オバマの中東戦略失敗と日本のシリア介入支持
オバマ大統領の中東戦略は失敗であると断定するのが,この記事である:
「【オピニオン】失敗に終わった米国の中東大戦略」(by WALTER RUSSELL MEAD, WSJ日本語版,2013年8月26日)
シリア情勢だけでなく,イスラエル,エジプト,トルコ,サウジアラビア,イラン,イラク,アフガニスタンと広範囲の米中東戦略の構図について簡潔に解説してくれる。
同記事によれば,オバマ大統領と民主党リベラル派は,穏健派のイスラム主義集団(トルコの公正発展党(AKP)やエジプトのムスリム同胞団)をパートナーとして中東の民主化を進めようとしていた。しかし,それは失敗に終わったという話である。
第1の失敗は,穏健派のイスラム主義集団というのが,力量不足だったということ。とくにエジプトではモルシ大統領は経済を混乱させ,市民が自ら民主政治を捨て,軍によるクーデターを支持することとなった。
また,従来の中東戦略上のパートナーであるイスラエルとサウジアラビアを怒らせたというのも大きな過失である。
スンニ派の盟主たるサウジアラビア(サウジアラビアの国教であるワッハーブ派はスンニ派においてもっとも厳格な宗派)にとっては,ムスリム同胞団は目障りな存在である。それを米国が支持するとはどういうことかと。また,カタールおよびそのメディアである「アルジャジーラ」が「アラブの春」を煽ったのも目障りなことである。エジプト軍によるクーデターをサウジアラビアがひそかに支援したのはムスリム同胞団,カタール,米国に一矢報いるためであった・・・
オバマ大統領はシリアに早期に介入するべきであったが,時期を逸した。結果として内戦の被害は拡大し,また,ロシアとイランのプレゼンスが向上し,アメリカの威信は傷ついた・・・
ということで,現在の中東政策は失敗という結論である。しかし,オバマ大統領にはまだ41か月もの任期がある。オバマ大統領は政策を転換するべきだ,というのが,この記事を書いたミード教授の意見である。
日本の新聞もこのぐらいの解説&オピニオン記事を載せてもらいたいものだが,結局ネットで日本語で読めるからまあいいか。
◆ ◆ ◆
「失敗に終わった米国の中東大戦略」を読んであらためて気が付いたのが,カタールの暗躍(というかあからさまな跳梁)。
シリア内戦ではカタールが反政府勢力を支援している。カタールのメディア「アルジャジーラ」は「アラブの春」の拡大に貢献したわけだが,「アラブの春」が飛び火して,現在のシリア内戦が始まったわけである。深謀遠慮があるのかないのかよくわからないが,とにかく,カタールは中東における旧来の秩序をひっくり返そうとしているようだ。アメリカはカタールの罠にはまって,カタールとともにアサド政権を倒さざるを得ない状況に陥っている。
◆ ◆ ◆
いま現在,米国によるシリア介入の可能性が高まっている。
オバマ大統領はかつてのブッシュ政権によるイラク戦争を「単独行動主義」と非難してきた。そこで,今回はイギリスやフランスなど中東に縁の深い国々と連携してシリアに介入しようと考えたわけである。しかし,イギリスは議会の反対を受け,脱落。オバマ大統領の目論見が崩れ始めた。
このオバマ大統領の窮乏を救うかもしれないのが日本である。軍事介入に参加はしないだろうが,窮乏している人に「一人じゃないよ」と声をかけるのは意義深い。
亡き安倍晋太郎が中東和平に尽力したことを思うと,息子の安倍ちゃんがシリア介入に支持表明するのは複雑な感じがする。だが,現在の日中韓対立を考えると,アメリカとの協力関係を強めておかないとまずいという気もする。そうすると,米国の中東戦略の失敗に巻き込まれることを覚悟の上で,日本は支持を表明せざるをえないということか。
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