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2013.09.30

釋迢空(折口信夫)『海やまのあひだ』は誰のために編まれたのか

釋迢空(折口信夫)の第一歌集『海やまのあひだ』の冒頭は次のように詞書を添えた一首から始まる:

大正十四年
この集を,まづ与へむと思ふ子あるに,

かの子らや われに知られぬ妻とりて,生きのひそけさに わびつゝをゐむ

「この集を,まづ与へむと思ふ子」とは,折口のもとを離れ,鹿児島に去り,妻をめとった教え子・伊勢清志のことである,というのが通常の解釈である。

「かの子ら」の「」というのがひっかかるが,富岡多惠子『釋迢空ノート』(岩波現代文庫)の「ノート3 恋」で引いた岡野弘彦の意見によれば,「ら」というのは複数の「ら」ではなく,愛称の接尾語ということである。

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しかし,中川曠人(上原曠人)『相聞 折口信夫のおもかげびと』を一読してしまった後では,そう簡単に考えることができなくなる。

中川曠人の母であり,折口信夫の許嫁だった上野ひでもまた,折口と別れ,折口の知らない夫と一緒になった人物だからである。「妻」と「夫」では全然違うではないか,という意見はごもっともだが,まあ聞いてください。

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まず,「」について再確認する。

大野晋・佐竹昭広・前田金五郎編『岩波 古語辞典』を引くと,接尾語「ら」について,つぎのようなことが書いてある。

(3) 複数を示す。尊敬を含まず,人を見下げたり,卑下したりする感じで使うことが多い。 (4) 事物を複数形で表現して婉曲にいう。

古語辞典の定義が絶対的なものとは思わないが,『岩波 古語辞典』の語義からは「かの子らや」の「ら」に愛称という意味合いが感じられない。むしろ語義(4)の婉曲表現としての「ら」である可能性を捨てがたく思う。

ある特定の人物を指しているようで,複数の人間たちを指しているようでもある,ぼやーっとした表現として「かの子らや」と言ったのではないかというのが小生の解釈である。

『海やまのあひだ』所収の大正八年・鹿児島の歌:

汝が心そむけるを知る。山路ゆき いきどほろしくして もの言ひがたし
叱りつゝ もの言ふ夜はの牀のうちに,こたへせぬ子を あやぶみにけり
わが黙(もだ)す心を知れり。燈のしたに ひたうつむきて,身じろかぬ汝(なれ)は

などに見える「汝」や「こたへせぬ子」は間違いなく,伊勢清志を指している。

しかし,

大正十三年・気多川の歌:

ふるき人 みなから我をそむきけむ 身のさびしさよ。むぎうらし鳴く

を読むと,「みなから」=「皆ながら」とはどういうことかと言う疑問が生じる。中川曠人(上原曠人)が述べているように,

「伊勢清志一人では<みながら我を……>とは言えないし,また教え子を<ふるき人・古い知己>と呼ぶのもふさわしくない。」(『相聞 折口信夫のおもかげびと』180頁)

富岡多惠子の解釈とも中川曠人の解釈とも一致しないが,小生としては,一つの折衷案としての解釈を示したい。

それは,

「かの子ら」とか「ふるき人」とか「汝」とか,釋迢空(折口信夫)が歌の中で思い浮かべている相手は,――ときによっては特定の人物として明確な像を結ぶこともあるが――折口と親しくしてきたにもかかわらず折口を裏切った(と折口は思っている)人々を重ね合わせた総体的・抽象的な人格なのではないか,

という解釈である。

そうすると,妻子を持っていた藤無染もまた,この総体的・抽象的人物に重ね合わせることができるだろうし,妻を持つことを家庭を持つという上位概念に置き換えれば,妻ではなく夫を持った上野ひでもまた,この総体的・抽象的人物の中に抱合される。


で,『海やまのあひだ』は誰のために編まれたのか,という疑問に対する答えだが,ここでは,折口のもとを去って行った者すべてのために,ということにしておきたいと思う。


……それにしても,家庭環境,人間関係をここまで穿鑿される折口信夫とはどういう人物なのだろうか。柳田國男や南方熊楠ではここまで追及されることは無い。

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2013.09.29

中川曠人『相聞 折口信夫のおもかげびと』を読む

明治四十一年 1908年 二十一歳
七月,進級し,特待生となる。十二月,国学院大学同窓会誌『同窓』を『新国学』と改称し,その編集に当る。この年か,上野ひで(遠縁)との縁談起こる。
(『文芸読本 折口信夫』(河出書房新社,1976年)所収,長谷川政春「折口信夫年譜」より)

折口信夫には上野ひで,という許嫁がいた。

折口信夫に関しては,とかく女性嫌い・同性愛者であったことが強調され,近年は藤無染(男性)という恋人の存在がクローズアップされている。

だが,女性嫌い・同性愛者といった単純な枠組みではとらえられないことを教えてくれるのが,許嫁・上野ひでの息子,中川曠人(上原曠人)の労作『相聞 折口信夫のおもかげびと』(花曜社,1985年)である。

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この本の存在を知ったのは,鳥居哲男『清らの人 折口信夫・釈迢空』(沖積舎,2000年)の第8章「秘められた女性への愛」を読んだときのことだった。

清らの人―折口信夫・釈迢空 「緑色のインク」の幻想
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鳥居 哲男

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同書では家族以外で折口信夫に影響を与えた女性として二人を挙げている。一人は女弟子の穂積生萩,そしてもう一人は上野ひでである。

『海やまのあひだ』に収められたいくつかの歌は折口信夫の愛弟子・伊勢清志のことを読んだものと解釈されている。

しかし,中川曠人が『相聞 折口信夫のおもかげびと』の中で綿密に検討した結果は違っている。「ふるき人」とは,上野ひでだったのではないかという結論に至っている。

折口信夫は晩年に至っても上野ひでのことを思い出していたふしがある。昭和23年に詠んだ歌,

幾百の咳病(しはぶきやみ)の中に見る 老いさらぼへる 古き恋人
いとほのかに 思ひすぎにしをみな子のうへを聞きけり。よろこびて聞く

など,「古き恋人」や「思ひすぎにしをみな子」に上野ひでを当てはめるとしっくりくるという。

鳥居哲男はこの本のことを

「精密に資料を掲げ,細やかな配慮で推理が進められていて,情愛深い,見事なサスペンスのような内容」(『清らの人 折口信夫・釈迢空』,212頁)

と評しているが,まさにその通りの本である。

鳥居哲男も言っているが,このサスペンスのクライマックスは折口信夫の日記の謎の空白を発見するところにある。

大正四年四月三十日。この日の日記は日付以外,空白として残されている。

この日は上野ひでの誕生日であった。上野ひではこの空白を発見した時,折口信夫の上野ひでに対する思いを確信した。

本ブログで書いてしまうと味気ないが,本書を冒頭からじっくり読むと,上野ひでの確信は間違いのないもののように思われてくる。

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2013.09.28

『エリジウム』の語源は?

映画『エリジウム』を見てきたわけだが,「エリジウム」とは何か?

これはラテン語で,Elysiumと綴る。善人が死後暮らすという理想郷,極楽浄土のことである。

映画では英語風に「エリジアム」と発音していた。

もともとはギリシャ語でエーリュシオンといい,Ηλυσιονと綴った。

フランスのシャンゼリゼもエリゼ宮(大統領府)もこれに由来する。


  ◆   ◆   ◆


さて,インターネットを見まわしてみると,本家のHuffington Post紙上にこういう評論が出ていた:

"Elysium Is the New V for Vendetta" (by William Horden, Aug. 27, 2013, Huffington Post)

著者のウィリアム・ホーデンはフューチャリスト(futurist,未来派主義者というか未来学者というか予見者というか)であり,こんな本を出している:

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ウィリアム・ホーデンによれば,『エリジウム』は現代社会が直面している様々な問題を観客に見せているのだという。それらはどういうものかというと,こういうものである:

  1. Identity vs Humanity: 法的根拠と人間性
  2. Class vs Equality: 階級と平等性
  3. Security vs Justice: 治安と正義
  4. Technology vs Environment: 科学技術と環境
  5. Poverty vs Health: 貧困と健康

で,ウィリアム・ホーデンは未来学者フューチャリストらしく,最後に次のような対立項があると述べている:

  • Status Quo vs Re-Boot: 「現状維持」か「リブート」か

ジョディ・フォスター演じるデラコート防衛長官がクーデターのために準備した「リブートプログラム」は,反対側の人間であるマックス(マット・デイモン)の手に落ちる。ここで,「リブートプログラム」は政権奪取の手段ではなく,新世界秩序構築のための手段に変わる。

ウィリアム・ホーデンはここにこの映画最大の主題があるという。すなわち:

Do we allow the status quo to continue indefinitely or we find a way to re-write the social contract binding people everywhere?
(いつまでも現状維持を許すのか,それとも人々を拘束している社会契約を書き換える道を探すのか)

ということである。

ウィリアム・ホーデンの記事に対しては読者が熱心にコメントし,それに対し,ウィリアム・ホーデンもまた回答するという好循環が展開され,米本土では本映画の解釈で盛り上がっております。


  ◆   ◆   ◆


と,ここまで書いたところで夕飯を食べ,録画しておいた「あまちゃん」の最終回を見た。

頭を冷却したところでさらに続きを書く。

ウィリアム・ホーデンの記事を読むとやはり『エリジウム』にはメッセージが込められているかのように思われるのだが,先日から引用している"WIRED Vol.9"を読む限り,やはりメッセージは無いのでは,と思われる。

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同誌では主演のマット・デイモンのインタビュー記事もあるのだが,その一部を引用しよう:

(インタビュアー) 経済格差,医療制度へのアクセス,移民といった世界のさまざまな問題を扱った映画でありながら,監督は『エリジウム』を夏休み向けの娯楽映画=「ポップコーン・ムーヴィー」と呼んでます。これはどういう意味なんでしょうか?
(マット・デイモン) 彼は,メッセージ映画ってものを信じていないんだ。まったくね。加えて,この映画はそうした問題に何らかの解決策を授けているわけでもないしね。 <中略> 優れたSFというのは,違った世界をつくり上げて,そのレンズを通して,いまぼくらが生きている世界を語ることができるっている点だと思う。何にせよ,彼は解決策は提示しないし,彼はこの世の行く末に関してはとんでもなく悲観的だからね。("WIRED Vol.9, 33ページ")

