« 2013年2月 | トップページ | 2013年4月 »

2013.03.21

関裕二『卑弥呼はふたりいた』(晋遊舎新書 S10): 邪馬台国のヒミコはヤマトの神功皇后によって殺された!

近頃すっかりご無沙汰になっていたが,久々に日本神話関連の本を読んだ。それがこの本,『卑弥呼はふたりいた』(関裕二著,晋遊舎新書 S10)である。

卑弥呼はふたりいた (晋遊舎新書 S10)卑弥呼はふたりいた (晋遊舎新書 S10)
関 裕二

晋遊舎 2012-10-27
売り上げランキング : 27777

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

神功皇后と卑弥呼がお互いに舌を出し合っている表紙画が気になって購入したわけである。


実はこの本,2001年にKKベストセラーズ・ワニ文庫から出ていた。さらに言えば,もっと前の1993年11月にも『ヒミコは二人いた 古代九州王朝の陰謀』というタイトルで新人物往来社から出版されていた。

晋遊舎新書版のあとがきに書かれているが,最初に出版されてから20年ほど経過しているので,晋遊舎新書版ではその間の新たな知見に基づいて修正が加えられている。


  ◆   ◆   ◆


さて,内容だが,「な… なんだって――――!!」の連続である。


九州のとある国による「邪馬台国」僭称

まず,倭国と日本は別の国だという。

な… なんだって――――!!

これは旧唐書東夷伝の記述

「日本国者倭国之別種也……日本旧小国併倭国之地」(日本は倭国の別種であり,小国だった日本が倭国を併合した)

を基にした説である。

本当の邪馬台国は畿内にあった国で,出雲,吉備,東国の各勢力の連合体だった。同じころ,九州北部にも有力な国があった。この国は魏の使者に対し意図的に「邪馬台国」と僭称した……というのが本書の説である。


ヒミコというのは職業名

ヒミコというのは人名ではなく,職業名(あるいは地位・称号)である,という。

これは「な… なんだって――――!!」ではなく,なるほど,と思った。日の巫女でヒミコなのである。

ここで,直ぐに思い出すのが,筑紫申真『アマテラスの誕生』(講談社学術文庫)である。同書では「アマテラスは神の妻・巫女だった」という折口信夫の説から始まり,持統女帝によるアマテラスの祖先神化説に至る論考,いわゆる「アマテラスの神格三転説」が展開されていた。

本書ではアマテラスについては深く立ち入っていないが,アマテラスの別名オオヒルメノムチが太陽神の妻・巫女を指すことを述べており,この点では折口・筑紫と同じ主張をしている。そこからさらに日の巫女すなわちヒミコを連想し,皇祖神アマテラス=ヒミコ同一人物説を導き出している。

また,本書では神功皇后(おきながたらしひめのみこと)が巫女王/シャーマンクイーン=ヒミコという地位にあることを強調している。

日本書紀仲哀天皇九年三月の記事には,神功皇后が巫女となり神託を受けた際,武内宿禰のみが近侍していたことが記述されている。これは,魏志倭人伝に見られる,卑弥呼がシャーマンとして神託を受ける際,卑弥呼の弟だけが審神者として近侍していたという記述と同じである。

つまり,神功皇后は巫女王=ヒミコという立場にあった,というわけである。


もう一人のヒミコ

これだけだと,畿内の邪馬台国の巫女王である神功皇后が唯一のヒミコになるのだが,日本書紀のある記述によって,もう一人のヒミコが九州北部にいた可能性が浮かび上がってくる。

仲哀天皇崩御後,神功皇后は九州の山門郡(やまとのあがた。現在の福岡県柳川市・みやま市の市域)に向かい,同地の住民(土蜘蛛と称される)の女首長である田油津媛(たぶらつひめ)を討ったという。この田油津媛こそ,魏志倭人伝に出てくる卑弥呼では?というのである。

