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2013.09.19

渡邊大門『秀吉の出自と出世伝説』を読む

昨日から渡邊大門『秀吉の出自と出世伝説』(洋泉社 歴史新書y)という本を読んでいるのだが,面白い。

本書のカバーのそでに書いてあるように,秀吉の生涯は出自との戦いだった,というのが本書の全体を貫く主張である。

秀吉の出自と出世伝説 (歴史新書y)秀吉の出自と出世伝説 (歴史新書y)
渡邊 大門

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ただし本書では,最近の研究で主張されているように,秀吉の出自を過度に「非農民」とか「商工民」とか「河原ノ者」とかに結び付けることはしていない。

秀吉を被差別民と見る主張の中で特に有名なのは,服部英雄『河原ノ者・非人・秀吉』( 山川出版社)である。

河原ノ者・非人・秀吉河原ノ者・非人・秀吉
服部 英雄

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しかし,本書の著者は,こういった主張は一考に値するとは述べているものの,根拠となっているのが状況証拠だけであるとして,同意してはいない。

いろいろな文献を検討した結果,著者が主張するのは,単純に

秀吉は貧しい百姓の息子だった

ということである。

秀吉の破格の出世の原因を出自の特殊性に求めるのは話として面白いが,無理がある。確実に言えることだけを集約して提示するところに,この著者の歴史家としての良心を見る。

著者は秀吉の立身出世の原因を,根気努力改善思考上昇志向といった秀吉自身の性質に求めている。他者の何十倍もの努力を続けることによって,出自の低さをものともせず関白へと出世を遂げていったということである。


  ◆   ◆   ◆


とはいえ,秀吉は出自を常に気にしていた。

若い頃,貧しさゆえに家を出て食い扶持を求めて諸国を渡り歩いていたことや,薪売りをしていたことなどは,秀吉自身も語っていることであるし,天下万民の知るところであった。

加えて異様な容貌や多指症(六本指)であることも,周囲・本人ともに強く認識するところであった。

秀吉は家臣に対し,これらのハンディキャップにも関わらず立身出世したことを述べ,自身の能力の高さを誇ることがたびたびあった。

その一方で,自分は帝のご落胤であるとか,日輪の子であるとか,御伽衆を通じて様々な説を流布し,出自の書き換えを試みたりした。


本書では,合戦時や処罰時に見られる秀吉の残虐性も「出自との戦い」という切り口で説明して見せている。

秀吉は流血を避ける戦をしていたようによく言われているが,著者によれば,秀吉は合戦時においては敵に惨い死を強いている。

これは主君信長の戦い方によく似ている。そのぐらい激しい戦いぶりをアピールしなければ,秀吉は高い身分の同僚たちに埋没してしまい信長の目に留まらない。ハンディキャップを埋めて余りある,オーバーキルをせざるを得ない。それが秀吉の努力,ということである。

著者が述べているように,やはり秀吉の生涯は出自との戦いだったという認識を強くせざるを得ない。

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