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2013.09.17

『現代オカルトの根源―霊性進化論の光と闇』を読む

インドネシア出張の往路・復路で読んだのがこの本である:

大田俊寛『現代オカルトの根源―霊性進化論の光と闇』(ちくま新書)

現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇 (ちくま新書)現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇 (ちくま新書)
大田 俊寛

筑摩書房 2013-07-10
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著者は1974年生まれ。本来はグノーシス主義の専門家だが,現代宗教論にも関わっているそうである。

凄い本である。

ブラヴァツキー夫人,リードビーター,ルドルフ・シュタイナー,ランツ,ローゼンベルク,エドガー・ケイシー,アダムスキー,ホゼ・アグエイアス,デーヴィッド・アイク,本山博,桐山靖雄,麻原彰晃,高橋信次,大川隆法,…。錚々たる近現代の宗教家たちの思想を「霊性進化論」という切り口によって,わずか新書一冊で見通せるようにしたのは見事な仕事としか言いようがない。

小生より若い世代が立派な本を書くようになってきたものだと感心した。

むかし,オカルト思想に占める北極,南極という地球の「極」の意味を研究したジョスリン・ゴドウィンの『北極の神秘主義』という本を読んだが,本書の場合は「霊性進化」という切り口で,オカルトや新宗教にアプローチしている。

北極の神秘主義―極地の神話・科学・象徴性、ナチズムをめぐって北極の神秘主義―極地の神話・科学・象徴性、ナチズムをめぐって
ジョスリン ゴドウィン Joscelyn Godwin

工作舎 1995-09
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  ◆   ◆   ◆


本書の最重要キーワードは「霊性進化」である。人間の本質は「霊体」であり,輪廻転生を繰り返しながら霊体の性質,つまり「霊性」を進化させていくことが人生の目的だとする考え方である。

霊性進化の果てに,人間は神人に至るわけだが,進化の途中で堕落する者もあらわれる。それは物質主義的価値観に束縛された人,もっとくだけた言い方では感情のおもむくまま欲望に耽る獣人に退化する。獣人になったものは,他者の霊性進化を妨げようとし,ここに神人側と獣人側の対立と言う二元論的世界観が成立する。

輪廻転生や善悪二元論は昔から様々な宗教の中に見られた考え方であるが,「霊性進化論」は,近代以前の宗教にはなかった「進化」概念が明確に示されている点で,近現代ならではの思想であると言える。


  ◆   ◆   ◆


著者は霊性進化論の位置づけを次のように述べている:

霊性進化論とは,近代において宗教と科学のあいだに生じた亀裂に対し,その亀裂を生み出す大きな原因となった「進化」という科学的概念を宗教の領域に大胆に導入することにより,両者を再び融合させようとする試みであったと理解することができる。(本書245頁)

だからこそ,物質文明に疑問を持ち,伝統的宗教には飽き足らない人々には「霊性進化論」が魅力的に見えるわけである。

しかし「霊性進化論」には正負両面がある。研鑽によって自らの霊性を高めようとすること,これ自体は正の側面である。これに対する負の側面として著者は次の3つを示している:

(1) 霊的エリート主義の形成
(2) 被害妄想の昂進
(3) 偽史の膨張

ナチズムやオウム真理教はこうした負の側面が強烈に表れ,破滅を迎えた事例であるといえるだろう。

著者は「おわりに」において,霊性進化論を生み出す原因となった,宗教と科学の間の亀裂は,未解決の問題として我々の前に提示されている,ということを述べて本書を閉じている。

小生は,この問題に対しては,今後も様々なバリエーションを生み出しながら「霊性進化論」が有力な解として存在し続けるのではないかと思っている。

科学者にせよ,伝統的宗教家にせよ,物質世界と精神世界とで担当領域を完全にすみ分けており,両者を統合する説得力ある世界観を提示しているようには思えないからである。

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コメント

オカルトは昔とった杵柄・・と言うわけではありませんが、なにやら興味深い話題ではありますね。

フランス、イギリスのオカルティズムはほぼエリファス・レヴィに端を発すると言われますが、彼は若き日に盟友フローラ・トリスタンを通しフーリエ(ジョゼフではなくシャルルの方)主義などの影響をかなり蒙っておりました。
フーリエはニュートンやライプニッツなど近代を予告する先人の影響を受けており、ニュートンが偉大な科学者ある半面ちょっとアレな人だったことは有名な話。
社会主義の闘志であったレヴィが近代オカルティズムの始祖になることも合わせて考えるに、近代的合理主義とロマン派的オカルト主義の絡み合った様はなんとも面白く思われます。

ロシア派はロシア派でまた強烈なものがありますが、あちらも古代から続く伝承と言うわけでなく、近代の目を通して発掘されたオカルティズムという側面が強いのではないかと、フロレンスキーなど読むにつけ感じられます。

あと芸術の分野との絡みで言えば、シュルレアリズムにおけるレヴィたちオカルティストの影響はよく語られますが。ロシア構成主義(特に先駆者マレーヴィチのシュプレマティスム)も相当地元や西方のオカルトの影響含んでいるのではないかと思ったりもします。

取り留めもなく長くなってしまいました。ご容赦を。

投稿: 拾伍谷 | 2013.09.18 04:45

さすがですね。オカルティズムに関しては小生の及ぶところではありません。

メタな視点でオカルトの系譜を明らかにする,という作業は非常に重要なことだと思います。

投稿: fukunan | 2013.09.18 11:28

オカルティズムは優れて近代的な現象と思います。
なぜある時期にそれが生まれ爆発的に広がったのか、なぜさまざまな分野に影響を与え一部では現在もそうであるのか、おっしゃる通りメタな視点から(「遠く離れて」と言いましょうか)あれこれ思いを巡らすことはヒントに満ちた有意義なことではないかと思っています。

投稿: 拾伍谷 | 2013.09.18 15:17

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