ということで,「邪馬台国のヒミコはヤマトの神功皇后によって殺された!」と本書は訴える。


  ◆   ◆   ◆


もう上述しただけで,お腹一杯,頭一杯なのだが,著者はこのあとも『宗像大菩薩御縁起』や『住吉大社神代記』のような各地の神社に伝わる古文書,『奈良県高市郡神社誌』のような各地域の文献,平田篤胤の『古史伝』のような古来の研究書などを大量導入して,読者を溺れさせるような推理を次々に炸裂させる。「な… なんだって――――!!」連発。

宗像三女神はもともと一体の宗像神だった」

「宇佐神宮に祭られている出自不明の女神,比売大神(ひめおおかみ)は宗像神だった」

「宗像神は伽耶(加羅)の国から来た女神だった」

「忘れ去られた出雲の女神カヤナルミはオオクニヌシと宗像神の間の娘,下照姫だった」

「カヤナルミ=下照姫は神功皇后だった」

「結局,カヤナルミ=下照姫=神功皇后とは,出雲・伽耶両勢力の婚姻で生まれた人物だった」

「武内宿禰=事代主神(ことしろぬし)住吉大神サルタヒコ塩土老翁だった」

「応神天皇はカヤナルミ=神功皇后と事代主神=武内宿禰の子だった」

「北部九州平定後,ヤマト内部の政変によりカヤナルミ=神功皇后と事代主神=武内宿祢は政権の座から追われ,歴史から抹殺されていった」


もう,星野之宣『宗像教授異考録』を何冊も続けて読んでいるような感じである。


登場人物の関係を整理するため,著者の説と,古事記・日本書紀における仲哀天皇,神功皇后,応神天皇の系図を重ね合わせて表示してみた。

あと,宇佐神宮に祭られている神々(比売大神,神功皇后,応神天皇)を緑の線で囲んでみた。こうすると,親子三代の人物/神々が祭られているという構造が見えてくる。

Jingu


  ◆   ◆   ◆


非常に面白い本だったと思う。記紀だけでなく,各神社の伝承などを読み込み,伝説上の人物・神々の名前や親子関係を手掛かりに古代史,とくに3世紀の日本の歴史を明らかにしようという試みは,素晴らしい。

しかし,「卑弥呼はふたりいた」と言いつつ,畿内(ヤマト)のヒミコ=神功皇后のみに焦点を当て,もうひとりのヒミコ=魏志倭人伝の卑弥呼,北部九州の女首長についてはほとんど触れていないのはバランスを欠いているように思った。本書では「土蜘蛛田油津媛」という名前すら出てこなかったのは残念である。「田油津媛」という名を基に論考すれば何か得られたのではないかと思う。

あと,名前に関する論考といえば,神功皇后の名,気長足姫尊(おきながたらしひめのみこと)に対して検討する必要もあったのではないかと思う。例えば,星野之宣『宗像教授異考録』第九集第3話「女帝星座」のような推理が…。

宗像教授異考録 9 (9) (ビッグコミックススペシャル)宗像教授異考録 9 (9) (ビッグコミックススペシャル)
星野 之宣

小学館 2008-09-30
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2013.03.19

『かぞくのくに』監督梁英姫(ヤン・ヨンヒ)のインタビュー記事が出た

先日『かぞくのくに』の感想と北朝鮮への帰還事業の話を記事として書いた。

かぞくのくに [DVD]かぞくのくに [DVD]

角川書店 2013-03-22
売り上げランキング : 1123

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


ちょうどいいタイミングというか,つい昨日(18日)のウォールストリートジャーナルに梁英姫(ヤン・ヨンヒ)監督へのインタビューが載った:

自伝的映画「かぞくのくに」─梁英姫監督インタビュー」(WSJ, by Claire Lee, 2013年3月18日)

同記事によると,帰還事業が行われていた当時,在日コリアン,少なくとも梁英姫監督の父は本気で北朝鮮に住めばより良い生活が与えられると考えていたようである。

梁英姫監督の父は済州島出身。そして,梁英姫監督は結局,2004年に韓国籍を取得したとのことである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013.03.16