現代社会にも通じる問題を示すということがメッセージだとすれば,娯楽性を犠牲にせずにそのメッセージを届けている点では,この映画は成功している。しかし,それはメッセージというものではないと思う。それは細部まで行き届いたビジョン(幻視)であると思っている。

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岩国錦帯橋空港のインパクト:広島空港は月1万人の旅客を失った

岩国錦帯橋空港が昨年12月にオープンして好評だと聞いている。東京~岩国間の座席利用率は12月~3月の平均で66%とわりと好調である。

で,隣接する広島空港へのインパクトを調べるべく,国土交通省の航空輸送統計調査年報を見てみたのだが,結構衝撃的な結果が判明した。

下の図は東京~広島線と東京~岩国線の平成23~24年度の月別の旅客数をプロットしたものである。

Impactofiwakuni01

西日本には直接の被害がなかったとはいえ,平成23年度は大震災が起こった年である。平成24年度は日本の社会・経済が震災から回復に向かっている年なので,平成24年度の方が旅客が増えるべきである。

にもかかわらず広島空港では2012年12月以降,東京~広島線の旅客が各月とも前年比1万人程度減少している。

これは岩国錦帯橋空港のオープンによって,広島空港が東京~広島線の旅客を岩国錦帯橋空港に奪われたことを表していると見てよいだろう。

そもそも広島空港は人里離れた山間部にあり,広島市内からの移動は不便極まりない。広島市の西側に住む人々にとっては岩国錦帯橋空港の方が(時間帯さえ合えば)便利だという話はよく聞く。観光に関しても宮島観光をしたい人々にとっては錦帯橋とセットになる方が便利なわけである。

で,わが山口宇部空港へのインパクトはというと微妙に影響があったようである。

下は山口宇部空港・東京~宇部線の旅客数を示したものである。

Impactofiwakuni02

全体的に見れば平成24年度の方が平成23年度よりも旅客数が多いが,2013年1月~3月は若干減少している。山口県内でも周南市以東の人々にとっては岩国錦帯橋空港の方が近いので,そちらに移ってしまったのだろう。

今のところ,岩国錦帯橋空港は1日4便だけ東京行の便がある。採算性の点でこれがちょうどいいのかもしれないが,便数はそのままで現在のエアバスA320とかボーイングB737-800よりも座席数の多い機体を導入したり,逆にFDAみたいにエンブラエルE-170とか175のような座席数の少ない機体を導入して便数を増やしたりしたらどんなインパクトがあるだろうか?

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ニール・ブロムカンプ『エリジウム』見てきた

宇部のシネマスクエア7に出かけてツマと一緒にニール・ブロムカンプ『エリジウムを見てきた。レイトショーなので一人1200円とお得。

先日からワイアード誌の記事を読んだりして予習をしてきたわけだが(参考),想像以上に良かった。

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ストーリー良し,俳優良し,CG良し,デザイン良し,いいこと尽くめである。

現代にも通じる格差社会の拭いがたい哀愁を,理想郷”エリジウム”と荒廃した地球との対比から浮かび上がらせる(サンデーうべ・おのだ,2013年9月28日号)

スラム化した地球に住む人々は青い空に白く,月のように浮かんで見える「エリジウム」を見上げて暮らしている。エリジウムではベルサーチやアルマーニの服に身を固めた富裕層が大豪邸で暮らし,プールサイドでシャンパンを片手に談笑している。この対比が見事。

デラコート防衛長官を演じるジョディ・フォスターはなんか老けているし,マット・デイモンはブルース・ウィリスみたいになっているし,殺し屋クーガー役のシャールト・コプリーは日本刀みたいな刀をぶんぶん振り回す頭のおかしい男だし,味のある俳優ばかりで実に良い。


ワイアード誌の記事にも出ていたが,ニール・ブロムカンプの好きな映画の一つがリドリー・スコット『ブレードランナー』である。『ブレードランナー』の舞台は2019年のロサンゼルスだが,ニール・ブロムカンプ『エリジウム』の地球側の舞台も2154年のロサンゼルスである。

リドリー・スコットは未来のロサンゼルスを酸性雨降りしきるチャイナタウン風の都市として描いたが,ニール・ブロムカンプは未来のロサンゼルスを埃舞うメキシコシティ風のスラムとして描いた。どちらもありそうな未来像である。

『ブレードランナー』と『エリジウム』の共通点をもう一つ挙げておこう。デザイナーにシド・ミードが加わっているということである。シド・ミードは『ブレードランナー』において未来都市やカーデザインを手がけたが,この『エリジウム』ではスペースコロニー「エリジウム」のデザインを手がけている。SFそのものでありながら,実際にありそうなデザインは作品にリアリティを与えている。


天野祐吉が「CM天気図」(2013年9月25日,朝日新聞)というコラムで

「この映画は格差問題への恐怖アピール広告とも言えるだろう」

と述べているが,Wired Vol.9のニール・ブロムカンプの記事を読む限り,それは違う。ブロムカンプは

「『エリジウム』にもメッセージはないよ」(Wired Vol.9, 31ページ)

と笑いながら答えている。

ブロムカンプは未来社会に関する明確なビジョンを見せているだけなのである。しかも,娯楽映画としての完成度を保ったままで。

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2013.09.27

カンボジアにおけるエネルギー消費の状況(全体像)

今日は真面目なお話。

発展途上国におけるエネルギー消費量は,経済成長とともに拡大する傾向にある※。経済成長がエネルギー消費量の拡大を促すとともに,エネルギー消費量の拡大が経済成長を促すという相互依存関係があるからである。

※先進国の場合はそうとも限らない。日本が良い例であるし,エイモリー・ロビンズ『ソフト・エネルギー・パス』によれば,デンマークでは1500年代の方が1900年代よりもエネルギー消費量が多かった(エネルギー効率が悪かったため)。

しかし,カンボジアの場合,統計値から単純に経済とエネルギーの関係を傾向を読み取るのは困難である。カンボジアでは多くの人々が,統計的に把握しがたい薪や炭などのバイオマス燃料に依存した生活をしているからである。

下の図は1995年~2011年のエネルギー最終消費(IEA推計値)を2000年~2010年のカンボジアの実質GDP(IMF推計値)とともにプロットしたものである。

Cambodiaenergy01

カンボジアで消費されるエネルギーの大半をバイオマス燃料が占めていることがわかる。

2004年から2008年までバイオマス燃料の量が落ち込んでいるが,総量を把握しきれなかった可能性がある。

しかし,統計的に把握しやすい石油系燃料および電力に関しては年々増加している傾向がみられる。これは経済成長と共に生活水準が向上し,電化製品・自動車が普及していることが影響しているものと考えられる。

次の図は2010年におけるカンボジアとその周辺国の国民一人あたりのエネルギー消費量を示している(出典:Asian development Bank: Key Indicators for Asia and the Pacific 2013)。

Cambodiaenergy02

タイでは年間一人あたり1841石油換算kg,カンボジアでは年間一人あたり351石油換算kgのエネルギーが消費されており,両者の間には約5倍の差がある。

ところで,2010年のタイの一人あたりGDPは9780米ドル(購買力平価),カンボジアのそれは2159米ドルであり,ここでも両者の間には約5倍の差がある。単純に考えれば,将来,カンボジアの経済が現在タイの水準にまで成長すれば,カンボジアの国民一人あたりのエネルギー消費量もまた現在のタイの水準に近づくだろうということが予測される。

そのころにはカンボジアの人々は石油系燃料と電力に依存した生活を送るようになるのだろうが,はたして,資源は足りるのか?という深刻な問題が残されている。

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2013.09.26

ニール・ブロムカンプ『エリジウム』見てみましょうかね

今朝 昨日の朝,朝日新聞を読んでいたら「CM天気図」というコラムで天野祐吉ニール・ブロムカンプの映画『エリジウム』について触れていた。

時代は2154年。「エリジウム」というのは富裕層の住むスペースコロニーで,そこではどんな病気も治り,人々は優雅に暮らしている。一方,人類の99%は荒廃した地球に住んでいる。地球から理想郷「エリジウム」への不法移民を冷酷に阻止し続けているのが防衛長官デラコート(ジョディ・フォスター)である。彼女はエリジウム上層部の不法移民対策に手ぬるさを感じ,ある野望を抱いている。地球のロサンゼルスでは主人公マックス(マット・デイモン)が工場の事故により放射線を浴びてしまい,余命5日となる。マックスは治療を受けようとエリジウム侵入を企てる。・・・

というあらすじの映画である。まるで見たかのように書いているが,小生はまだ見ていない。見てから書けと言うご意見はごもっとも。

コラムによると,天野祐吉はかつて『ブレードランナー』を見て地球の荒廃・格差社会というものを強烈に感じたらしい。今回,『エリジウム』を見て再び,地球の荒廃・格差社会を感じたというが,現在の方がリアルで切実に感じたという話である。

天野祐吉のコラムだけだったら,『エリジウム』を見ようという気はあまり怒ら起こらなかったかもしれない。だが,先日購入した"WIRED Vol.9"でもかなりのページを割いて『エリジウム』に関する記事が掲載されていたので,相乗効果で,見ようという意思が高まってきた。

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ちなみに"WIRED Vol.9"によれば,ニール・ブロムカンプもまた『ブレードランナー』が大好きだそうである。またまた偶然なのだが,小生は昨晩 つい先日,ずいぶん前にBSで放送していて録画しておいた(そして何回も見た)『ブレードランナー ファイナルカット』を見ていたわけである。「入り~日~,傾く~」

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『エリジウム』,『エリジウム』,『ブレードランナー』,『ブレードランナー』……

これだけ符牒のようなものが揃っているのだから『エリジウム』見てみましょうかね。

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2013.09.25

惜しい歴史web漫画たち:『飢えた太陽』と『ユギオ』

先日来,楚漢戦争を描いている『カンニング・スタンツ』や英仏百年戦争の後期を描いている『ブルトンの金獅子』といった歴史もののweb漫画を紹介しているわけだが,惜しくも休載になった新都社の歴史web漫画も紹介しようと思う。


飢えた太陽』という作品は,『ナニワ金融道』の絵柄で地下鉄の父,早川徳次を描いた近代企業もの漫画である。残念ながら,第6話,大正9年のところで終わってしまっている。

余談だが,シャープの創業者も早川徳次という。


ユギオ』という作品は,朝鮮戦争を描こうとした作品である。ユギオというのはハングルで6・25を表し,朝鮮戦争の開戦日,1950年6月25日のことを指す。

この作品は1945年の日本のポツダム宣言受諾から始まり,1948年10月に起きた「麗水・順天事件」のところで終わっている。ここから先,韓国政府があまり触れたくないであろう,一連の出来事が起こるのだが,作者はそこまで書き続けられなかったようだ。

これらの作品,考証がわりとしっかりしていて,名作になった可能性もあるだけに,休載されてしまったのは残念である。

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2013.09.24

ロンドンは連合王国から独立すべし,との意見

例によって英ガーディアン紙の記事である。ガーディアン紙で経済面を担当するラリー・エリオット (Larry Elliott)が英国の南北経済格差とその解消法について述べている:

"UK growth? Make London independent to mend the north-south divide" (by Larry Elliott, Sep. 22, 2013, The Guardian) The south may be recovering, but the north shows Ed Miliband's aspiration for One Nation Britain is far off from reality.

