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2013.04.28

いい職業/悪い職業・2013全米ベストテン

CNNが報道しているのだが,「どの職業がいいか」というランキングをCareerCastというサイトが発表している:

Jobs Rated 2013: Ranking 200 Jobs From Best To Worst (by CareerCast.com)

もちろん,アメリカでの話である。

ランキングの基準は,労働環境,年収,雇用見通し,そしてストレスの4つである。

ベストテンは次の通り。金額は年収である:

  • 第1位 保険数理士 (Actuary), $91,211
  • 第2位 生物医学技術者 (Biomedical Engineer), $85,163
  • 第3位 ソフトウェア技術者 (Software Engineer), $89,147
  • 第4位 聴覚訓練士 (Audiologist), $68,135
  • 第5位 ファイナンシャル・プランナー (Financial Planner), $107,222
  • 第6位 歯科衛生士 (Dental Hygienist), $69,107
  • 第7位 作業療法士 (Occupational Therapist), $74,108
  • 第8位 検眼士 (Optometrist), $95,254
  • 第9位 理学療法士 (Physical Therapist), $78,102
  • 第10位 システムアナリスト (Computer System Analyst), $79,145

一瞥すれば,医療分野の職業が多いことが分かる。

保険数理士というのは,統計学を駆使して災害(リスク)の確率を計算し,保険料を決定する人々のことだが,最近は金融工学分野でも彼らの能力が重要になっている。


  ◆   ◆   ◆


さて,ワーストテンはどうかというと次の通り。金額は俳優を除き,年収である:

  • 第1位 新聞記者 (Newspaper Reporter), $36,000
  • 第2位 木こり (Lumberjack), $32,870
  • 第3位 志願兵 (Enlisted Military Personnel), $41,998
  • 第4位 俳優 (Actor), $17.44/hour
  • 第5位 石油採掘労働者 (Oil Rig Worker), $37,640
  • 第6位 酪農家 (Dairy Farmer), $60,750
  • 第7位 検針者 (Meter Reader), $36,400
  • 第8位 郵便配達員 (Mail Carrier), $53,090
  • 第9位 屋根職人 (Roofer), $34,220
  • 第10位 客室乗務員 (Flight Attendant), $37,740

米国では新聞業界の衰退が激しく,かつて花形の職業だった新聞記者は,もはや就くべきでない仕事となっている。新聞記者の数は年6パーセントの勢いで減少しているという。

基本的に,インターネットや人工知能の発達により,ロボット化というか自動化が可能になる分野の職業はもはやいい仕事とは言えない。木こりや石油掘削や兵士はこれからロボットに置き換わっていくだろうし,新聞,検針,郵便などはインターネットの利用によって解消されていくだろう。


  ◆   ◆   ◆


以上はあくまでも米国でのランキングだが,日本でも,医療分野での求人は増えるだろうし,ロボット化可能な分野での求人は減少するだろう。

もちろん,上記のランキングが「あなたにとってベストな職業とは?」ということとは無関係であることは言うまでもない。

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2013.04.24

ギリシャの"Katogi Averof"とスペインの"Marina Alta"

食事のお供に白ワインを飲むことがある。高くないやつ。ワイン通じゃないので。

最近飲んだのは宇部の井筒屋で買ったギリシャの白ワイン"Κατωγι Αβερωφ" = "Katogi Averof"(カトーギ・アヴェロフ)と北九州のコレット(井筒屋)で買ったスペインの白ワイン"Marina Alta"(マリーナ・アルタ)の2種類。

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まずKatogi Averofの件

Katogi Averofは赤ワインもあるが,これはRhoditis(もしくはRoditis)というペロポネソス半島で伝統的に栽培されているブドウと,白ワインの原料としておなじみのシャルドネとをブレンドして作られたワインである。素晴らしい黄金色と芳醇な香り。ただし,2009年が他の年より良いかどうかは不明。

Averofというのはワイナリーの創設者,エヴァンゲロス・アヴェロフのことである。そして,Katogiとは「下の階」という意味である。つまり,Katogi Averofとはアヴェロフ家の下の階ということを意味する。