安藤サクラ主演『かぞくのくに』を見てきた件

いまや安藤サクラは実力派女優の頂点に立っていると思う。

その安藤サクラが主人公を演じている,梁英姫(ヤン・ヨンヒ)監督『かぞくのくに』をツマと一緒にYCAMで見てきた。

Kazokunokuni

25年前に北朝鮮に渡った兄(オッパ)ソンホ(井浦新)が病気治療のために3か月だけ日本への帰国を許される。日本に住む妹リエ(安藤サクラ)は父・母・叔父とともにそれを喜ぶ……。

というところから話が始まるのだが,やはり25年間という時間は家族を大きく分け隔ててしまっていた。リエは在日朝鮮人ということもあり,恋愛や旅行がままならないという問題を抱えてはいるが,基本的には自由を謳歌している。しかし,ソンホはまったく自由の無い,生き延びること以外は思考を停止せざるを得ない社会に生きている。兄妹としての強い絆はあるが,ともに生きていくことができないという事実に直面せざるを得ない。

家族の会話から,やがて,なぜソンホが16歳の時に「帰国事業」によって北朝鮮に渡らなければならなかったのか,という事情も明らかになる。ソンホとリエの父は朝鮮総連の幹部であり,立場を守るためにも家族の誰かが帰国事業に参加せざるを得なかったのである。リエはそれを許せない。

かぞくのくに [DVD]かぞくのくに [DVD]

角川書店 2013-03-22
売り上げランキング : 1123

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

日本の病院で検査した結果。ソンホは悪性の脳腫瘍だったことが判明する。長期の治療が必要であるにもかかわらず,北朝鮮からは即日帰国の指令が下る。

再び引き裂かれる家族。

ラストシーンは銀色のスーツケースを引きずりながら早足で街を歩くリエの姿。銀色のスーツケースはソンホが得ることができなかった自由の象徴……。


  ◆   ◆   ◆


本作は梁英姫(ヤン・ヨンヒ)監督の実体験を基にした作品である。

なぜ,9万人もの人々が日本から北朝鮮に渡ったのか。

この件はWikipediaの「在日朝鮮人の帰還事業」に詳述されているが,在日コリアンにとっては日本社会における差別や貧困からの脱出,日本政府にとっては人道的措置と「厄介払い」,というように様々な思惑が絡んでの事業だった。

在日コリアンにとって,韓国への帰還という選択肢はなかったのか,というと実質的には無かった。

今の若い人には信じられないかもしれないが,小生が高校生の頃まで韓国は軍事政権下に置かれていた。韓国の民主化は1987年からようやく始まった。それまでは韓国は軍事独裁国家だったのである。もし,在日コリアンが朝鮮半島に戻るとすれば,向かう先はまず,北朝鮮だったのである。

帰還事業が始まった1959年頃,日本のマスコミは保守系・革新系を問わず北朝鮮への帰還を人道的事業として取り上げた。北朝鮮を「地上の楽園」として取り上げたマスコミもあった。

しかし,いまや明らかになったように北朝鮮もまた独裁国家だったのである。当時,帰還事業を煽ったマスコミの罪は深い。

兄~かぞくのくに兄~かぞくのくに
ヤン ヨンヒ

小学館 2012-07-23
売り上げランキング : 29540

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
北朝鮮で兄(オッパ)は死んだ北朝鮮で兄(オッパ)は死んだ
梁 英姫 佐高 信

七つ森書館 2009-11
売り上げランキング : 285471

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013.03.14

時代は量子生物学へ

量子力学の応用によって,生物学で起こっている様々な現象が解明される可能性がでてきたというBBCの報道があった。

BBC: Quantum biology: Do weird physics effects abound in nature? (by Jason Palmer and Alex Mansfield, January 28, 2013)

植物や微生物が行っている光合成が驚くほど効率的である理由として,量子力学における基本的な性質である「重ね合わせ」(Superposition)が応用されている可能性があるという。