同記事によれば英国内での南北経済格差は相当なものであるという。

例えば,家族全員が無職の家庭(無職世帯とでも呼ぼうか)の割合は英国全体では平均18%である。これに対し,グラスゴーとかリバプールでは無職世帯の割合は27~30%に上るという。ところがイングランド南部諸州,例えばハンプシャーでは10.6%,ノース・ノーサンプトンシャーでは11.2%という低さを示している。

アメリカみたいに労働市場の流動性を高めれば失業率は下がるよ~というのが,市場原理主義者の意見だが,それは怪しいという説をPaul Ormerodが"Applied Economics Letters"誌で発表しているらしい。そもそもアメリカでも失業率は依然として高いままであるし。

ラリー・エリオットは南北格差解消の奇策を提案している。繁栄するロンドンを独立させてしまえと。

これはいい策かもしれない。ロンドンのポンドは対外的に高くなり,残りの連合王国のポンドは対外的に安くなる。残りの連合王国の方が通貨安で国際競争力が強まるという訳である。


ラリー・エリオットの意見は一種の思考実験だが,日本でこれをやってみたらいいかも。東京とその他の地域の経済格差は明確である。東京を独立させれば,残りの日本の円はもっと安くなって国際競争力が増すかも。

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2013.09.23

亡くなってひと月:谷川健一『日本の神々』を読む

先月24日,民俗学者の谷川健一が死去した。平凡社の雑誌「太陽」の初代編集長であり,民俗学者である。近大教授を務めたこともあるが,基本的には学会と距離を置いた在野精神の強い人物だった。

柳田國男や折口信夫らの学問を批判的継承しているのだが,その研究姿勢は両者を彷彿とさせるものがある。とくに,研究成果をもとに小説を手掛けたあたりは折口信夫によく似ている。どんな小説を書いたのかについてはあとで触れる。

今回紹介する本は谷川健一『日本の神々』(岩波新書)である。

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小生はこれまで古事記にまつわる新書や文庫本を数々紹介してきた:

関和彦『古代出雲への旅』は小村和四郎という幕末の人物が出雲地方の古い神社を巡ったときの紀行文を紹介した本で,他の本とは毛色が違うが,他の本はすべて古事記を中心に据えた本である。

谷川健一『日本の神々』がこれらの本と違うところは,古事記に描かれた神々の世界ではなく,より前,つまり弥生の初めから記紀が成立する8世紀までの1200年という遥かな昔にあった神々の世界にアプローチしようというところである。

工藤隆の言葉で言えば,「古代の古代」に迫ろうとしている。そして,神社,神事,地名を手掛かりとして論考を進めているところに本書の特徴がある。というかこのやり方こそ民俗学の正当なアプローチと言えるのかもしれない。

古事記を読んでいると,アマテラスやスサノオやオオクニヌシのような人格神にばかり目が行ってしまうが,八百万の神々の多くはモノやコトにまつわる神々である。草木虫魚,万物に神が宿っているのである。

谷川健一が本居宣長の定義を引いて述べているように日本人にとっての神(カミ)とは「可畏(かしこ)きもの」全てなのである。現在でも人々の日常生活や会話の中にも登場する様々な神々の姿を紹介するのが第1章「神・祖霊・妖怪」である。

神々の中には人間に祟りなすものも大勢いた。この世は昼は人間の世界だったが,夜は神々の跳梁跋扈する世界だった。その状況が一変するのが記紀に言う天孫降臨である。邪神とされた神々は追われて流竄の身となった。それを描くのが第3章「流竄の神々」である。

著者の引く事例は日本全国に渡るが,とくに沖縄を中心とする南島の事例が多いことも本書の特徴である。なにしろ,日本文学の源流を沖縄などの謡にもとめた「南島文学発生論」で名を挙げた人物なんだから,そりゃ当然。


  ◆   ◆   ◆


本書のあとがきで著者は

「あとで気が付いてみると書き落としているものもある」(217頁)

と述べている。それは

「姉妹が兄弟の守護神となる『オナリ神の信仰』」(同頁)

のことである。

著者はかつて,このオナリ神の信仰と八重山の身売り制度とをもとに『海の群星』という小説を書いた。

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この小説はNHKのドラマともなり,当時,全日空・沖縄キャンペーンガールとして注目を浴びた石田ゆり子の初主演ドラマとなった(参考)。

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2013.09.22

ジョアン・ペドロ・ロドリゲス (Joao Pedro Rodrigues)監督『男として死ぬ』を見てきた

ポルトガルの新星と呼ばれ,最近日本でも注目を浴びているジョアン・ペドロ・ロドリゲス (Joao Pedro Rodrigues)監督の映画をYCAMで見てきた(「ジョアン・ペドロ・ロドリゲス レトロスペクティヴ」)。

ジョアン・ペドロ・ロドリゲスは1966年リスボン生まれ。2000年に撮った処女長編『ファンタズマ (O Fantasma)』はヴェネチア国際映画祭で話題となった。2005年の作品『オデット (Odete)』はカンヌ国際映画祭インディペンデント映画部門特別賞。

で,小生が見てきたのは『男として死ぬ (Morrer Como Um Homem)』(2009年)である。

これは老いたドラッグクイーンのトニア(アントニオ)を描いた作品である。

トニアは息子ほどの年齢の男性,ロザリオと同棲しているが,ロザリオは薬漬け。トニアにはゼ・マリアという息子がいるが,軍で勤務中に同性愛者の同僚を射殺して逃走中。トニアはショーパブで働いているが,若手のドラッグクイーンに立場を脅かされつつある。ということでトニアは惨憺たる状況にいる。そこから話が展開していくがネタバレになるので以下省略。

うちのツマによれば『オール・アバウト・マイ・マザー』を彷彿とさせるらしい。小生はその映画見たことないけど。小生としては『ヨコハマ・メリー』を思い出した。いずれにせよ,ゲイの人は強く生きているなーと。


下の映像はジョアン・ペドロ・ロドリゲス監督へのインタビュー記録(An Interview with filmmaker Joao Pedro Rodrigues, October 5, 2010)。『男として死ぬ』についても触れている。

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2013.09.21

1961年1月,米本土は核の炎に包まれた・・・かもしれなかった

1961年1月,米国ノースカロライナ州はあやうく核爆発の難を逃れた。

例によって英ガーディアン紙の特ダネ記事:

"US nearly detonated atomic bomb over North Carolina – secret document" (by Ed Pilkington, Sep. 20, 2013, The Guardian, ) Exclusive: Journalist uses Freedom of Information Act to disclose 1961 accident in which one switch averted catastrophe

1961年1月23日,ソビエトによる核攻撃の警戒に当たっていたアメリカ軍のB52戦略爆撃機がノースカロライナ州で墜落した。その際,同州ゴールズバラ(Goldsboro)上空で2個の水爆(Mark 39, TNT4メガトン級)を落としてしまったという。

Map_of_usa_nc_svg
↑ノースカロライナ州の位置 (Source: Wikipedia)

しかも2個のうち,1個は起爆装置が起動。しかし,4個ある安全装置のうち,最後の1個が機能したため,核爆発は逃れたという。

293pxgoldsboro_nuclear_bomb
↑ゴールズバラに落下した水爆 (Source: Wikipedia)

もしも,爆発していたら,ワシントンD.C.,ボルチモア,フィラデルフィア,そしてニューヨークに死の灰が注いだだろうといわれている。

1961年1月,米本土は核の炎に包まれた・・・かもしれなかった。

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古事記編纂1301年の今,何から読み始めるべきか?

久々に日本神話に関わる話をしよう。

昨年は古事記編纂1300年ということで古事記に関わる様々な本が書店に並んだ。小生もいくつかの本を紹介した。

今年は1301年目ということになり,日本神話ブームが終わったかと言うと,実は重要イベントが二つあった。

一つは60年に一度の出雲大社大遷宮。

もう一つは20年に一度の伊勢神宮式年遷宮。

こうしたイベントをきっかけに,掛けまくも畏き神々の世界について興味を持ち始めた人も多かろうと思う。そういう人は何から読み始めたらよいだろうか?


