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2013.03.13

ベータ(β)はいつヴィータとなりたまいしか?

過去,何度かギリシャに行ったことがあるが,そのたびに意識させられたのが,”β”という文字が,"b"という子音ではなく,"v"という子音を表すのに使われていることである。

現在のギリシャでは”β”は「ベータ」もしくは「ビータ」ではなく,「ヴィータ」なのである。

古代ギリシャ語では”β”は"b"の音を表すのに用いられていた。日本のみならず米英で数学などで”β”の文字を使うときに「ベータ」と呼んでいるのはこれに由来する。

しかし現代ギリシャ語では”β”は"v"の音を表す。


では,いつ”β”の発音が"b"から"v"に変わったのか?

この変化はかなりゆっくりとした変化だったようである。一般に紀元後数百年の間に変化したといわれている。

証拠としてはギリシャ文字由来の2つのアルファベットの発音がある。

Wikipediaの"Ancient Greek phonology"の記事の"Comparison with younger/derived alphabets"の項に書かれていることだが,ギリシャ文字をもとに4世紀にウルフィラによって作られた「ゴート文字」では,”β”に対応する文字の発音は"b"となっている。

これに対し,おなじくギリシャ文字をもとに9世紀後半に第一ブルガリア帝国で古代教会スラヴ語を表すために作られた初期キリル文字では”β”に対応する文字の発音は"v"となっている。

これらの証拠から”β”の発音が変化したのは4世紀から9世紀の間,というように推測される。


もっと前からあった変化

しかしながら,群馬県立女子大学の北野雅弘先生が訳されたニコラス・バフチン『現代ギリシア語研究入門』の子音に関する記事を読むと,”β”の"v"化は紀元前4~3世紀にすでにラコニア,クレタ,ボイオティア,エジプトで現われていたのだそうである。

もっとも同書ではその後も”β”が"b"を表すように使われている事例についても触れており,発音の変化の一般化という意味では,紀元300年頃を発音が変化した時期となる可能性を示している。


古代ギリシャ語では"v"の発音をどう表記したのか?

”β”が"v"を表すようになったのが,紀元300年以降だとすれば,それ以前にギリシャ語を使っていた人々は"v"の発音をどうあらわしていたのか?

先ほどの『現代ギリシア語研究入門』によれば,「ディガンマ」を"v"の発音の表記に用いていた事例があるという。

ディガンマ」というのは今では消滅したギリシャ文字で"F"とよく似た形をしている。"Γ(ガンマ)"を上下に二つ重ねた形をしているので,「ディガンマ」と呼ばれる。

ただし,これはローカルな事例であって,当時のギリシャ語圏すべてに当てはまる事例ではない。


現代ギリシャ語では"b"の発音をどう表記するのか?

現代のギリシャでは”β”が"v"を表すのだが,では,"b"はどうするのか?

”μπ”つまり,通常のアルファベットでいえば"mp"と書いて,"b"の発音を表している。

そうすると,古代オリンピックの開催地,オリンピア:Olympia="Ολυμπία "がオリンビアになってしまうのだが,やはり,そう発音しているらしい。

かの「ビートルズ」もΜπητλςという表記になる。これは数度のギリシャ旅行で携帯した「指さし会話帳」で知ったことだった。

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