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2013.06.10

セイゴオ読書術2冊一気読み:『本の読み方(1)―皮膚とオブジェ』と『多読術』

米英の諜報活動スキャンダルは4回も記事を書いたのでしばらくお休み。

今日は文化的な話題。セイゴオ(松岡正剛)先生の読書術の新書を2冊,一気読みした件について書く。

そもそもは本棚で10年近く眠っていた新書:

『本の読み方(1)―皮膚とオブジェ』(松岡正剛編集セカイ読本◆中速◆ デジタオブックレット002,2003年4月発行)

をたまたま取り出して見たことから始まる。同書は下の写真(↓)の左側の本である。この本を持っている人はあまりいないんじゃないかと思う。

Honnoyomikata1

この本は「ダイヤモンド・エグゼクティブ」1994年10月号から1995年8月号までに連載された文章をまとめたものである。

これを一気に読んだ後,ベストセラー『多読術』(ちくまプリマ―新書,2009年4月)を初めから終わりまで,やはり一気に再読した。

どちらも読書術なのだが,もっと正確に言うと,本との付き合い方に関する本である。同じ著者のものなので,ほぼ同じ主張が繰り返されている部分もあるし,そうでない部分もある。


  ◆   ◆   ◆


まず,2つの本に共通する主張について。

通常の読書術は,どうやって内容を把握するか,ということに終始しているのだが,セイゴオ流読書術はだいぶ違う。

セイゴオ流読書術では,本の内容を追いながら,同時にその本を読んでいる場所や時間,その本の味わいについても楽しむ,という方法が紹介されている。いわば,本の内容把握だけでなく,読書中の身体感覚や感情の動きも読書体験として重要である,ということ。

『多読術』によれば,読書体験の多重構造に気付いたのは,高校の終わりぐらいにプルーストを読んだことがきっかけだという(『多読術』51頁)。プルーストの作品では「意識の流れ」と「実景描写」が二重進行していることに気付いたというのだ。これを読書術に置き換えると,読書をするときには「場所」を下敷きにするという「二重引き出し読書」という方法となる。

読書の味わいについては『本の読み方(1)―皮膚とオブジェ』の「読書中の内部共鳴現象に注目する」で詳しく論じられている。全く異なる主題,アプローチの本2冊を読んだときに,なぜか読者の心の中ではこれらの2冊の本が重なることがある。セイゴオ先生の挙げた例としては,大澤真幸『意味と他者性』と勅使河原三郎『骨と空気』の2冊,あるいはキャサリン・モーリス『わが子よ,声を聞かせて』と岩村蓬『鮎と蜉蝣の時』の2冊がそういった内部共鳴現象を引き起こしている。

この内部共鳴現象は,本の内容が似ているとか似ていないとかいう話ではなく,読書中に自分の中に湧き起こる感覚の類似性,つまり味わいの類似性によって起こる現象なのである。

「ハンバーグを食べたあとにギョーザを食べて,その匂いや舌ざわりやジューシーな感覚を連続的に楽しんでいることと同じなのだ」(『本の読み方(1)』37ページ)

読書は内容を把握することだけに非ず,読んでいるときの場所,味わいについても多重的に楽しむべし,というのがセイゴオ流ということになるだろう。


  ◆   ◆   ◆


本をオブジェとして見る,という考え方,つまり本の物理性について,『本の読み方(1)―皮膚とオブジェ』でははっきりと一章を設けて語っているのに対し,『多読術』ではあまりはっきりと語っていない。

『多読術』で本の物理性について(間接的に)触れているのは2か所。一つは「本をノートとみなす」,「マーキング読書術」に関して述べた箇所(『多読術』84~86頁)。もう一つはマルチメディアとの比較において,本が「ダブルページ」(見開き)になっていると述べた箇所(『多読術』191頁)である。

これに対して,『本の読み方(1)―皮膚とオブジェ』では「ときに書物をオブジェにしてみる」という章で本の構造について語っている。かつて,セイゴオ先生は稲垣足穂の『人間人形時代』(工作舎)という本を出版した。この本は,本の中央に丸い穴があいているという,いたずら心に満ちたものだった。

「著者の稲垣足穂も『これを50冊並べてレンズをつけたら望遠鏡になるなあ』とよろこんでいた」(『本の読み方(1)』43頁)という。


  ◆   ◆   ◆


セイゴオ先生の語る,本の物理性は重要なことだと思う。

現在,本の電子化が進んでいる。このままだと,書店(リアル書店)の役割がいずれ終わる可能性がある。

もし電子本との違いを示そうとすれば,その物理性を最大限に利用しなくてはならない。セイゴオ先生が示した例は一つの答えである。遊び心に満ちた装丁,造本をすることが,リアル本生き残りの策の一つだろうと思う。

あと,本の物理性に伴う身体感覚も重要だろうと思う。リアル本は全身の感覚で能動的に読むものであり,おそらく頭脳だけでなく,身体感覚としても読書体験が記憶されることだろう。これに対し,電子本では頭脳とあとは目の動きだけ。頭脳と身体の多重な体験を経ていない読書は,忘却されやすいかもしれない。

とりあえず,2冊一気に読んだことによって,読書における身体感覚の重要性,本の物理性などについてあれこれ思いを巡らせることができた。


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