  ◆   ◆   ◆


古事記をやさしく書き下した本は非常にたくさんあるが,小生としては次の2種類の本を薦めておきたい。

一つは武光誠『一冊でわかる古事記』(平凡社新書)である。

一冊でわかる古事記 (平凡社新書)一冊でわかる古事記 (平凡社新書)
武光 誠

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なぜ,これがおすすめかというと,わずか一冊で神々の誕生から平群氏衰亡まで古事記上中下巻の全貌を理解することができるからである。

神々・天皇家の系図や大和,出雲の歴史地図(豪族の勢力範囲だとか履中天皇の逃走経路だとか)など各種説明図が必要に応じて掲載されていて,理解しやすい。

小生が何よりも感心したのは,イザナミ,イザナギが契りを結ぶにあたって,柱の周りを回ったことについて,ちゃんと解説していることである。結婚の際に柱を回るミャオ族の伝統だとか,男性神は右回りと左回りのどちら選ぶべきかとか。今までの入門書でここまで踏み込んだものは見たことがない。


  ◆   ◆   ◆


こういう様々な知識を得たうえで挑戦してほしいのが,以前にも紹介した,こうの史代『ぼおるぺん古事記』(平凡社)である。

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本書では古事記上巻の内容がほぼ完璧に原文通りに表現されている。

セリフなど原文そのままで書かれているので,初心者にはハードルが高いかもしれないが,絵を見れば,何が書かれているかすぐわかる。

原文のリズムにも触れることができるので,何度も繰り返してよむべき本だと思う。古事記研究の中上級者になっても読むに耐える三冊本である。

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2013.09.20

【ブルトンの金獅子】ついにベドフォード公とぶつかるか,アルチュール・ド・リッシュモン

百年戦争後期の名将アルチュール・ド・リッシュモンが主人公の『ブルトンの金獅子』。

ついに第5話が掲載された。

イル・ド・フランスやシャンパーニュの各都市は次々にフランスに帰参。リッシュモン大元帥はイングランドのベドフォード公(ジョン・オブ・ランカスター)が守るラニ郊外に到着する。

John_duke_of_bedford
↑左がベドフォード公(source: wikipedia)

イングランドはアザンクールの戦い以来,長弓隊を効果的に駆使して,フランス軍を翻弄してきた。ベドフォード公もまた長弓隊を配置し,万全の構えでリッシュモンを待ち受けている。さて,リッシュモンはどのように戦うのか?

というところで次回へと続く。

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『カンニング・スタンツ』,第22話「儒都にて」中編掲載される

昨日(2013年9月19日),『カンニング・スタンツ』が更新された。

第22話「儒都にて」の中編が掲載されたわけである。前回8月22日から約1か月のご無沙汰。

今回,主人公季布は,項籍(項羽)の露払いとして魯に入城したところである。

楚漢戦争ののちに季布をかくまうこととなる遊侠・朱家が登場している。

「儒都にて」の中編の大半を占めるのは,7ページにわたる季布と朱家の思わせぶりな会話である。申包胥屈原孟姜女と,中国古代史・伝説に関する知識がないとちょっとつらいかもしれないが,二人のかっこいい会話をご堪能ください。

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2013.09.19

渡邊大門『秀吉の出自と出世伝説』を読む

昨日から渡邊大門『秀吉の出自と出世伝説』(洋泉社 歴史新書y)という本を読んでいるのだが,面白い。

本書のカバーのそでに書いてあるように,秀吉の生涯は出自との戦いだった,というのが本書の全体を貫く主張である。

秀吉の出自と出世伝説 (歴史新書y)秀吉の出自と出世伝説 (歴史新書y)
渡邊 大門

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ただし本書では,最近の研究で主張されているように,秀吉の出自を過度に「非農民」とか「商工民」とか「河原ノ者」とかに結び付けることはしていない。

秀吉を被差別民と見る主張の中で特に有名なのは,服部英雄『河原ノ者・非人・秀吉』( 山川出版社)である。

河原ノ者・非人・秀吉河原ノ者・非人・秀吉
服部 英雄

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しかし,本書の著者は,こういった主張は一考に値するとは述べているものの,根拠となっているのが状況証拠だけであるとして,同意してはいない。

いろいろな文献を検討した結果,著者が主張するのは,単純に

秀吉は貧しい百姓の息子だった

ということである。

秀吉の破格の出世の原因を出自の特殊性に求めるのは話として面白いが,無理がある。確実に言えることだけを集約して提示するところに,この著者の歴史家としての良心を見る。

著者は秀吉の立身出世の原因を,根気努力改善思考上昇志向といった秀吉自身の性質に求めている。他者の何十倍もの努力を続けることによって,出自の低さをものともせず関白へと出世を遂げていったということである。


  ◆   ◆   ◆


とはいえ,秀吉は出自を常に気にしていた。

若い頃,貧しさゆえに家を出て食い扶持を求めて諸国を渡り歩いていたことや,薪売りをしていたことなどは,秀吉自身も語っていることであるし,天下万民の知るところであった。

加えて異様な容貌や多指症(六本指)であることも,周囲・本人ともに強く認識するところであった。

秀吉は家臣に対し,これらのハンディキャップにも関わらず立身出世したことを述べ,自身の能力の高さを誇ることがたびたびあった。

その一方で,自分は帝のご落胤であるとか,日輪の子であるとか,御伽衆を通じて様々な説を流布し,出自の書き換えを試みたりした。


本書では,合戦時や処罰時に見られる秀吉の残虐性も「出自との戦い」という切り口で説明して見せている。

秀吉は流血を避ける戦をしていたようによく言われているが,著者によれば,秀吉は合戦時においては敵に惨い死を強いている。

これは主君信長の戦い方によく似ている。そのぐらい激しい戦いぶりをアピールしなければ,秀吉は高い身分の同僚たちに埋没してしまい信長の目に留まらない。ハンディキャップを埋めて余りある,オーバーキルをせざるを得ない。それが秀吉の努力,ということである。

著者が述べているように,やはり秀吉の生涯は出自との戦いだったという認識を強くせざるを得ない。

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2013.09.18

日本では知られていないが,フィリピン・ザンボアンガでは紛争が起きている件

日本ではほとんど報道されていないが,今,フィリピン第6の都市,ミンダナオ島のザンボアンガ (Zamboanga)では,モロ民族解放戦線ミスアリ派とフィリピン警察・政府軍との間で戦闘が繰り広げられている。

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モロ民族解放戦線によって100人余りの人質が捕られたことを報じるアルジャジーラの記事: "Rebels take hundreds hostage in Philippines" (September 9, 2013, ALJAZEERA AMERICA)


ある報道ではこの争乱によって何十億フィリピンドルもの損失が生じているという:

"Billions lost in business due to Zamboanga standoff" (by Alvin Elchico, Sep. 18, 2013, ABS-CBN News)

またこの争乱のせいで,約20万人の児童が学校に通えなくなったという報道もある:

"200K students affected by Zamboanga fighting" (by Dona Z. Pazzibugan, Sep. 17, 2013, Philippine Daily Inquirer)


今回,戦闘を始めたモロ民族解放戦線ミスアリ派というのは,モロ民族解放戦線の創始者,ヌル・ミスアリを支持するグループである。モロ民族解放戦線は一枚板ではなく,さまざまな派閥がある。

1970年代からモロ民族解放戦線はフィリピン政府に対し戦いを繰り広げていた。しかし,1996年,両者の間に和平が成立した。

和平後,ヌル・ミスアリはムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)の知事として権勢をふるっていた。しかし,2001年,当時のアロヨ政権はミスアリと対立するパロウク・フシンと結託し,ヌル・ミスアリを失脚させた。

今回の紛争は,様々な利権に与れなくなったミスアリ派の積年の恨みが昂じて起こったものだと考えられる。

モロ民族解放戦線はイスラム教徒の政治組織であるため,イスラム教国の関心は高い。インドネシアでも当然,関心が高く,小生がバンドンにいるとき,海外ニュースのトップには必ずこのザンボアンガの紛争が取り上げられていた。

インドネシアは1996年の和平を仲介した。

今回もインドネシア政府は和平仲介の労をとると表明している。

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新都社の三大戦記物といえば,『覇記』,『カンニング・スタンツ』,あとは?

百年戦争末期が舞台の,玄界灘潮先生の『戦歌の楽隊』を挙げたいところだが,今月から始まった新作『ブルトンの金獅子』を挙げておこうと思う。

どちらも,佐藤賢一の作品を髣髴とさせる作品である。

覇記』は2040年以降の荒廃した日本の覇権をめぐるSF戦記物。

カンニング・スタンツ』は楚漢戦争。

そして,『ブルトンの金獅子』は百年戦争。

商業誌には見れらない,Web漫画ならではのこだわり。こっちは忙しいのに,勘弁して下さいよ,と言わんばかりの力作ぞろいである。

作画がいまいち,という人は絵コンテだと思って読んでください。

とくに『カンニング・スタンツ』と『ブルトンの金獅子』はちょっと世界史をかじった人にはたまらん内容です。


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そういや,『覇記』だが,本編ではなく新・学園覇記(その15)に1ページ分加筆されていた。

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2013.09.17

ガラパゴス諸島で投函された切手のない絵葉書を3週間かけて配達して回ったアーティスト

ガラパゴス諸島で投函された切手を貼っていない絵葉書22枚を,3週間かけてイギリス各地に配達したアーティストがいる。その人自身による記事が英ガーディアン紙に掲載されている。

ガラパゴス諸島からの絵葉書に隠された秘密」:

"Postcard secrets from the Galapagos Islands" (by Simon Clark, Sep. 16, 2013, The Guardian)
For centuries, visitors to the Galapagos Islands have left unstamped postcards in a barrel for their fellow travellers to deliver. What happened when one artist spent three weeks cycling around the British Isles, hand-delivering 22 of the cards?