写真(左)でもわかるように,かわいらしいデザインのラベルが特徴的である。

ワイナリーのページはこちら


そしてMarina Altaの件

これはマスカット・オブ・アレクサンドリアを使ったスペインの白ワイン。ボコパというバレンシア州の協同組合が作っている。

1995年にボルドーのVinexpoで金賞,2001年にバレンシア州の白ワイン大賞を受賞,というようにいくつもの賞を受賞している。

とても淡く輝くような色で,柑橘系やハーブの香りも感じさせる。やや辛口で飲みやすい。ただし,2010年物は受賞はしてない様子。

ワイナリーのページはこちら

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2013.04.18

ネットワークアダプタが検出されなくて大騒動

勤め先で使っているパソコンがネットワークにつながらず,半日,大騒ぎ。 

まあ,仕事部屋で一人でバタバタしていたので,自分の中での大騒ぎに過ぎないのだが。


  ◆   ◆   ◆


仕事用パソコンは常にLANケーブルで勤め先のネットワークに接続している。

今朝,出勤後に仕事用パソコンを立ち上げたところ,ネットワークにつながっていないことが判明した。

たまに勤め先のネットワーク側がおかしいことがあるので,今回もそうだろうと思って,放置したまま会議などに出かけたわけである。

午後になって仕事部屋に戻ってみると,やはり仕事用パソコンがネットワークにつながっていない。

試しに予備パソコンをLANケーブルでネットワークに接続してみた。すると,ネットワークにつながった。 と,いうことは勤め先のネットワーク側には問題がないということである。

ここで,仕事用パソコンをよくよく調べてみると,ネットワークアダプタ(NIC)が認識されていないことが判明。

以下はネットワークアダプタを認識させるための空しい努力の数々である:

  • デバイスマネージャーで調べてみる(セーフモードでデバイスマネージャーを開いたり,通常モードでデバイスマネージャーを開き,「非表示のデバイスの表示」を選択したりする)と,ちゃんとネットワークアダプタのドライバーは存在していた。
  • BIOSの設定の問題かと思ったが,LANは"Enable"に設定されていて問題なし。
  • ネットワークアダプタのドライバーを消去して再インストールしたり,「システムの復元」を実行したり,いろいろやってみたものの反応なし。
  • パソコンのLANケーブルのソケット自体に問題があるのではないかとチェックしたが,普段通りの緑色のランプが点灯していて問題なし。

予備パソコンを無線LANで勤め先のネットワークにつなぎ,ネット上で情報を収集してみたが,どれもこれも試したことばかり。


  ◆   ◆   ◆


夜の7時を過ぎて,そろそろ打つ手なしと思っていたところ,予備パソコン上でこんな記事を見つけた:

ネットワークアダプタ(NIC)を認識しない怪現象

このブログ記事によると,孫引きになるが

電源落として,電源ケーブルを抜いて、またそれを元に戻したらNICを認識した

という対策で解決したという話であった。

電源ケーブルをパソコンにつないでいるということは,結局,待機電力をパソコンに供給しているということである。この待機電力によって,パソコン上のなんらかの問題のある情報が保持されて,上手くいかないのかもしれない。

ということで,ご神託の通りに,仕事用パソコンの電源を落とし,電源ケーブルを抜いて完全に電力の供給を絶ち,LANケーブルも抜いた。そして,すべてを元通りに戻して仕事用パソコンを再起動した。


すると。

まるで何事もなかったかのようにネットワークアダプタが認識され,仕事用パソコンがネットワークにつながった。


  ◆   ◆   ◆


システムを変な風にいじった覚えがないのにもかかわらず,ネットワークアダプタが認識されていない場合,電力の供給を完全に断ってから再起動,というのは試してみるべき対策の一つである。

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2013.04.15

カリフォルニアは省エネ大国

今週,某所で省エネに関して話す機会があるので,資料を作っている。

Flag_of_california_svg

話題提供としていくつかのネタをまとめたのだが,その一つが「カリフォルニアは省エネ大国」という話。


  ◆   ◆   ◆


アメリカというと,エネルギーをバンバン使って,贅沢をしている国というイメージであるが(そう思っているのは小生だけですかね?),州ごとに見ると状況が大きく異なる。

カリフォルニア州は全米でもとくに環境保護や省エネに熱心な州である。

例えば,California Energy Commissionが発表している資料"U.S. Per Capita Electricity Use By State In 2010"によると,2010年の一人あたり電力消費量では,カリフォルニア州が全米で最も低いところにランキングされている(51位)。

一人あたり全エネルギー消費量(≒一人あたり一次エネルギー供給量)でも48位だ。


とは言っても,省エネ大国日本にかなうまい!

