ緒についたばかりであると言えよう。
狩野一信が命がけで取り組んだ「五百羅漢図」を再発見し,世に広めているのが明治学院大学の山下裕二先生である。山口県立美術館で購入した「五百羅漢図」図録所収の山下裕二先生の文章を読んでいたら,山下裕二先生は辻惟雄先生の門下であることが判明した。むべなるかな。
辻惟雄先生は1970年に『奇想の系譜-又兵衛,国芳』を世に送り出し,江戸芸術の再評価を開始した。
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この頃はまだ火が付いていなかったのだが,徐々に岩佐又兵衛,伊藤若冲,曽我蕭白,歌川国芳らが世人の評価を受けるようになる。
小生は若冲の手の込んだ作品群も好きだが,岩佐又兵衛の濃すぎる作品群も好きだ。「豊頬長頤(ほうぎょうちょうい)」と言われる極端な人物造形が特徴。
岩佐又兵衛は古田織部が主人公の茶道漫画『へうげもの』にも準レギュラー的に登場している。岩佐又兵衛の父は,織田信長を裏切って一族郎党を処刑された荒木村重である。
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岩佐又兵衛の業績をコンパクトにまとめた本としては,やはり辻惟雄先生による『岩佐又兵衛―浮世絵をつくった男の謎』 (文春新書)がある。これは岩佐又兵衛の全貌について知ることができる良い本である。
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狩野一信はこれまでほとんど知られていなかった画家だが,山下裕二先生によって,江戸の偉大な芸術家の系譜に加わることとなった。
狩野一信畢生の大作「五百羅漢図」の凄さは直接見ないとわからない。今回の展示を逃すと「五百羅漢図」全百幅を見る機会は当分ないのではないかと思われる。山口県民はすぐにでも県立美術館に行くべきである。西日本の人々も。
遠方に居て山口県立美術館に行く機会のない人には,豪華本『狩野一信 五百羅漢図』があるが,これはちょっと高すぎて手が出ないかもしれない。デルタやモンブランの万年筆が買えるぐらい高い。
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ちょっとだけ見てみたいという人は公式ホームページ:http://www.500rakan.comを覗いてみるとよい。
もっと手短に知りたい人は「ぶらぶら美術・博物館」の第33回のページを見てみるとよい。そこでは2011年の江戸東京博物館における展示の内容が取り上げられている。
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