ガラパゴス諸島にフロレアナという島がある。そこに来た旅人は手紙を書いては海岸におかれた樽に入れておいたという。そして次に来た旅人が樽の中の手紙を選んで,別の港に運んだという。

ガラパゴス諸島には人から人へとリレーする無料の郵便サービスがあった,というわけである。この風習はガラパゴス諸島を訪れる旅行者の間に今も残っている。

英国人のアーティスト,サイモン・クラークはガラパゴス諸島を訪れ,例の樽の中に入った何百枚もの切手のない絵葉書を見つけた。そしてその中からイギリス宛ての絵葉書22枚を選びイギリスに持ち帰った。そして2009年の夏,3週間かけてイギリス各地へ配達の旅に出た。


サイモン・クラークは旅先で魅力的な受取人たちと出会うことになるわけだが,その辺は省略。また,フロレアナ島の昔話を知ることにもなるのだが,これも省略。詳しくはガーディアン紙の記事を読んでいただきたい。

ガラパゴス諸島の絵葉書の配達を通してイギリス諸島の多様性を知ることができたよ,といういい話。

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『現代オカルトの根源―霊性進化論の光と闇』を読む

インドネシア出張の往路・復路で読んだのがこの本である:

大田俊寛『現代オカルトの根源―霊性進化論の光と闇』(ちくま新書)

現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇 (ちくま新書)現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇 (ちくま新書)
大田 俊寛

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著者は1974年生まれ。本来はグノーシス主義の専門家だが,現代宗教論にも関わっているそうである。

凄い本である。

ブラヴァツキー夫人,リードビーター,ルドルフ・シュタイナー,ランツ,ローゼンベルク,エドガー・ケイシー,アダムスキー,ホゼ・アグエイアス,デーヴィッド・アイク,本山博,桐山靖雄,麻原彰晃,高橋信次,大川隆法,…。錚々たる近現代の宗教家たちの思想を「霊性進化論」という切り口によって,わずか新書一冊で見通せるようにしたのは見事な仕事としか言いようがない。

小生より若い世代が立派な本を書くようになってきたものだと感心した。

むかし,オカルト思想に占める北極,南極という地球の「極」の意味を研究したジョスリン・ゴドウィンの『北極の神秘主義』という本を読んだが,本書の場合は「霊性進化」という切り口で,オカルトや新宗教にアプローチしている。

北極の神秘主義―極地の神話・科学・象徴性、ナチズムをめぐって北極の神秘主義―極地の神話・科学・象徴性、ナチズムをめぐって
ジョスリン ゴドウィン Joscelyn Godwin

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  ◆   ◆   ◆


本書の最重要キーワードは「霊性進化」である。人間の本質は「霊体」であり,輪廻転生を繰り返しながら霊体の性質,つまり「霊性」を進化させていくことが人生の目的だとする考え方である。

霊性進化の果てに,人間は神人に至るわけだが,進化の途中で堕落する者もあらわれる。それは物質主義的価値観に束縛された人,もっとくだけた言い方では感情のおもむくまま欲望に耽る獣人に退化する。獣人になったものは,他者の霊性進化を妨げようとし,ここに神人側と獣人側の対立と言う二元論的世界観が成立する。

輪廻転生や善悪二元論は昔から様々な宗教の中に見られた考え方であるが,「霊性進化論」は,近代以前の宗教にはなかった「進化」概念が明確に示されている点で,近現代ならではの思想であると言える。


  ◆   ◆   ◆


著者は霊性進化論の位置づけを次のように述べている:

霊性進化論とは,近代において宗教と科学のあいだに生じた亀裂に対し,その亀裂を生み出す大きな原因となった「進化」という科学的概念を宗教の領域に大胆に導入することにより,両者を再び融合させようとする試みであったと理解することができる。(本書245頁)

だからこそ,物質文明に疑問を持ち,伝統的宗教には飽き足らない人々には「霊性進化論」が魅力的に見えるわけである。

しかし「霊性進化論」には正負両面がある。研鑽によって自らの霊性を高めようとすること,これ自体は正の側面である。これに対する負の側面として著者は次の3つを示している:

(1) 霊的エリート主義の形成
(2) 被害妄想の昂進
(3) 偽史の膨張

ナチズムやオウム真理教はこうした負の側面が強烈に表れ,破滅を迎えた事例であるといえるだろう。

著者は「おわりに」において,霊性進化論を生み出す原因となった,宗教と科学の間の亀裂は,未解決の問題として我々の前に提示されている,ということを述べて本書を閉じている。

小生は,この問題に対しては,今後も様々なバリエーションを生み出しながら「霊性進化論」が有力な解として存在し続けるのではないかと思っている。

科学者にせよ,伝統的宗教家にせよ,物質世界と精神世界とで担当領域を完全にすみ分けており,両者を統合する説得力ある世界観を提示しているようには思えないからである。

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2013.09.16

台風18号と競り合いながら帰国:早朝の便により難を逃れる

本日(2013年9月16日),シンガポール経由でバンドンより帰国しました。

Bandungairport
(写真はバンドンのフセイン・サストラヌガラ空港)

小生の帰路はバンドン~シンガポール~羽田~山口宇部という経路だが,今回は台風との競争。

バンドンを発つ前に,16日,台風18号が関東/東海に上陸予定との情報を得た。

シンガポール~羽田の便:シンガポール航空SQ636が着陸できるかどうか心配だったが,台風上陸前の朝5:30に羽田に無事に到着。

そのあと,山口宇部まで10:15発ANA693便で帰る予定だったが,どう考えても台風の影響を蒙ると考え,6:55発のANA691便に繰り上げ。こんな早朝に乗る人は少ないので座席は確保できた。

ANA691便は特に問題なく8時半には山口宇部空港に到着し,9時台には帰宅。

予想通り,他の便は台風の影響で欠航が相次ぎ,こんな有様である:


<羽田→山口宇部>
9月16日(月)17:00現在
 ○ANA691 定刻 06:55-08:35 運行
 ×ANA693 定刻 10:15-11:55 欠航
 ×ANA695 定刻 14:15-15:55 欠航
 △ANA697 定刻 16:25-18:05 出発遅れ
 ○ANA699 定刻 19:00-20:40 出発予定

<山口宇部→羽田>
9月16日(月)17:06現在
 ×ANA692 定刻 08:00-09:30 山口宇部に引き返し後欠航*
 ×ANA694 定刻 09:20-10:55 欠航
 ○ANA696 定刻 12:40-14:15 運行
 ×ANA698 定刻 16:40-18:15 欠航
 ○ANA700 定刻 18:50-20:25 出発予定


月並みだが,早め早めの行動が大事,という結果になった。

あと,国際線から国内線への乗り継ぎを考えると成田なんかよりも羽田が良い。

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2013.09.15

『カンニング・スタンツ』,トップ絵だけ変わる:項籍から張良に

先日(2013年8月22日),第22話「儒都にて」が始まったばかりの『カンニング・スタンツ』であるが,つい最近,トップ絵だけ更新された。

これまでのトップ絵は項籍(項羽)だったが,今度からは,『カンニング・スタンツ』唯一の萌えキャラ(おっさん)である張良になった。

前にも言った(参考)が,十段先生は結構史書に基づいて物語を書いている。

張良が女性のようなキャラとして描かれているのは,司馬遷の「婦人好女の如し」という記述に基づく。

覇王・項籍(項羽)が重瞳(双瞳)の人物として描かれているのも資治通鑑などの記述に基いている。

十段先生ご本人のブログを見ると,腰を痛めている様子。

お体に気を付けていただきたいと思う気持ちと,早く「儒都にて」の続きを読みたいという気持ちが交錯する今日この頃である。

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2013.09.14

【インドネシア】スンダ式結婚式に参加した件

今日もバンドンにおります。

バンドン工科大学(ITB)の偉い先生の娘さんが結婚するので,付き合いで結婚式に参加した。日本でも結婚式に参加することはほとんどないのに,外国の結婚式には付き合うというねじれ現象。

これはスンダ人の結婚式なので,新郎新婦入場->壇上に移動->壇上で新郎新婦およびご両親と出席者の握手会->バイキング方式で食事という流れになっている。

小生も民族衣装であるバティックを着て参加した。

以下はピンぼけ気味だが,結婚式の状況を写したものである:

踊り手が登場して,新郎新婦を迎え入れる:

Marriage05

Marriage01

そして新郎新婦入場:

Marriage02

新郎新婦壇上に着席:

Marriage04

握手会を終えた参加者がご飯に群がっているところ:

Marriage06

日本式よりもカジュアルでいいんじゃないですか?

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2013.09.13

バンドンにおります

Selamat malam!

現在,バンドンにおります。

今回は三ツ星クラスのOttenville Boutique Hotel (Jalan Dr. Otten, No.6)に滞在しているのですが,けっこう快適。Wifiもちゃんとつながるし。

Ottenvill01

小さいホテルだが,大きいホテルに比べると静かで落ち着いた感じ。

入口は結構シックな感じである。

Ottenvill02

中庭もまあまあ。オランダ植民地時代のイメージだろうか?

Ottenvill03

このホテル,部屋の大きさはバラバラ。小生が泊まったのは割と小さめの部屋である。日本のビジネスホテルぐらい? とはいえ,十分な大きさ。ノボテルとかヒルトンとか,日本人にとっては部屋が広すぎるのである。

Ottenvill04

今回はアゴダで契約したのだが,かなりディスカウントしてもらえて,非常にお得だった。

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2013.09.12

地球温暖化防止には地球工学で対処しよう:王室天文官かく語りき

この文章,バンドンへの移動の途中,シンガポールのチャンギ国際空港で書いたもの。ちなみに空港を出てシンガポール市内に入ったことは一度もない。

それはさておき,英ガーディアン紙の記事:

"Astronomer royal calls for 'Plan B' to prevent runaway climate change" Lord Rees appeals for research into geoengineering technologies in case efforts to curb carbon emissions fail (Alok Jha, Sep. 11, 2013, The Guardian)

王室天文官のリース卿がニューキャッスルで開かれた"British Science Festival"で,地球温暖化防止の取り組みが失敗した場合には,地球工学(Geoengineering)しかないと述べたとのこと。

宇宙空間に鏡を配置したり,海洋で藻類を増やしたり,微粒子で雲の形成を促したり,積極的に工学的手法で気候を調整しよう,という話。

こういう話は前にもディスカバリーチャンネルでやってたなぁ。科学者・技術者の中には,3Rのような消極的なことよりも,何か積極的なことをやりたいと思う人が多いようである。地球工学ほどのスケールではないが,浜辺の空き缶を拾い集めるロボットを作った学者がいたのを思い出した。浜辺を利用する人のモラルを向上させればいいだけの話だと思うのだが・・・。同様にCO2の排出を抑制するよりも,地球の気候を調整してしまえというのが地球工学である。

御厨さと美先生の漫画,「ルサルカは還らない」に出てきた旧ソ連の電磁波兵器「ルサルカ」も,もともとは電磁波を照射してシベリアを温暖化させるという地球工学用人工衛星だった。

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地球工学は一度失敗したら取り返しがつかなくなりそうで怖い。

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2013.09.11

インドネシアも「オランダ病」かなぁ?