また,渡り鳥が目的地にたどり着くためには「量子もつれ」(entanglement)が,動物がにおいをかぎ分ける際には,「トンネル効果」(tunneling)が機能しているという話。

また,DNAの突然変異にもトンネル効果が作用している可能性があるという話も。

トンネル効果応用によって,発がんメカニズムの理解や,新たな香料の開発など,様々な進展が期待されるということである。

2010年から米国DARPAでは量子生物学を応用したセンサー技術の開発と軍事利用の取り組みが始まっているし(参照),2012年からはヨーロッパでも"Farquest programme"という枠組みの中で量子生物学を含む量子科学の強化を進めている。

ということで,今後の生物学のキーワードは「量子

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013.03.13

ベータ(β)はいつヴィータとなりたまいしか?

過去,何度かギリシャに行ったことがあるが,そのたびに意識させられたのが,”β”という文字が,"b"という子音ではなく,"v"という子音を表すのに使われていることである。

現在のギリシャでは”β”は「ベータ」もしくは「ビータ」ではなく,「ヴィータ」なのである。

古代ギリシャ語では”β”は"b"の音を表すのに用いられていた。日本のみならず米英で数学などで”β”の文字を使うときに「ベータ」と呼んでいるのはこれに由来する。

しかし現代ギリシャ語では”β”は"v"の音を表す。


では,いつ”β”の発音が"b"から"v"に変わったのか?

この変化はかなりゆっくりとした変化だったようである。一般に紀元後数百年の間に変化したといわれている。

証拠としてはギリシャ文字由来の2つのアルファベットの発音がある。

Wikipediaの"Ancient Greek phonology"の記事の"Comparison with younger/derived alphabets"の項に書かれていることだが,ギリシャ文字をもとに4世紀にウルフィラによって作られた「ゴート文字」では,”β”に対応する文字の発音は"b"となっている。

これに対し,おなじくギリシャ文字をもとに9世紀後半に第一ブルガリア帝国で古代教会スラヴ語を表すために作られた初期キリル文字では”β”に対応する文字の発音は"v"となっている。

これらの証拠から”β”の発音が変化したのは4世紀から9世紀の間,というように推測される。


もっと前からあった変化

しかしながら,群馬県立女子大学の北野雅弘先生が訳されたニコラス・バフチン『現代ギリシア語研究入門』の子音に関する記事を読むと,”β”の"v"化は紀元前4~3世紀にすでにラコニア,クレタ,ボイオティア,エジプトで現われていたのだそうである。

もっとも同書ではその後も”β”が"b"を表すように使われている事例についても触れており,発音の変化の一般化という意味では,紀元300年頃を発音が変化した時期となる可能性を示している。


古代ギリシャ語では"v"の発音をどう表記したのか?

”β”が"v"を表すようになったのが,紀元300年以降だとすれば,それ以前にギリシャ語を使っていた人々は"v"の発音をどうあらわしていたのか?

先ほどの『現代ギリシア語研究入門』によれば,「ディガンマ」を"v"の発音の表記に用いていた事例があるという。

ディガンマ」というのは今では消滅したギリシャ文字で"F"とよく似た形をしている。"Γ(ガンマ)"を上下に二つ重ねた形をしているので,「ディガンマ」と呼ばれる。

ただし,これはローカルな事例であって,当時のギリシャ語圏すべてに当てはまる事例ではない。


現代ギリシャ語では"b"の発音をどう表記するのか?

現代のギリシャでは”β”が"v"を表すのだが,では,"b"はどうするのか?