と思うところだが,念のため,全米,日本,カリフォルニア州で比較を行ってみる。

面倒な計算のところはここでは述べないが,3者を比較すると,結果として次の表のとおりとなる。

国・州一人あたりGDP [$]一人あたり一次エネルギー供給 [GJ/年・人]エネルギー生産効率 [$/GJ]
全米42429299.5141.7
日本34239172.5198.5
カリフォルニア46488199.0233.6

日米比較のため,日本円を購買力平価(PPP)でドル換算している。

この表をスライドにしたのが,次の図である。

一人あたりの一次エネルギー供給量

(クリックして拡大)

全米と日本を比較すると,日本の方が,一人あたりの一次エネルギー供給が小さく省エネ。しかし,カリフォルニアと日本を比較するとその差は小さい。

さらに,エネルギー生産効率(Wikipedia「エネルギーの経済効率」参照),つまり,エネルギーを投入して得られるGDPを比較すると,カリフォルニアの方が日本よりも効率が良い。

つまり経済の「燃費」を考えると,日本全体の平均よりもカリフォルニアの方が省エネというわけである。


カリフォルニアは人口3700万人を超え,GDP規模では世界10位以内の国家に匹敵する「大国」である。省エネについても大国。


※注
ちなみに,日本ではエネルギーの輸出をしないので一次エネルギー供給が国内に供給され消費されるエネルギーの総量になる。つまり一次エネルギー供給=消費(需要)。

しかし,アメリカでは,一次エネルギー供給の一部は輸出されるので,一次エネルギー供給 - 輸出分 = 消費(需要)となる。日本の一次エネルギー供給はアメリカでは一次エネルギー消費にあたる(実際,EIAの統計でも"Primary Energy Consumption"と呼んでいる)。

なお,エネルギー転換ロスなどがあるため,一次エネルギー供給もしくは一次エネルギー消費と最終消費(End Use)の間には大きな差があるというのは言わずもがな。

データ参照元:
[1] Energy Information Administration, http://www.eia.gov/
[2] 資源エネルギー庁『エネルギー白書2012』
[3] Gross Domestic Product by State, Advance Statistics for 2010 and Revised Statistics for 2007 - 2009, By Jonathan E. Avery, Todd P. Siebeneck, and Robert P. Tate, BEA

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2013.04.11

秋田犬「ゆめ」はプーチンとともに雪中で遊ぶ

今回は肩の凝らないニュースをお知らせする。

東日本大震災に対する支援に感謝するため,2012年7月,秋田県からプーチン大統領に秋田犬が送られ「ゆめ」と名付けられた。

そして,2013年2月,返礼としてロシアからはシベリア猫「ミール」が秋田県に贈られた。

さて,ロシアに行った「ゆめ」はどうなったかというと,プーチンに可愛がられているようだ。

ロシア大統領府が,「ゆめ」とブルガリアン・シェパードBuffyといっしょに雪の中で戯れるプーチンの姿を公開している:

"Walking in Moscow Region" (March 24, 2013)

プーチン大統領が犬好きであることが良く伝わってくるとともに,そのメディア戦術の巧みさも感じるわけである。

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2013.04.09

オーギュスト・ブランキ『天体による永遠』を読んだ件:「進歩思想への幻滅」を乗り越える

歴代の為政者から最も恐れられ,マルクスも一目置いた革命家,オーギュスト・ブランキによる著作である。

革命家が,なぜ獄中で天体や永遠について思考を巡らせたのか?

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その謎について,訳者浜本正文は直接答えず,読者に議論を委ねている。しかし,これが書かれた状況については,解説の中で詳述している。

1871年3月17日,パリ・コミューン勃発の一日前,老いたりとはいえ最も危険な革命家と目されたブランキは逮捕され,トーロー要塞(Chateau du Taureau)に幽閉された。

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↑トーロー要塞(Wikimediaより)

トーロー要塞はブルターニュ半島の先端近くの岩礁の上に築かれた要塞だった。ブランキが幽閉された土牢は,海に面していたものの,海側の窓は脱走防止のため塗りつぶされていた。陽光は全く差し込まず,鉄格子のはまった窓と上部の明り取りを通して,中庭側の光が漏れてくるだけだった。ブランキは土牢の中で,寒さと湿気と騒音に襲われながら,この論文を完成させた。

