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2013.09.23

亡くなってひと月:谷川健一『日本の神々』を読む

先月24日,民俗学者の谷川健一が死去した。平凡社の雑誌「太陽」の初代編集長であり,民俗学者である。近大教授を務めたこともあるが,基本的には学会と距離を置いた在野精神の強い人物だった。

柳田國男や折口信夫らの学問を批判的継承しているのだが,その研究姿勢は両者を彷彿とさせるものがある。とくに,研究成果をもとに小説を手掛けたあたりは折口信夫によく似ている。どんな小説を書いたのかについてはあとで触れる。

今回紹介する本は谷川健一『日本の神々』(岩波新書)である。

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小生はこれまで古事記にまつわる新書や文庫本を数々紹介してきた:

関和彦『古代出雲への旅』は小村和四郎という幕末の人物が出雲地方の古い神社を巡ったときの紀行文を紹介した本で,他の本とは毛色が違うが,他の本はすべて古事記を中心に据えた本である。

谷川健一『日本の神々』がこれらの本と違うところは,古事記に描かれた神々の世界ではなく,より前,つまり弥生の初めから記紀が成立する8世紀までの1200年という遥かな昔にあった神々の世界にアプローチしようというところである。

工藤隆の言葉で言えば,「古代の古代」に迫ろうとしている。そして,神社,神事,地名を手掛かりとして論考を進めているところに本書の特徴がある。というかこのやり方こそ民俗学の正当なアプローチと言えるのかもしれない。

古事記を読んでいると,アマテラスやスサノオやオオクニヌシのような人格神にばかり目が行ってしまうが,八百万の神々の多くはモノやコトにまつわる神々である。草木虫魚,万物に神が宿っているのである。

谷川健一が本居宣長の定義を引いて述べているように日本人にとっての神(カミ)とは「可畏(かしこ)きもの」全てなのである。現在でも人々の日常生活や会話の中にも登場する様々な神々の姿を紹介するのが第1章「神・祖霊・妖怪」である。

神々の中には人間に祟りなすものも大勢いた。この世は昼は人間の世界だったが,夜は神々の跳梁跋扈する世界だった。その状況が一変するのが記紀に言う天孫降臨である。邪神とされた神々は追われて流竄の身となった。それを描くのが第3章「流竄の神々」である。

著者の引く事例は日本全国に渡るが,とくに沖縄を中心とする南島の事例が多いことも本書の特徴である。なにしろ,日本文学の源流を沖縄などの謡にもとめた「南島文学発生論」で名を挙げた人物なんだから,そりゃ当然。


  ◆   ◆   ◆


本書のあとがきで著者は

「あとで気が付いてみると書き落としているものもある」(217頁)

と述べている。それは

「姉妹が兄弟の守護神となる『オナリ神の信仰』」(同頁)

のことである。

著者はかつて,このオナリ神の信仰と八重山の身売り制度とをもとに『海の群星』という小説を書いた。

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この小説はNHKのドラマともなり,当時,全日空・沖縄キャンペーンガールとして注目を浴びた石田ゆり子の初主演ドラマとなった(参考)。

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コメント

亡くなられていたとは迂闊にも存じておりませんでした。
実は谷川さんの本はほとんど手にしたことなく、民俗学と言えば柳田折口両巨頭の代表的なものを斜め読みした程度。勉強が足りないようです・・・

NHKのドラマは懐かしいですね。今思えば全日空の沖縄キャンギャルで「海の群星」とは些かやりすぎだろって感じもしますが。石田さんの初々しい魅力がそれをカバーして余りあったと記憶しています。緒方拳さんもよかったですね。

投稿: 拾伍谷 | 2013.09.23 21:02

小生が谷川氏のことを知ったのは,まずドラマ「海の群星」の原作者としてであって,民俗学者であるという認識はそのあとでした。「太陽」の編集長だったことを知ったのはさらにあとであって,いわば普通とは逆の順番で経歴を知ったわけです。

かえって変な先入観を持たなくて済んだと思っております。

故緒方拳の演技はさすがですね。まだ実力の無い若手俳優の魅力をうまく引き出すことができていると思います。

投稿: fukunan | 2013.09.23 22:18

そう言えば遥かに昔、貴兄のお宅で太陽見せてもらった覚えあります。なんてハイブロウな一家だろうと思った記憶がw

網野善彦は少しだけ読んでいたことがあり「蒙古襲来」は、実を申しますと私のもっとも好きな歴史書なのですが、この辺りの話またゆっくりできたらと思います。

投稿: 拾伍谷 | 2013.09.25 01:24

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