『オルグ学入門』を読む(1)
一昨年,広島市の丸善ジュンク堂で平積みになっていたのを買ったものの,自宅の本棚に収納したままだった。
昨日,偶然目にしたので読んでみることにした。
それにしても買ったまま放置している本の多いこと。
オルグ学入門 村田 宏雄 勁草書房 2011-05-10 売り上げランキング : 575139 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「オルグ」という言葉の古さ。今ではほぼ死語に近いのではないかと思う。
オルグという言葉から連想されるのは,左翼の活動家が学生や労働者を煽って組織に勧誘する情景である。著者もそれは念頭に置いているようである。しかし,この本が目指しているのは,オルグと言う活動の一般化,理論化,体系化である。
オルグというのは,ドイツ語由来の日本語だろう。英語で言えば,organization,つまり組織化である。また,オルグと言う言葉はオルグ活動をする人,organizerを指すこともある。
個人は弱い。抑圧者や外敵に対抗しようとすれば,個人個人を束ねて組織化することが必要である。これがオルグ。
いったん,組織化が成功しても,組織が巨大化すれば,今度は組織内の成員の中に組織の主張や活動に無関心な人々が増える。この人々を変革し,組織を再活性化させること,これもオルグである。
つまり,ばらばらの個人個人の組織化と組織内部の活性化,これらの活動がオルグなのである。
◆ ◆ ◆
オルグという言葉が書いてて気に食わないので,本ブログではなるべく組織化活動と言うことにしよう。また,組織内部の活性化についてオルグと言う場合には,再組織化活動とでも呼ぶことにしよう。さらに,オルグを行う人をオーガナイザと呼ぶことにしよう。これですっきりした。
さて,主義主張はどうあれ,ある主張の下に,ばらばらの人々を束ねようとすれば,組織化活動が必要になる。人々はたとえ困難な状況に置かれても,自然にはまとまらない(危機に際しては自然に組織化が行われるという説もあるがここではわきに置いておく)。オーガナイザが積極的に組織化活動を展開しなければ,人々はばらばらのままである。
しかし,組織化活動というのは,人々に対して主義主張,理屈をこねてみても進展しないし,思いつきで呼びかけを行っても成功しない。何らかの作法に基づいて行わなくてはならない。組織化活動の方法の体系化,それが,本書のねらいである。
経営学では経営組織論という一部門があり,理論と実践の両面において莫大な量の知見が蓄積されているわけだが,それは企業の社員など,既に経営組織の成員となっている人々をまとめ,効率的に組織を運営することを目的とした学問である。
これに対し,主義主張,目的,知識レベルの異なる人々を組織化する方法は整備されていない,というのが,著者・村田宏雄が第1章で主張することである。そして第2章では,組織化活動に戦略と戦術が必要であることを述べている。
◆ ◆ ◆
本書の第2章では,組織化戦術(オルグ戦術)として以下の戦術を羅列している。
- 理論オルグ: 理論を道具に用いる組織化戦術
- 正統派理論オルグ: 対象者に対し,理論的に組織化の必要性,組織後の展望について述べて説得する
- 大衆用理論オルグ: 対象者に対し,組織化の現実的なご利益を強調して説得する
- 感情オルグ: 感情に訴える組織化戦術
- 恐怖喚起: 対象者に対し,恐怖を与えるようなことを述べ,その恐怖から逃れるためには組織に加わるしかないことを主張する
- スケープ・ゴート: 対象者に対し,共通の敵を示し,それを打倒するために組織化が必要であることを主張する
- 文化オルグ: 文化活動を通して対象者をひきつける
- 行動オルグ: 行動参加により一体感を高め,対象者をひきつける
- 理論闘争オルグ: 対象者と議論して説得する
こうした戦術は,対象者の性質によって使い分けるべきであること,また,戦術の組み合わせとしての戦略は,自分の組織の状況,社会状況,対象者の状況の3つの組み合わせによって決定するべきこと,などが第2章で述べられている。
経営学で言えば,自分の組織の状況は内部環境,社会状況は外部環境,対象者の状況はSTPの中のST(セグメンテーションとターゲティング)ということに対応すると思う。
◆ ◆ ◆
ということで,まだ読み始めたばかりだが,『オルグ学入門』は「オルグ」という古臭い言葉で損しているものの,経営学の知識で解釈でき,しかも,マーケティングや経営組織論に様々な示唆(implication)を与えてくれるものではなかろうか,と思っている。
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コメント
オルグなんて聞いたことありませんでした。
参考になります。
投稿: 会話のきっかけ★吉野 | 2013.06.11 21:32