物理的にも精神的にも出口のない状況で,ブランキが到達したのは「永劫回帰の憂鬱」だった。


  ◆   ◆   ◆


ブランキの永劫回帰論

『天体による永遠』の中で,ブランキは次のように「永劫回帰論」を展開している:

  • 宇宙は時間的・空間的に無限であり,無限の天体で満たされている
  • ところで物質を構成している元素の種類はたかだか100程度である
  • 元素の種類が有限である以上,元素の組み合わせにすぎない物質もまた有限の種類しか存在しえない
  • 天体もまた物質で構成されており,有限の種類しか存在しえない(言い方を変えると「オリジナル」の天体の数は{莫大な数に上るとはいえ}有限である)
  • 有限の数の「オリジナル」の天体によって,時間的・空間的に無限の宇宙を満たすことはできない。満たそうとすれば,「オリジナル」の天体のコピーを繰り返す必要がある。つまり,宇宙には瓜二つの天体が現在のみならず過去・未来にわたって無数に存在する
  • ということは我々の地球と瓜二つの天体が現在・過去・未来にわたって無数に存在するということである
  • それら瓜二つの地球にも我々と瓜二つの人間たちが存在する
  • 我々と瓜二つであるとはいえ,それらの人間たちは各時点で我々とは異なった意思決定をして別の道を歩んでいく可能性はある
  • しかし,別の運命を歩んでいくとはいっても,その意思決定の分岐の組み合わせもまた有限である
  • 無数に存在する地球と瓜二つの天体の中には,我々と同じ運命を歩む人間たちが存在する
  • つまり,我々が行っていることは,宇宙のどこかで,そして過去から未来にわたって何回も繰り返されていることなのである
  • ようするに「永劫回帰

ブランキは自分の境遇もまた永遠に繰り返されるものであるということを述べている:

「トーロー要塞の土牢の中で今私が書いていることを,同じテーブルに向かい,同じペンを持ち,同じ服を着て,今と全く同じ状況の中で,かつて私は書いたのであり,未来永劫に書くであろう。私以外の人間についても同様である」(132頁)


  ◆   ◆   ◆


「永劫回帰」から進歩思想に対する幻滅へ

ブランキは天体に関する考察からスタートして,「永劫回帰」という結論を得た。ニーチェに先立つこと10年。

「永劫回帰」ということは存在の永遠性を保証する。ブランキはこれに満足しただろうか?

否。

「ところが,ここに一つ重大な欠陥が現れる。進歩がないということだ」(133ページ)

革命家にとって進歩の否定,愚行の反復,というのは耐え難いことである。

こうして『天体による永遠』における考察は,進歩思想に対する幻滅へと至る。

このあたり,FACTA発行人阿部重夫氏が「オーギュスト・ブランキ『天体による永遠』書評」(阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」,2012年11月7日)で語っている通りである。


  ◆   ◆   ◆


「永劫回帰の憂鬱」を乗り越えるために

上述のブログで阿部氏はこの本のことを「あらゆる進歩の思想に幻滅した人向きかもしれない」と述べる。

まさにその通りだろう。しかし,どのような意味で?

阿部氏は語っていないが,それは「永劫回帰の憂鬱」=「進歩思想への幻滅」を超越するという意味で,「あらゆる進歩の思想に幻滅した人向き」の本であるということである。

ブランキ『天体による永遠』はブランキ自身が記述した本文だけではなく,訳者・浜本正文による詳細な解説を踏まえて理解しなくてはならない。

同解説によれば,ブランキは『天体による永遠』を書き記すよりもはるかに前からペシミストだった(1850年のプルードンの書簡による)。

ペシミストであるブランキは「明日は今日よりも良くなる筈」,「明日は今日よりも良くなるべき」というような進歩思想を採らない。ユートピア思想やプログラム化された科学的社会主義思想には与しない。

ブランキは予定された(つまり,過去の繰り返しに過ぎない)「未来」ではなく,「今」に全てを傾注する。『天体による永遠』の解説文中のベンヤミンの言葉を孫引きすれば,ブランキの行動の前提となるのは,

「けっして進歩への信仰ではなく,さしあたってはただ現在の不正を一掃する決意だけである」(187~188ページ)