今日からインドネシアに行くのでにわか勉強をしているところである。

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この記事:

「インドの轍を踏むインドネシア:経済的成功に甘んじて何もしなかったツケ」(2013年9月5日付英フィナンシャル・タイムズ紙からの翻訳, 2013年9月6日,JB Press)

とか,この記事:

平成23年度 第4回 国際情勢研究会報告1 「インドネシア――人口・資源大国の光と影」 (2011年7月8日,日本貿易振興機構アジア経済研究所・佐藤百合)

を読むと,インドネシアでは,地元資本が農業・天然資源に回帰し,脱工業化が進展してしまっているようであり(製造業は外資が支えている),どうやら「オランダ病」にかかってしまっているようだ。

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2013.09.10

インドネシアの主要ニュースは,美人コンテスト開催地とオーストラリアの政権交代

バタバタしているせいで忘れかかっていたが,そういえば,明日からインドネシアのバンドンに出張するのだった。

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インドネシアでは今,何が起こっているのだろうかとJakarta Postを見てみたが,主要ニュースは,美人コンテスト開催地とオーストラリアの政権交代だった。

まず,美人コンテスト開催地問題。

"Govt scraps Miss World event in Sentul" (Sep. 7, 2013, Jakarta Post)

インドネシアでは今,2013ミス・ワールド大会を実施中である。バリ島と西ジャワ州セントゥールが会場に選ばれていたのだが,ムスリム団体の猛抗議でセントゥールでの開催は中止となった。

インドネシアではムスリムが多数を占めるので,こういう行事の開催には細心の注意が必要。


次に,オーストラリアの政権交代の影響。

"Australia's new gov't vows to limit foreign aid" (Sep. 8, 2013, Jakarta Post)

オーストラリアでは先日政権交代があった。自由党のアボット党首が率いる野党・保守連合が労働党を破ったわけである。

インドネシアにとってオーストラリアはすぐそばにある先進国。インドネシアにとって気になるのは政権交代が与える影響である。

アボット新政権は海外支援のカットを考えているがこれが中進国インドネシアに与える影響はよくわからない。インドネシアに直接関係しそうなのは,難民問題である。

インドネシアからボロ船でオーストラリアへ亡命しようとする人々がいるというのはだいぶ前から問題になっている(参考)。この亡命希望者たちはインドネシア人ではなく,イランやイラクやアフガニスタンなど中東出身者が多かったりする。7月のロイターの記事では今年,オーストラリア領内に船で到着した難民認定希望者は1万5千人を超えているという。すでにオーストラリアのキャパシティを超えている。

で,オーストラリアはインドネシアと早急にこの問題について話し合いたいようだ。アボット率いる保守連合は,「オーストラリア政府が,インドネシア漁民からボロ船を買い取り,難民輸送業者の手に船が渡らないようにしたい」と考えているとのこと。

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朝日,新華社,CCTVの五輪誤報

うちは朝日新聞とっているんだけど,今朝の朝刊見て笑った。

朝日新聞が公式ツイッターで「東京落選」との誤報を流したという話。自ら報道しているのは反省の意を示しているのだろう。まあ,許しておこう。

中国の新華社や中央電視台(CCTV)も東京落選の誤報を流して,あわてて直したわけである。


新聞やテレビというのは単なる情報提供手段ではなくて,世論形成の意図をもっている。

記者はあらかじめ考えたストーリーに基づいて,それにあてはまるように情報をちりばめる。

今回の誤報を流した記者たちは,すでに東京落選を前提としたストーリーを構成していたのだろう。そして,マドリードとイスタンブールの二位決定戦が始まって東京の表示が一時的に消えたので,東京が落選したのだと誤認したのだと思う。


さて,産経新聞は鬼の首をとったように朝日の誤報を報道しているが,産経もネット上で愛嬌のある誤植を繰り返していることは銘記しておくべきだと思う(参考「産経の誤植は愛嬌があると思います」)

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2013.09.09

カンボジア,9月15日から野党デモの予定

カンボジアの総選挙(2013年7月28日投開票),小生がプノンペンに出張していた間も,そして今もまだ揉めている(参考:「プノンペン,一波乱の予感」)。

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昨日(2013年9月8日),選挙管理委員会 (National Election Committee: NEC)が,開票直後の速報値(与党推計値)通り,与党(人民党CPP)68議席,野党(救国党CNRP)55議席という公式結果を発表した。

そうなるだろうと思っていたが,これに対して野党は9月15日からのデモを計画している:

Opposition Promises More Protests as CPP Election Win Confirmed (by By Phorn Bopha and Khuon Narim - September 8, 2013, Cambodian Daily)

憲法制定評議会 (Constitutional Council of Cambodia: CCC)は,野党の言い分は調査に値しないと結論づけている。そして,若干の不正があったとして,地方の選挙管理担当者に処分を加えるにとどめるようである。


野党側は全く武力を持っていないので,大事にはならないと思うが,滞在者はご用心を。

なお,あくまでも噂だが,与党の選挙戦責任者たちは,今回の選挙のためにかなりの私財を投じてしまって困窮しているとの話。

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2013.09.08

英企業,アサド政権にサリンの原料を輸出

2004年から2010年にわたって,英国の企業がアサド政権にサリンの原料,フッ化ナトリウムを輸出していたとの報道。英デイリーメール紙より:

"Britain sent poison gas chemicals to Assad: Proof that the UK delivered Sarin agent to Syrian regime for SIX years" (by Mark Nicol, DailyMail, Sep. 7, 2013)

フッ化ナトリウムはコスメ用途として輸出されたという話だが,アサド政権によってサリンの原料として流用されたという。

英国政府は2004年から2010年にかけて輸出許可を出していた。

意図の有無にかかわらず,英国がアサド政権を支えていたという構図である。

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安倍ちゃんの出席が五輪招致の勝因の一つ

東京五輪2020おめでとうございます。

その頃には50歳になっているかと思うとぞっとするけど。

今日は五輪招致成功に関する報道ばかりで,お腹がいっぱいになるほど勝因分析が繰り広げられているので,弊ブログがいろいろ書いてもあまり意味がないような気もするが,一応,勝因に関して海外メディアが言っていることを紹介してみる。

ウォールストリートジャーナル(WSJ)では,「安全,信頼,日本だから」という3つの要因が勝因だとまとめている。

"Safe, Reliable Japan Helps Put Tokyo Olympic Bid Over The Top" (By Alexander Martin, Wall Street Journal, Sep. 8, 2013)

同記事によれば,IOCの次期会長と目されているトーマス・バッハ副会長をはじめ,IOCの委員たちは「安定性」を第一に考えているようだ。財政的あるいは政治的な安定性に関しては他の二つのライバル都市は東京に劣る。

もちろん,日本は大地震・津波・原発事故の三重苦に見舞われ,その影響を引きずっているのだが,東京自体は「安定性」に関してライバル都市たちと大きな違いを見せることに成功したようである。「日本だから」,「日本なら」という信頼感というかブランドというか,そういうものがIOC委員の間には共有されているようだ。


WSJではあまり触れていないが,安倍ちゃんの登場が五輪招致成功に効いていると考えるのが英国ガーディアン紙である:

"Tokyo wins race to host 2020 Olympic Games" Japanese capital beats Madrid and Istanbul after prime minister Shinzo Abe flew in to reassure voters over Fukushima (by Owen Gibson, the Guardian, Sep. 8, 2013)

安倍ちゃんがビシッと放射能漏れに対する懸念に答えたのがIOC委員たちを安心させ,勝利に結びついた,という話である。

放射能漏れに関しては国内外で議論が続いているので,本当に安心してよいかどうかは結論付けるのはまだ早いと思う。

しかし,「オリンピックを招致する」という目的の下では,招致する側の責任者が「よくわからない」等と言うわけにはいかない。そのへん,揺るがないで説明をした安倍ちゃんは,一国の指導者としての役割を見事にこなした。良いブレーンが付いているのだろうけど,前回首相だったころとは大違いである。


ハー・ロイヤル・ハイネス,プリンセス・タカマドの出席も重要である。気軽に出入りできる欧州王族と違い,なかなかこういう場には顔を出さない日本の皇族が登場するというのは,海外メディアにとっては驚きだったようだ。

また,英国紙だからだと思うが,高円宮妃殿下がケンブリッジで教育を受けたということに注目している。IOC委員の多くは欧州人である。欧州人にとっては欧州の名門大学での教育はポイントが高い。IOCは国際機関ではなく,貴族クラブなので,貴族のネットワークにつながっていることが大事である。それがわかっているからマドリードもフェリペ皇太子を担ぎ出したわけである。


先ほどのWSJの記事に戻るが,安倍ちゃんは招致決定後,さっそくツイッターで報告したそうである。ネットメディアへの対応も忘れない周到な安倍ちゃん。ツイッターで何か言うたびに五輪招致の足を引っ張り続けたイノセ知事とは大違いである。当分,人気は衰えないことだろう。野党は忘れ去られつつある。安倍ちゃんは日本の復興に貢献した大宰相との評価を受けるかも。

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2013.09.07

トラベラーズノート・ペンホルダーを買った

久々に近所の文房具屋"CrossLand"宇部店に行ったわけである。

そこで,ありそうでなかったものを発見して購入した:

株式会社デザインフィル ミドリカンパニー製の「トラベラーズノート・ペンホルダー」である。


なぜ,これを買ったかという事情をこれから述べる。

小生はANAからもらった手帳をここ数年利用している。正確に言うと手帳のカバー(バインダー)をずっと使って,中身はパイロットの「リフィル コレトダイアリー リーフ 見開き1週間」を毎年差し替えて使っている。

で,問題なのは,手帳にペンを取り付けるような場所がないことである。小生はパイロットのタイムラインというボールペンを愛用しているのだが,手帳とペンがバラバラなのは不便である。

ということで,今回買ったペンホルダーを手帳のバインダーの裏表紙側にセットしてみた:

Noteclipandpen


なかなか。
バインダーの表面の合皮が傷みそうな気もするが,これでいいんじゃないかと思う。

良くわからないが,達成感はある。

良いステーショナリーを集めると仕事ができそうな高揚感があるが,本当に仕事ができるかどうかは別の話である。

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2013.09.06

米英の情報機関はたやすくネット上のセキュリティーを破れます

はい,英国ガーディアン紙のトップニュースです:

"US and UK spy agencies defeat privacy and security on the internet" (by James Ball, Julian Borger, and Glenn Greenwald, The Guardian, Sep. 5, 2013)

時間がないので,見出しだけ訳しておきます:

  • NSA(アメリカ国家安全保障局)とGCHQ(英国政府通信本部)は電子メールやネットバンキングで使われている暗号を破ることができるよ
  • NSAは年250万ドルかけて,ハイテク企業の製品に「脆弱性」をこっそり仕掛けているよ
  • 情報機関のプログラムのせいでインターネットが脆弱化しているよ

まあ,思った通りの展開。

本ブログで過去に取り上げた関連記事は以下の通り。よろしければご参照のほど:

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英国大学の非正規雇用「ゼロ・アワー・コントラクト」問題

今日も"The Guardian"紙の見出しを眺めていたのだが,英国では"zero-hours contracts"というのが問題になっているらしい。

ゼロ・アワー・コントラクト」というのは,特に就労時間を決めずに,雇主が必要に応じて労働者を呼んで働いてもらうという雇用形態らしい。オンコールワーカーというのと同じか?