”μπ”つまり,通常のアルファベットでいえば"mp"と書いて,"b"の発音を表している。

そうすると,古代オリンピックの開催地,オリンピア:Olympia="Ολυμπία "がオリンビアになってしまうのだが,やはり,そう発音しているらしい。

かの「ビートルズ」もΜπητλςという表記になる。これは数度のギリシャ旅行で携帯した「指さし会話帳」で知ったことだった。

旅の指さし会話帳24ギリシア (ここ以外のどこかへ!)旅の指さし会話帳24ギリシア (ここ以外のどこかへ!)
山口大介

情報センター出版局 2001-11-21
売り上げランキング : 78275

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013.03.08

finalvent 『考える生き方 空しさを希望に変えるために』(ダイヤモンド社)を読む

極東ブログ」と「finalventの日記」という2つのブログを書き続けているfinalvent氏。

同氏が本を上梓したというので宮脇書店宇部店で買い求めた。ひょっとして置いてないかも?と思ったが,1冊だけあった。良かった。

"Denker"というドイツ語が好きだ。英語では"Thinker"。「思想家」として訳されるが,原義通り「考える人」というニュアンスで受け止めたい。

「思想家」というとそれで食べているプロフェッショナルというイメージだが,小生は"Denker"という言葉をプロでもアマでもなく,人生というか日常の様々な場面で,よく考える人,という意味でとらえたい。

で,小生にとって,finalvent氏はDenkerの典型である。

考える生き方考える生き方
finalvent

ダイヤモンド社 2013-02-21
売り上げランキング : 1023

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

世間的・社会的に見れば,とりたてて評価するべきところが見当たらない普通の人生であっても,自分で考えるという行為を通して「生きている」実感を得ることができ,それを支えにして生きていけるだろう,というのが本書全体の基調である。

アルファブロガーとして知られている時点で,世間的・社会的には成功者の扱いになると思うのだが,ご本人は自らを普通の人として見て,本書を著している。

この本は,「社会に出て考えたこと」,「家族をもって考えたこと」,「沖縄で考えたこと」,「病気になって考えたこと」,「勉強して考えたこと」,「年を取って考えたこと」という6つの章で構成されているが,どの章を読んでも感じられるのは五木寛之的なトーンである。

ネット時代の五木寛之?

だが,最後には人類の希望を信じる,というのが仏教的な諦念と違うところか。

大震災から1か月ほど経った時に「こんな時代だから読むべき本:五木寛之『他力』(講談社文庫)」(2011年4月8日)という記事を書いたが,本書『考える生き方 空しさを希望に変えるために』も,こんな時代だからこそ読むべき本に数えて良いと思う。

五木寛之にせよ,finalvent氏にせよ,特異な人生を歩んでこられた人々だと思う。にもかかわらず,我々のような普通の人生を生きる人々が共感できるような考え方を伝えてくれるあたり,この二人の思索力と文章力は凄いものだな,と感じ入る次第である。


  ◆   ◆   ◆


「普通の人生」の肯定ということで思い出したのが,NHK連続テレビ小説の「純情きらり」(2006年度上半期,主演:宮﨑あおい)である。主人公桜子はジャズピアニストを夢見ながら果たせず,結核に侵されながら出産し,死の床(?)で息子に希望をつなぐ・・・。

これって,

私が死んでも,この世界は続くし,この世界に新しい人が生まれて,その人たちがきっと希望の火を灯す。(『考える生き方』,337ページ)

という文章,そのものじゃないかと思う。

純情きらり 完全版 DVD-BOX 1純情きらり 完全版 DVD-BOX 1
浅野妙子

NHKエンタープライズ 2007-03-07
売り上げランキング : 26951

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


最後に。

著者が難病を抱えていることは本書で初めて知った。

小生の妹はまったく別のものだが難病を抱えている。この点でも何か共鳴するものを感じた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013.03.07

【一票の格差問題】16訴訟の判決が始まる【「違憲」なのに「無効ではない」ってどういうこと?】

……2012年12月の第46回衆院選挙では一票の重みが最大2.43倍も違っていた。これは憲法違反であり,この選挙は無効である……

と主張する2つの弁護士グループによる計16の「一人一票訴訟」もしくは「一票の格差訴訟」の判決が今月(2013年3月)集中して下される。

昨日3月6日はその第1段。東京高裁判決は選挙を「違憲」と判断したものの,「無効」とはしなかった。


「違憲」なのに「無効ではない」ってどういうこと?