ブランキ『天体による永遠』とその解説を踏まえれば,「永劫回帰の憂鬱」=「進歩思想への幻滅」を乗り越えるために,何を考えれば良いのかは明らかである。

あらゆる進歩の思想に幻滅した人は,幻滅で終わるのではなく,今ある不正に怒りを持ち,それに立ち向かう決意を固めるしかない。

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2013.04.05

今野浩『工学部ヒラノ助教授の敗戦』を読んだ件

今野先生といえば,「金融工学者」として紹介されることもあるが,どちらかと言えば線形計画法の専門家である。

カーマーカー特許とソフトウェア 数学は特許になるか』(中公新書,1995年)とか『役に立つ一次式 整数計画法「気まぐれな王女」の50年』(日本評論社,2005年)とか,線形計画法に関する一般向けの本を書くことでも知られている人である。

今回紹介するのはその人が昨年出版した,筑波大学設立時のドロドロの内部抗争を描いた本である。

工学部ヒラノ助教授の敗戦 日本のソフトウエアはなぜ敗れたのか工学部ヒラノ助教授の敗戦 日本のソフトウエアはなぜ敗れたのか
今野浩

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1977年に開設された筑波大学の情報学類は世界最大規模の「ソフトウェア学科」になるはずだった。しかし,学類の内部抗争と物理帝国の猛攻(植民地化)によって,その構想はもろくも崩れ去った…という内容である。

もちろん小説※である。しかし,今野先生を知っている某先生が「よくもまあ抜け抜けと…」と言うのを小生は直接お聞きしたので,かなり本当の話(あくまでも今野先生視点だが)が書かれていると考えていいだろう。

筑波大学第3代学長の福田信之や,ヒラノ青年の師匠にあたる森口繁一などの故人は実名で登場する(敬称略)。存命の人物はイニシャルや仮名で登場するが,調べれば誰のことなのかすぐにわかる※※。


アマゾンの批評などを見ると,大学の内情がわかって面白い,という評価が見られる。小生もそう思う。


だが本記事では,「ヒラノ助教授」の心情を描写した記述に注目したい。というのも,そこには典型的な学者の「物事の考え方」が反映されているからである。

一般教養蔑視

「研究者は,自分の分野に深くコミットしている。彼らにとって大事なものは専門教育と大学院教育であって,”その他大勢の”学生を対象とする一般教育はやらずに済ませたいと考えるものである」(117~118頁)

田舎蔑視

「バスを降りた時に頭をよぎったのは,キャロル・リードの『文化果つるところ』という映画のタイトルだった」(37頁)

「いくら頭が良くても,井口助教授と比べれば白貝氏は田舎の秀才の域を出ない。これが,都会の名門高校を出たヒラノ青年が考えたことだった」(97頁)


優秀な研究者で一般教養に燃える人もいるので,大学教員がヒラノ助教授タイプばかりかというと違う。だが,「教育嫌い・田舎嫌い」という研究者は結構いる。


内部抗争と物理帝国の侵略によって,ボロボロになったヒラノ助教授は東工大に転出するのだが,ここで言うのが

…エンジニアの本拠地 "東京工業大学"…(173頁)

小生の知り合いの元エンジニアに各地の高専・大学を転々としつつ東工大の教授になる夢を追い続けているのがいるが,そんなにあこがれの地なのかね,東工大。ヒラノ助教授の場合は,筑波大学での8年があまりにも過酷だったから,そして東工大で厚遇されたから,こういうセリフが出てしまったのだろうが,他の工学系大学関係者は鼻白むことだろうと思う。


大学の内情と学者個人の価値観とを「抜け抜けと」描き出したあたり,稀に見る小説だと思う。名著か迷著かはさておき。


※ 小説ではある。しかし,内部暴露ものとしての面白さが重要であって,文学的価値はない。そんなものは誰も求めていないと思うが…。同僚とヒラノ助教授とを三銃士(ヒラノ助教授はアトス)に例え,さらに福田副学長をリシュリューに例え,何か物語を予感させつつも,ダルタニャンもミレディーも登場せず,伏線めいたものは不発のままである。

※※ 例えば「有馬俊一」は甘利俊一,「井口正彦」は伊理正夫,「白貝茂夫」は五十嵐滋,白貝グループの「Y2助教授」は八杉満利子・・・というように(敬称略)。

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2013.04.01

更級日記は「大野の語彙法則」に従うか?

