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2013.09.28

『エリジウム』の語源は?

映画『エリジウム』を見てきたわけだが,「エリジウム」とは何か?

これはラテン語で,Elysiumと綴る。善人が死後暮らすという理想郷,極楽浄土のことである。

映画では英語風に「エリジアム」と発音していた。

もともとはギリシャ語でエーリュシオンといい,Ηλυσιονと綴った。

フランスのシャンゼリゼもエリゼ宮(大統領府)もこれに由来する。


  ◆   ◆   ◆


さて,インターネットを見まわしてみると,本家のHuffington Post紙上にこういう評論が出ていた:

"Elysium Is the New V for Vendetta" (by William Horden, Aug. 27, 2013, Huffington Post)

著者のウィリアム・ホーデンはフューチャリスト(futurist,未来派主義者というか未来学者というか予見者というか)であり,こんな本を出している:

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ウィリアム・ホーデンによれば,『エリジウム』は現代社会が直面している様々な問題を観客に見せているのだという。それらはどういうものかというと,こういうものである:

  1. Identity vs Humanity: 法的根拠と人間性
  2. Class vs Equality: 階級と平等性
  3. Security vs Justice: 治安と正義
  4. Technology vs Environment: 科学技術と環境
  5. Poverty vs Health: 貧困と健康

で,ウィリアム・ホーデンは未来学者フューチャリストらしく,最後に次のような対立項があると述べている:

  • Status Quo vs Re-Boot: 「現状維持」か「リブート」か

ジョディ・フォスター演じるデラコート防衛長官がクーデターのために準備した「リブートプログラム」は,反対側の人間であるマックス(マット・デイモン)の手に落ちる。ここで,「リブートプログラム」は政権奪取の手段ではなく,新世界秩序構築のための手段に変わる。

ウィリアム・ホーデンはここにこの映画最大の主題があるという。すなわち:

Do we allow the status quo to continue indefinitely or we find a way to re-write the social contract binding people everywhere?
(いつまでも現状維持を許すのか,それとも人々を拘束している社会契約を書き換える道を探すのか)

ということである。

ウィリアム・ホーデンの記事に対しては読者が熱心にコメントし,それに対し,ウィリアム・ホーデンもまた回答するという好循環が展開され,米本土では本映画の解釈で盛り上がっております。


  ◆   ◆   ◆


と,ここまで書いたところで夕飯を食べ,録画しておいた「あまちゃん」の最終回を見た。

頭を冷却したところでさらに続きを書く。

ウィリアム・ホーデンの記事を読むとやはり『エリジウム』にはメッセージが込められているかのように思われるのだが,先日から引用している"WIRED Vol.9"を読む限り,やはりメッセージは無いのでは,と思われる。

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同誌では主演のマット・デイモンのインタビュー記事もあるのだが,その一部を引用しよう:

(インタビュアー) 経済格差,医療制度へのアクセス,移民といった世界のさまざまな問題を扱った映画でありながら,監督は『エリジウム』を夏休み向けの娯楽映画=「ポップコーン・ムーヴィー」と呼んでます。これはどういう意味なんでしょうか?
(マット・デイモン) 彼は,メッセージ映画ってものを信じていないんだ。まったくね。加えて,この映画はそうした問題に何らかの解決策を授けているわけでもないしね。 <中略> 優れたSFというのは,違った世界をつくり上げて,そのレンズを通して,いまぼくらが生きている世界を語ることができるっている点だと思う。何にせよ,彼は解決策は提示しないし,彼はこの世の行く末に関してはとんでもなく悲観的だからね。("WIRED Vol.9, 33ページ")

現代社会にも通じる問題を示すということがメッセージだとすれば,娯楽性を犠牲にせずにそのメッセージを届けている点では,この映画は成功している。しかし,それはメッセージというものではないと思う。それは細部まで行き届いたビジョン(幻視)であると思っている。

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コメント

なるほど。丁寧なフォローありがとうございました。
「マクガフィン」と言う言葉がありますね。ヒッチコックの映画「汚名」は、南米にあるナチスの組織と対決するアメリカの情報員の話なのですが、実際のところ二人の男と一人の美女の関係を描いた物語となっており、観客の最大の関心もそちらにあるわけです。「ワインの瓶に隠されたウラニウム」それは三角関係を盛り上げるための「マクガフィン」・・・
そのことを思い出した次第。

私が「エリジウム」と聞いて連想したのはシラー/ベートーヴェンによる「歓喜に寄す」でした。この詩も深読みすればいろいろ解釈できそうなものではあります。

投稿: 拾伍谷 | 2013.09.29 01:44

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映画「エリジウム」★★★☆マット・デイモン、ジョディ・フォスター、 シャールト・コプリー出演 ニール・ブロムカンプ監督、 109分、2013年9月20日より全国公開 2013,アメリカ,ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (原題/原作:エリジウム ) 人気ブログランキングへ">>→  ★映画のブログ★どんなブログが人気なのか知りたい← 全米では初登場首位 6週ベストテンに食い込ん... [続きを読む]

受信: 2013.10.03 07:35

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