憲法98条第1項ではこのように定めている:

この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

従って,違憲と判断された選挙は無効である,というのが素直な見方だろう。


しかし,選挙自体を無効と見なすと,その選挙で選出された議員によって議決された法律が無効になり,議員たちによる選挙制度改革が進まなくなる。

これは一大事なので,一時的な回避手段として,行政事件訴訟法31条「法理※」を適用するという手がある。

行政事件訴訟法31条第1項はこのように定めている:

(特別の事情による請求の棄却)

取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。

つまり,処分=選挙と読み替えると,ある選挙が違法(この場合は違憲)であっても,その選挙の取り消しによって社会的な問題が生じる場合には,その選挙を取り消さないでもよい,ということである。

これまでにも一票の格差を問題とする裁判が繰り返されてきたが,昭和51年および昭和60年の最高裁大法廷判決ではこのような手で「選挙無効」を回避してきた。

ただ,素人の小生の目からすると,最高法規の憲法が「違憲」->「無効」と言っていることを下位の法律が「無効だと困る」->「無効じゃない」とひっくり返すのはなんだかおかしく見える。


今後も「違憲」なのに「無効ではない」という判決パターンが続くのだろうか?

これはわからない。

ただ,司法府(裁判所)が「違憲だ」と言っているにもかかわらず,立法府(国会)が「無効ではない」ことをいいことに選挙制度改革を(ほとんど)放置し続けていると,司法府は立法府に対し,より強い圧力を加えるようになるだろう。

というか正確に言えば,司法府自体が動くというよりも,弁護士グループ(原告団)の主張を司法府が後押しして,立法府に圧力を加えるだろう,ということである。

これから続く各訴訟でも「違憲」判決が続々と出る可能性が高い。国は上告するだろうが,最高裁でもやはり「違憲」判決が出る可能性が高い。

FACTA発行人の阿部重夫氏によれば,最高裁で「選挙違憲」判決が出たら,この判決を踏まえて,弁護士グループは次の矢を放つ準備ができているという。次の矢は「国家賠償」だそうだ(参考)。しかし,国家賠償自体は本当の目的でなく,これを以て選挙制度改革を迫ることが最終目的であるという。

阿部重夫氏は,これを「日本の憲政史上,初めて起きる司法府による立法府に対するクーデター」と表現している。


これからの予定

「一人一票裁判」の判決は以下の予定で下される(「一人一票実現国民会議」より)。

3/6 (水) 午後2時30分 東京高裁 → 違憲だが無効ではない
3/7 (木) 午後2時30分 札幌高裁 → 違憲だが無効ではない(3月7日午後加筆)
3/14 (木) 午後2時30分 仙台高裁
3/14 (木) 午後3時30分 名古屋高裁
3/18 (月) 午後1時10分 福岡高裁
3/18 (月) 午後2時00分 名古屋高裁 金沢支部
3/22 (金) 午後1時30分 高松高裁
3/26 (火) 午後2時00分 福岡高裁 那覇支部
3/26 (火) 午後2時00分 福岡高裁 宮崎支部
3/26 (火) 午後3時00分 広島高裁
3/26 (火) 午後3時00分 大阪高裁
3/26 (火) 午前10時00分 広島高裁 松江支部
3/26 (火) 午前11時00分 広島高裁 岡山支部
3/27 (水) 午後3時00分 仙台高裁 秋田支部

多少なりとも政治に興味のある方は,括目してお待ちください。


※注(3月7日午後加筆)
Wikipedia「事情判決」によると,「公職選挙法219条は、行政事件訴訟法31条の規定は準用しないとしており、選挙訴訟においては事情判決を行うことは禁止されている。」

なので,行政事件訴訟法31条の適用によって,違憲選挙の無効性を回避することはできない。

しかし,昭和51年及び60年の最高裁はここでアクロバティックなことをしている。行政事件訴訟法31条の「直接適用」ではなく,「法理の適用」という方法によって,違憲選挙の無効性を回避しているわけである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2013年2月 | トップページ | 2013年4月 »