この雇用形態は,雇主にとってはとても便利な仕組みだが,労働者にしてみれば,未来の労働と収入,例えば「来週,何時間働いていくらもらえるのか」ということがいつもわからず,常に不安定な生活を強いられるわけである。

ガーディアン紙は先月からこの問題を取り上げているらしいが,今回は大学においてこの「ゼロ・アワー・コントラクト」がやたらに使われていることを問題として取り上げている:

"Universities twice as likely as other employers to use zero-hours contracts" Half of universities and two-thirds of further education colleges use zero-hours contracts, freedom of information requests reveal (by Sarah Butler, The Guardian, September 5, 2013)

同記事によると,英国の大学では他の産業セクターに比べ,約2倍も多く「ゼロ・アワー・コントラクト」が利用されているという。

University and College Union (UCU).という組織が調査した結果,回答した145大学のうち半分以上が,そして275カレッジのうち3分の2近くが「ゼロ・アワー・コントラクト」を利用しているとのことだった。

同記事にはこんな事例が乗っていた。

コンピュータ関連の講義を担当する60歳の非常勤講師,フィリップ・ロディス (Philip Roddis)はシェフィールド・ハラム大学 (Sheffield Hallam University) に勤めていた。しかし突然,年400時間の講義時間を50時間に減らされたのち,解雇されたということである。ロディスは同大学を訴えようとしたが,予備審問で却下されたという。

フィリップ・ロディスの場合,幸いなことに,子供はすでに成長しており,家のローンも終わっているということで大惨事にはならずに済んでいる。だが,そうでなかったら,悲惨なことになっただろう。

同記事によれば,推計100万人が「ゼロ・アワー・コントラクト」という雇用形態で働いているらしい。

非正規雇用は日本でも問題だが,英国ではさらにひどい雇用形態が常態化しているということである。

直接関係ないけど,東北大学もブラック企業リスト入りしたなぁ。

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2013.09.05

フィンランド栄枯盛衰

ノキアがマイクロソフトに買収されるということで,フィンランドの衰退ぶりを嘆く声が出ているようだ:

焦点:携帯事業手放すノキア、一時代の終わり告げる」(ロイター,2013年9月4日)

たしかに一時代の終焉である。

フィンランドの景気は・・・というとあまりよくない。

下に示すのはIMFの"World Economic Outlook April 2013"をもとに,日米フィンランドの実質GDP成長率を比較してみたものである。ただし2013年の値はIMFの推計値。

Imfrealgdpfinland

フィンランドは2012年はマイナス成長。2013年も日米の後塵を拝している。フィンランドの落日?


しかし,かつてフィンランドの経済は非常に元気が良かった。

上のグラフを見ても2005年~2007年のフィンランドの経済成長は確かにすごい。

そのころ,「北欧各国はなぜ国際競争力があるのか?」という議論,そして特に「フィンランドの底力は何なのだろうか?」という議論がマスコミをにぎわせていた。

「それは教育力だ!」というのが結論だった。

OECDが行った学習到達度調査(PISA)ではいつもフィンランドがトップクラス。日本の教育業界では「フィンランドに学べ!」とばかりにフィンランド・ブームが起こった。

そこで出てきたのが「フィンランド・メソッド」(商標登録されている)。

小生の職場でも「勉強せよ」ということでこんな本が配られた:

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別に悪くはない。教育手法として学ぶべきことは多い。

小生が疑問なのは,「フィンランド・メソッド」に凝縮されているような,発想力・思考力・読解力・表現力などを向上させる教育を受けてきたはずのフィンランド人が,ノキアだけに頼るような脆弱かつ貧弱な経済基盤を作ってしまったのか?ということである。

ノキアからスピンオフした人たちが,「アングリーバード」のような新たなヒット商品を生み出していることは知っている。だけど,それじゃあノキアが担っていたほどにはフィンランド経済を支えられないでしょ。

世界に誇る教育力を以て,国際競争力を高め,再び経済が復興するか? あるいは,教育力を以てしても,世界の趨勢に抗することができず,没落するか? フィンランド経済,ここからが見どころでしょう。

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WEB漫画『覇記』,予測通り第159話掲載。仙台ついに落城!

もうみなさんご存知のWEB漫画『覇記』の話である。過去,2回ほどご紹介した。

前回の紹介記事「WEB漫画『覇記』,ついに第158話掲載。今後の執筆速度は?」の末尾に

「158話から先,計5~6話が毎月のように書かれると考えられるが,さて?」

と述べておいたが,予測通り,ちょうど一か月後の9月4日に第159話が掲載された \(^o^)/

今回の内容だが,前話最後のコマに巨砲が出てきたので,ついに砲撃開始か・・・と思ったが,そういうシーンは無く,青葉他寄せ手が仙台城に突入するところから始まった。あとはもう・・・ヒャッハーの展開。

くろやぎ先生,今後もしばらく,このペースでお願いします。

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スラヴォイ・ジジェクがスノーデン,マニング,アサンジについて語る

The Guardianを読んでいたら,ジジェクがスノーデン,マニング,アサンジらによる内部告発の意義について述べていた:

"Edward Snowden, Chelsea Manning and Julian Assange: our new heroes" As the NSA revelations have shown, whistleblowing is now an essential art. It is our means of keeping 'public reason' alive (by Slavoj Zizek, The Guardian, Sep. 3, 2013)

この文章,基本的にはカントに依拠して国家を撃つという論調である。

国家というのは公的な存在に見えるが,実際には何らかの内輪の論理・利害に基づいて行動をするわけで,世界全体から見れば実は私的集団である。

これに比べれば,一般市民はインターネットを通して世界につながり,私的集団の制約を離れ,世界的な視点で行動できるという意味で公的な存在である。

単純化しすぎたが,カント的な見方をすれば,国家と一般市民とのあいだにこういった公私の逆転現象が生じる。このあたりは次の記事が詳しい:「啓蒙とは何か―カント、公私の逆転」("Communication and Deconstruction", 2011年10月14日記事)


言うまでもないが,ジジェクが取り上げたスノーデンとは,アメリカ国家安全保障局(NSA)が国内外で諜報活動を行っていた事実をリークした人物のことである。この一連の騒動については本ブログでも2013年6月6日から4回ほど取り上げた:

これまで,ネット上の言動はどこかで監視されているのだろうな,と感じていた人々はいたに違いない。

しかし,具体的にどのようなことをどんな手段で監視していたのか,というのはスノーデンによって初めて明らかになったわけである。

では,ジジェクの弁を聞いてみよう。


  ◆   ◆   ◆


ジジェクはスノーデンの行為を"public use of reason"すなわち「理性の公的な使用」もしくは「理性の公共的使用」と呼んで支持している。

ジジェクは言う。世界秩序の代表者を僭称する者たちが,自分たちの考えた民主主義や人権を世界中に押しつけ,ITを駆使して世界秩序を乱す動きがないかどうか監視し続けているのが我々の置かれた現状であると。

そして,「理性の公的な使用」の余地がどんどんなくなってきていることを我々は恥じるべきであると。

"What we should be ashamed of is the worldwide process of the gradual narrowing of the space for what Kant called the 'public use of reason'." (Slavoj Zizek)

また,ジジェクは言う。我々のプライバシーが失われることが危険なのではなく,我々の個人的な秘密が「ビッグブラザー」に曝されることが危険なのであると。

"What makes the all-encompassing control of our lives so dangerous is not that we lose our privacy, that all our intimate secrets are exposed to Big Brother." (Slavoj Zizek)

現在,大量の個人情報が国家によって収集されているが,それは膨大過ぎて情報機関のコンピュータをフル活用しても処理しきれないほどである。すると場合によってはコンピュータ・プログラムのバグによって,普通の市民がテロリストと誤認される可能性もある。なぜテロリスト判断されたのか,理由もわからずに。

"Without knowing why, without doing anything illegal, we can all be listed as potential terrorists." (Slavoj Zizek)

我々は,情報機関が我々の秘密を全て把握していることを恐れるだけでなく,情報機関が我々の秘密を間違って把握することをも恐れるべきである。

"we should fear that we have no secrets, that secret state agencies know everything, but we should fear even more that they fail in this endeavour." (Slavoj Zizek)


こういう国家による「理性の私的な使用」が蔓延しつつある状況下で,スノーデン,マニング,アサンジらが内部告発を行ったことは,「理性の公的な使用」として支持するべきことであるとジジェクは主張する。

もちろん,アメリカだけを糾弾するべきではなく,その他の国も「理性の私的な使用」に関して追及されるべきである。ロシアや中国でもスノーデンが登場するべきであるとジジェクは言う。

"We need Mannings and Snowdens in China, in Russia, everywhere." (Slavoj Zizek)

最後にジジェクは内部告発者たちを保護し,彼らのメッセージを拡散する国際的ネットワークの必要性を唱えて,内部告発者たちを称賛して文章を締めくくっている。

"we need a new international network to organise the protection of whistleblowers and the dissemination of their message. Whistleblowers are our heroes because they prove that if those in power can do it, we can also do it." (Slavoj Zizek)


   ◆   ◆   ◆


以上がジジェクの弁の要約である。

外交やインテリジェンスの専門家(プロ)から見たら青臭い議論だと思うだろう。

しかし,プロが自分たちの従っている枠組みや依拠する規範・倫理を盲信するのは危険な話で,自分たちがやっていることは実は「理性の私的な使用」にすぎないと醒めた目でみることは必要だろうと思う。

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2013.09.04

【Bloomberg報道】凍土壁の維持には9800kWの電力が必要

福島第一の放射能汚染水漏れ対策で,「凍土壁」による遮水を行う場合,どのくらいの電力が必要なのか,というのが昨日からの小生の疑問(「遮水壁は凍土壁でいいんですかね?」)だった。

自分で計算しようと思って面倒くさくなってしまったのだが,Bloombergの報道:

"Japan Studies Ice Wall to Halt Radioactive Water Leaks" (by Jacob Adelman and Chisaki Watanabe, August 14, 2013, Bloomberg News)

によると,凍土壁の維持には9800kW (9.8MW)の電力が必要とのことである。

冷凍サイクルCOPをどのくらいで計算したのかよくわからないが。

原発一基の発電能力を100万kWとすると,その1%ぐらい。Bloombergの記事では日本の一般家庭3300軒分と見積もっている。

業務用の電力単価を14円/kWhぐらいとすると,ランニングコストは一年で,9800kW×8760時間(1年)×14円/kWh≒12億円ということになる。

・・・高いのか普通なのかよくわからない。

建設費(イニシャルコスト)の方が,ランニングコストよりもはるかに高いのだろうけど。

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2013.09.03

遮水壁は凍土壁でいいんですかね?