大野の語彙法則という日本の古典に関する統計的法則がある。

『更級日記』もこの法則に従うかどうかを検討してみた。


大野の語彙法則」というのは,国語学者の大野晋(おおの・すすむ)が1956年に発表した法則である。

正確な記述はWikipediaの記事を参照していただくとして,だいたいこんな法則(水谷静夫による改訂版)である。

(1) 万葉集,土佐日記,竹取物語,枕草子,源氏物語,紫式部日記,讃岐典侍日記,方丈記,徒然草の9作品に登場する語彙(ただし,助詞・助動詞を除く)を,品詞別に分けて集計し,構成比を求める

(2) 作品ごとの名詞の構成比を横軸,動詞・形容詞・形容動詞の構成比を縦軸にプロットすると,動詞・形容詞・形容動詞の構成比はそれぞれ右下がりの直線上に並ぶ

ようするに,日本の古典では,動詞,形容詞,形容動詞の構成比は名詞の構成比の関数となる,ということである。

論より証拠で,実際にデータを見てみよう。


  ◆   ◆   ◆


水谷静夫『数理言語学』(培風館,1982年)14ページに掲載されていた表を2つの表に分けて紹介しよう。

まず,各作品に登場する語彙の品詞別語数は次のようになる:

作品名名詞形容動詞形容詞動詞その他
万葉集46607527615454527008
土佐日記529126632665998
竹取物語71745105552941513
枕草子304821534916202525484
源氏物語65016831130555482014688
紫式部日記1433117222874962742
讃岐典侍日記β982651256331261931
方丈記6522766344641153
徒然草283613128513802104842

『讃岐典侍日記』にβという記号を付けた理由は後で述べる。
この表を構成比[%]で書き直すと次のようになる:

作品名名詞形容動詞形容詞動詞その他
万葉集66.51.13.922.06.4
土佐日記53.01.26.632.76.5
竹取物語47.43.06.936.56.2
枕草子55.63.96.429.54.6
源氏物語44.34.77.737.85.6
紫式部日記52.34.38.131.93.5
讃岐典侍日記β50.93.46.532.86.5
方丈記56.52.35.729.85.6
徒然草58.62.75.928.54.3

この表のデータを用いて,各作品の名詞の構成比を横軸に,動詞・形容詞・形容動詞の構成比を縦軸にプロットしてみると次のグラフのような結果が得られる。

Ohno01

動詞・形容詞・形容動詞が直線的に並んでいるのが読み取れる。これが視覚化された「大野の語彙法則」である。


  ◆   ◆   ◆


さて,古典9作品については法則が成立しているように見えるが,他の作品ではどうなるのか?

小生は古くから親しんでいる『更級日記』で実験してみることにした。手元に『更級日記』の総索引がついているような本がないのと,時間がかかりそうなので,冒頭の3センテンス:

「あづま路の道のはてよりも,なほ奥つ方に生ひ出たる人…見捨てたてまつる悲しくて,人知れずうち泣かれぬ。」

の範囲を対象にして挑戦。

大野晋・佐竹昭広・前田金五郎編『岩波古語辞典』を片手に単語を分類してみた結果,冒頭3センテンスに関しては以下の結果となった:

語数(助詞・助動詞を除く)


  • 名詞: 44

  • 形容動詞: 3

  • 形容詞: 7

  • 動詞: 37

  • その他: 11

  • 合計: 102


構成比


  • 名詞: 43%

  • 形容動詞: 3%

  • 形容詞: 7%

  • 動詞: 36%

  • その他: 11%


分類の時に困ったのは「人知れず」のような連語である。名詞や動詞に分解した場合,意味が変わってしまう。仕方がないので,連語はその他に分類した。多分,こういう操作によって,それぞれ品詞の数が変動すると思う。

さて,以上の結果を先ほどのグラフに加えてプロットしてみると以下の通りとなる。オレンジ色が『更級日記』冒頭部分を表している:

Ohno02

動詞・形容詞・形容動詞のいずれも,若干,直線から外れているように見えるが,大外れというほどでもないと思う。わずか3センテンスだけで実験したため,このような結果になったが,『更級日記』全文でやれば「大野の語彙法則」により近づく可能性もある。


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※『讃岐典侍日記』にβを付けた理由だが,これは修正後のデータという意味である。大野晋が使った『讃岐典侍日記』の総索引では複合動詞を認めなかったため,動詞の数が424個となっていたのだが,大野晋は複合動詞を認め,633個と動詞の数を増やしたのである。
 語数の数え方は非常に重要な問題である。小生の場合も「連語」をどう扱うか困ったわけである。

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