NHKスペシャル「亡き人との"再会" ~被災地 三度目の夏に~」を見た
放送当日は出張していたので,録画しておいて今日見た:
NHKスペシャル「亡き人との"再会" ~被災地 三度目の夏に~」(8月23日22:00~放送)
被災地では,震災時に生き残った人々が逝ってしまった家族と再会するという現象が起こっているらしい。
この番組では4つのエピソードが紹介されている。
- 再会その1「おばあちゃん ごめんね」 宮城県女川町の木村信子さん(54)は震災から半年後のある日の未明,濁流に飲み込まれ死んでいった義母きみ子さん(82)に再会した
- 再会その2「お父さんと白い花」 岩手県の須藤文音さん(25)は震災から2週間後,父・勉さん(54)の遺体に対面した。棺に添えられていた白い花は,数日前,靴箱にしまわれていた文音さんのブーツの中に何故か入っていた白い花と同じものだった。
- 再会その3「ママ もう一度笑わせて」 石巻市の遠藤由理さん(39)は震災から3か月後,夢の中で笑顔で見つめる長男康生君(3歳9か月)に再会した。さらに家族で食事中に,康生君のアンパンマンのおもちゃが動作するのを目撃した。
- 再会その4「ずっと一緒だからね」 岩手県山田町の会社員・川村裕也さん(29)は盛岡に出張中に震災で妻と二人の幼い息子を失った。震災後2年が経過した頃,謎の女の子と一緒に,突然成長した息子たちが川村さんの前に現れた。
被災者のケアにあたっている佐々木清志医師が番組中で語っているのだが,被災者の中には亡くなっていた人と再会し,これによって生きる力を得ていく人たちがいるのだそうだ。これを佐々木医師は「死者の力」,すなわち死者が家族をケアする能力であると語っている。
何とも不思議な現象だが,実際に起こっているわけである。
番組冒頭で登場した僧侶・金田諦應氏がわりと合理的な解釈をしている:
「突然いなくなってしまった。その人たちに対してすごく強い思いがあるでしょ。あるっていう。おそらくそれが引き付け合って,いろいろなものを見てしまうのかな」(金田諦應氏談)
生者の思いが死者の姿を見せている/気配を感じさせている,という可能性。これを幻影として片づけるのはあまりにも単純すぎる。小職としては,なぜ,人間にそういうメカニズムが働くのかという根源的なことが知りたい。
関連して思い出すのが「来迎」である。死に臨んだとき,阿弥陀様が来迎することもあるが,およそ三分の一の人々は家族が迎えに来るのを見るという。
今回のNHKスペシャルを通して理解できるのは,我々は誰かにそして互いに見守られながら生きて死ぬ存在である,ということである。
これは,グレッグ・イーガンが『万物理論』の中で描いた,互いに認識し合い肯定し合うことによってこの世界が成立している理論に通じている(主観的宇宙論)。
また,死に臨んでも,親しい者の存在は重要である。生涯の最終局面においても,我々は,来迎する親しい人々とともに光を目指して進もうとする。我々がそんな存在であることは,島崎敏樹が『生きるとは何か』(岩波新書 C78)の最終章で語ったことでもある。
メカニズムはわからないままだが,我々は誰かの気配を感じずに生きることも死ぬこともできない存在であるらしい。
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【蛇足】
朝日新聞のテレビ欄で田玉恵美という人が,この番組に対して「語りによる説明が多いのは,おせっかいが過ぎる」と論評しているが,宮本信子の語りがうるさいようには思えなかった。語りによる説明がなければ,難解な番組になったことだろう。単に,田玉恵美という人の好みの問題。
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