福島第一の放射能汚染水漏れの対策として、遮水壁の建設を行うことになったそうだが,どうして「凍土壁」を選択したのか疑問。

凍土壁の冷却エネルギーたるやずいぶんなものになると思うが,熱伝導のシミュレーションはやったのだろうか? (9月4日加筆:一説では冷却用エネルギー電力は9800kWだそうで

工学的問題としてはたいして難しくない。固体熱伝導計算をやればすぐに必要な冷却量が見積もられるだろう。水流による熱移動を考慮することもSTAR-CD(CCM+)とか熱流体シミュレーションソフトを使って,多孔性媒体を流体が通過する問題として解けば,それほど難しくない。

実績のない凍土壁ではなく、普通の壁を作ってもよいと思うのだが、凍土壁にこだわる理由は何でしょうか・・・?


とここまで書いて風呂に入ってひらめいたのだが,軟弱地盤にトンネルを通す時に使われる「凍結工法」からの発想かもしれない(参考:「凍結工法:ケミカルクラウド株式会社」

ということは,凍土壁による遮水は一時的なもので,凍土壁で水流を防いでいる間に強固なコンクリート壁を建設するということかもしれない。それなら納得。

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2013.09.02

花田清輝『随筆三国志』「良禽は木を選ぶ」は,なかなか良い

前記事に引き続き,花田清輝『随筆三国志』の話。

良禽は木を選ぶ」という随筆を読んだが,なかなか良い。劉備孔明はそれぞれ従来の儒教秩序から脱して,新たな君臣の仕組みを作った,と指摘している。卓見だと思う。

どういう儒教秩序から脱したのかと言うのを以下,述べてみる:


儒教秩序(1)「鳥が木を選ぶ」=賢臣が主君を選ぶ

曹操は広く才人を集めたが,木(主君=曹操自身)が鳥(賢臣)が集まるのを待つ,という姿勢であった。これでは儒教秩序のまま。

劉備は曹操に比べ才は劣っていたが,乱世において儒教秩序が崩壊していることは肌身に感じていた。そこで,三顧の礼を以て,孔明を得ることに成功した。これは「木(主君)が鳥(賢臣)を選ぶ」という,新発明である。文武の才は無いとはいえ,劉備はこの点では明君である。


儒教秩序(2)「三諌して聞かれざればすなわち退く」

=賢臣が主君を三回諌めたのにもかかわらず,諫言が受け入れられなければ,賢臣は主君の下を去って良い。
->さらに言えば,主君がだめなら賢臣は去って良い。「三諌」は立ち去るための儀式にすぎない。

燕の昭王に仕えた楽毅は,昭王の子・恵王の代になるや,恵王と対立し,燕を去った。その後,楽毅は燕が斉に敗れるのを喜んで見ていたという。

孔明の場合,劉備の死後,劉備の子・劉禅に仕えた。劉禅は好人物であるが愚鈍であった。儒教秩序に従えば,孔明は劉禅のもと,すなわち蜀の国を去って良い。しかし孔明は蜀を去らなかった。

なぜか?

蜀は孔明と劉備とその他大勢の人々の協力によって築き上げてきた国=組織である。孔明は自ら築いた組織に忠誠を貫くことにした。木(=君主)ではなく森(=組織)に尽くすことに決めたのである。

「鳥が木を選ぶ」のではなく「鳥が森を選ぶ」という新しい秩序の形を示した。この点で孔明は新しい。


ということで,花田清輝の説によれば,劉備も孔明も新思想の持ち主だったといえる。

新時代を切り開いたかのように言われる曹操の方が,儒教秩序の枠内に収まった旧い人物だったといえそうだ。

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【桂ゆき装幀・挿画】花田清輝『随筆三国志』を読んでいる件

先月の初めに下関美術館で桂ゆきという画家の展覧会を見てきたわけである:「【生誕100年】桂ゆき,その60年におよぶ画業」(2013年8月5日記事)。

絵も素晴らしかったが,本の装幀・挿画の仕事も素晴らしかったので,古本で2冊ほど仕入れた。その一つが花田清輝『随筆三国志』(筑摩書房,1969年)である。

下の写真は外箱,挿絵のページ,そして本文の一部を並べたものである。

Hanadazuihitsusangokushi

挿絵の三人の人物は公孫接(こうそんしょう)・田開疆(でんかいきょう)・古冶子(こやし)の三人,もしくは劉備・関羽・張飛の三人だと思われる。


  ◆   ◆   ◆


挿絵や装幀を鑑賞するつもりで購入したのだが,結局,中身も読んでいるところである。

孔明にプランニングの才を認め,曹操にはタクティクスの才しかなかったのではないかと論じた「蜀犬,日に吠ゆ」や,一見,反体制派集団であるはずの五斗米道や太平道に体制側と同じヒエラルキーがあることを指摘した「怪力乱神を語る」などの論考には知的な興奮を覚えた。

ただし,この本に収められた随筆はいずれも論旨を追うのがしんどい。タイトルや冒頭の文章から,その随筆の最も主張したいことをあらかじめ把握するのは難しい。話があちこちに展開するのを楽しみながらも,ゆっくりと着実に中心的な話題を追っていかないと,何の話をしているのかわからなくなる。

今の世の中ではこういう凝りに凝った文章を書くと怒られるのだろうな,と思う。

とはいえ,アマゾンの書評を見ると,中身,すなわち花田清輝の『随筆三国志』の評価は凄まじく高い。陳琳とか王連とか通好みの人物を取り上げていたり,天下三分の計に深い考察を加えていたりして,三国志ファンには堪らないようだ。

今は,講談社文芸文庫から出ている。

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2013.09.01

オバマの中東戦略失敗と日本のシリア介入支持

オバマ大統領の中東戦略は失敗であると断定するのが,この記事である:

【オピニオン】失敗に終わった米国の中東大戦略」(by WALTER RUSSELL MEAD, WSJ日本語版,2013年8月26日)

シリア情勢だけでなく,イスラエル,エジプト,トルコ,サウジアラビア,イラン,イラク,アフガニスタンと広範囲の米中東戦略の構図について簡潔に解説してくれる。

同記事によれば,オバマ大統領と民主党リベラル派は,穏健派のイスラム主義集団(トルコの公正発展党(AKP)やエジプトのムスリム同胞団)をパートナーとして中東の民主化を進めようとしていた。しかし,それは失敗に終わったという話である。

第1の失敗は,穏健派のイスラム主義集団というのが,力量不足だったということ。とくにエジプトではモルシ大統領は経済を混乱させ,市民が自ら民主政治を捨て,軍によるクーデターを支持することとなった。

また,従来の中東戦略上のパートナーであるイスラエルとサウジアラビアを怒らせたというのも大きな過失である。

スンニ派の盟主たるサウジアラビア(サウジアラビアの国教であるワッハーブ派はスンニ派においてもっとも厳格な宗派)にとっては,ムスリム同胞団は目障りな存在である。それを米国が支持するとはどういうことかと。また,カタールおよびそのメディアである「アルジャジーラ」が「アラブの春」を煽ったのも目障りなことである。エジプト軍によるクーデターをサウジアラビアがひそかに支援したのはムスリム同胞団,カタール,米国に一矢報いるためであった・・・

オバマ大統領はシリアに早期に介入するべきであったが,時期を逸した。結果として内戦の被害は拡大し,また,ロシアとイランのプレゼンスが向上し,アメリカの威信は傷ついた・・・

ということで,現在の中東政策は失敗という結論である。しかし,オバマ大統領にはまだ41か月もの任期がある。オバマ大統領は政策を転換するべきだ,というのが,この記事を書いたミード教授の意見である。

日本の新聞もこのぐらいの解説&オピニオン記事を載せてもらいたいものだが,結局ネットで日本語で読めるからまあいいか。


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失敗に終わった米国の中東大戦略」を読んであらためて気が付いたのが,カタールの暗躍(というかあからさまな跳梁)。

シリア内戦ではカタールが反政府勢力を支援している。カタールのメディア「アルジャジーラ」は「アラブの春」の拡大に貢献したわけだが,「アラブの春」が飛び火して,現在のシリア内戦が始まったわけである。深謀遠慮があるのかないのかよくわからないが,とにかく,カタールは中東における旧来の秩序をひっくり返そうとしているようだ。アメリカはカタールの罠にはまって,カタールとともにアサド政権を倒さざるを得ない状況に陥っている。


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いま現在,米国によるシリア介入の可能性が高まっている。

オバマ大統領はかつてのブッシュ政権によるイラク戦争を「単独行動主義」と非難してきた。そこで,今回はイギリスやフランスなど中東に縁の深い国々と連携してシリアに介入しようと考えたわけである。しかし,イギリスは議会の反対を受け,脱落。オバマ大統領の目論見が崩れ始めた。

このオバマ大統領の窮乏を救うかもしれないのが日本である。軍事介入に参加はしないだろうが,窮乏している人に「一人じゃないよ」と声をかけるのは意義深い。

亡き安倍晋太郎が中東和平に尽力したことを思うと,息子の安倍ちゃんがシリア介入に支持表明するのは複雑な感じがする。だが,現在の日中韓対立を考えると,アメリカとの協力関係を強めておかないとまずいという気もする。そうすると,米国の中東戦略の失敗に巻き込まれることを覚悟の上で,日本は支持を表明せざるをえないということか。

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