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2013.05.09

グレッグ・イーガン"Zendegi"再読: 人間を要約する話

グレッグ・イーガンの"Zendegi"(ゼンデーギー/ゼンデギー,ペルシャ語で「生命・生活」の意味)を再読した。

ZendegiZendegi
Greg Egan

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おそらく山岸真先生が訳してハヤカワか創元推理文庫から日本語版を出してくれるだろうが,それまでは辞書を引きながら原著を読むしかない。

この作品の全体的なあらすじは,板倉充洋先生が触れているし,第1部については小生もあらすじをまとめたことがある(Greg Egan: Zendegi (The Life) Part Oneのまとめ)ので,ここでは繰り返さない。

ここでは"Zendegi"の全体を通して重要なキーワードは「要約」だということを述べておきたい。


  ◆   ◆   ◆


第1部第1章にはこんなエピソードが描かれている。

2012年,主人公,オーストラリアのジャーナリスト,マーティン・セイモア(Martin Seymour)はイランの総選挙取材のため,テヘランに向かった。

この取材旅行の前に,マーティンは大量のLPレコードコレクション(80年代POPS)をディジタル化(mp3変換)し,オリジナルのLPレコードを全部処分した。で,テヘランに向かう機上でディジタル化した曲を再生してみたらノイズが酷くてとても聞けないものになっていた。せっかく集めていたコレクションがゴミの山に・・・。

ここで行っている音楽のディジタル化というのは,オリジナルのアナログ情報の不要だと思われる部分を削除して,必要と思われる部分だけを再現する作業である。いわば「要約」の作業だと言える。

ディジタル化の際に「切り捨てたところに大事なものが…」「切り捨てたら大変なことが…」というのがこのエピソードの重要な教訓。


この「要約問題」は第4章にも出てくる。それは上述の板倉先生のブログでも引用されている「文学作品の要約技術」の話。


で,一番大事な「要約問題」は第2部(2027~2028年)のヴァーチャル人格:Proxy問題である。

本作のもう一人の主人公,ネットゲーム空間"Zendegi-ye-Behtar (ゼンデギー・イェ・ベフタル※1)"の開発者,ナスィーム・ゴレスタニ(Nasim Golestani※2)が,ネットゲーム上で活動するNPC(Non player character※3)をより人間らしくしようと,機能を限定したヴァーチャル人格:Proxyを開発した。

  ※1 Better Lifeの意味
  ※2 ペルシャ語でNasimは「そよ風」,Golestaniは「バラ園」の意味
  ※3 人間が操作しないキャラクター

このヴァーチャル人格Proxyは,かつてナスィームが参加していたHCP(ヒト・コネクトーム・プロジェクト)の成果を利用して作られるもので,人間の神経回路のうち,必要なところだけをモデル化して作られる。Proxyたちは長期記憶を持たないが,限定された範囲で,人間のように感情を示したり,話したり,判断したり,行動したりする。いわば「要約人間」である。

マーティンは,ある理由によって,自分の人格の一部を要約してProxyに移植しようとするのだが,そこでいろいろと問題が生じる。反対運動なども発生する。人間を要約していいのかどうか,それが第2部の核心的問題である。

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