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2013.06.12

『オルグ学入門』を読む(2)

昨日読んだのは

 第1章 大衆組織化の意義とオルグ活動
 第2章 オルグ作戦とその計画の策定

である。今日はその続き,

 第3章 オルグに必要な心理知識とその利用

を読む。


  ◆   ◆   ◆


本書で重要なのは,組織化戦術(オルグ戦術)として社会学や心理学の知見を利用しているところである。

本書では社会的交換理論,刺激反応理論,動機づけ理論の3つを踏まえて,つぎのような一連の組織化戦術公式を示している。

ある組織のオーガナイザが,一人の対象者を説得しているところを想定しよう。オーガナイザは次のような公式を利用する:


第1公式(地獄のイメージ): 現状では,(物質的あるいは精神的な)コストばかりかさみ,それに対する(物質的あるいは精神的な)報酬は少ないままである,という生き地獄のイメージを対象者に植え付ける。

第2公式(極楽のイメージ): オーガナイザの組織に加わることによって,対象者はコストを最小に報酬を最大にすることができる,という極楽のイメージを植え付ける。


この2公式の適用によって,対象者は現状に幻滅し,オーガナイザの組織に加わることに魅力を感じるようになる。しかし,それでも抵抗感を覚える可能性がある。どういう抵抗感かというと,対象者と同じ状況に置かれている仲間たちに対する裏切り行為の様に感じる,ということである。

そこで,オーガナイザは次の2つの公式を利用する:


第3公式(合理化): 現状のままでいることは非合理的であり,オーガナイザの組織に加わることは合理的であると説明する

第4公式(自己犠牲・利他行動のイメージ): 新たな組織に加わることは,対象者個人にとって不利益になる可能性もあるということを述べるとともに,そうはいっても,対象者が組織に加わるという行動は,対象者と同じ状況に置かれている仲間たちの先駆けとなり,仲間たちを利するための自己犠牲として有意義である,ということを説明する


これら4つの公式を駆使して対象者を説得しようというのが,組織化技術(オルグ技術)である。もちろん,これらの公式の有効性を増すためには,説得時にたとえ話,故事成語,有名人の言葉の引用など,話の肉づけを行う必要がある。


  ◆   ◆   ◆


認知不協和説の利用というのも組織化技術の一つである,ということを本書では説明している。

「対象者の考え方を変えれば,対象者の行動も変わる」,というのが従来型の説得術である。

これに対し,「対象者の行動を変えれば,その行動を正当化しようとして対象者の考え方も変わる」,というのが認知不協和説を利用した説得術である。

昨日の記事で書いた「文化オルグ,行動オルグ」というのが,認知不協和説を利用した組織化技術である。つまり,まず,オーガナイザの組織の活動に参加させ,その結果として考え方を変えさせる,というわけである。ヒトラーのベルリン五輪なんか,その一例かもしれない。


  ◆   ◆   ◆


以上述べたのは,対象者を説得する技術である。

本章の最後では,競合する組織間での交渉の枠組みが紹介されている。

複数の組織が競合している状況では,何が重要かと言うと,自分の組織の生存である。自分の組織が生存するためには,多数派工作(本書では「勝連合」と称している)必要である。

多数派工作の技術としては,自組織と他組織がそれぞれ持っている目標の共通部分となる上位目標を設定する,というものがある。

また,自組織と他組織との間で条件交渉がある場合には,例えば,最初に自組織にとって大幅に有利な条件を提示し,しかる後に条件の大幅譲歩(とはいっても結局は自組織にとって有利なレベルの譲歩)を行って,他組織にとって非常に得であるかのような錯覚を起こさせるという手もある。

まあこのあたり,本書ではあまり詳しく書かれていないが,実際には,経営学というか,ビジネス交渉術などを取り入れるのが,いいんじゃないかと思う。

オルグ学入門オルグ学入門
村田 宏雄

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