【一票の格差問題】16訴訟の判決が始まる【「違憲」なのに「無効ではない」ってどういうこと?】
……2012年12月の第46回衆院選挙では一票の重みが最大2.43倍も違っていた。これは憲法違反であり,この選挙は無効である……
と主張する2つの弁護士グループによる計16の「一人一票訴訟」もしくは「一票の格差訴訟」の判決が今月(2013年3月)集中して下される。
昨日3月6日はその第1段。東京高裁判決は選挙を「違憲」と判断したものの,「無効」とはしなかった。
「違憲」なのに「無効ではない」ってどういうこと?
憲法98条第1項ではこのように定めている:
この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
従って,違憲と判断された選挙は無効である,というのが素直な見方だろう。
しかし,選挙自体を無効と見なすと,その選挙で選出された議員によって議決された法律が無効になり,議員たちによる選挙制度改革が進まなくなる。
これは一大事なので,一時的な回避手段として,行政事件訴訟法31条の「法理※」を適用するという手がある。
行政事件訴訟法31条第1項はこのように定めている:
(特別の事情による請求の棄却)
取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。
つまり,処分=選挙と読み替えると,ある選挙が違法(この場合は違憲)であっても,その選挙の取り消しによって社会的な問題が生じる場合には,その選挙を取り消さないでもよい,ということである。
これまでにも一票の格差を問題とする裁判が繰り返されてきたが,昭和51年および昭和60年の最高裁大法廷判決ではこのような手で「選挙無効」を回避してきた。
ただ,素人の小生の目からすると,最高法規の憲法が「違憲」->「無効」と言っていることを下位の法律が「無効だと困る」->「無効じゃない」とひっくり返すのはなんだかおかしく見える。
今後も「違憲」なのに「無効ではない」という判決パターンが続くのだろうか?
これはわからない。
ただ,司法府(裁判所)が「違憲だ」と言っているにもかかわらず,立法府(国会)が「無効ではない」ことをいいことに選挙制度改革を(ほとんど)放置し続けていると,司法府は立法府に対し,より強い圧力を加えるようになるだろう。
というか正確に言えば,司法府自体が動くというよりも,弁護士グループ(原告団)の主張を司法府が後押しして,立法府に圧力を加えるだろう,ということである。
これから続く各訴訟でも「違憲」判決が続々と出る可能性が高い。国は上告するだろうが,最高裁でもやはり「違憲」判決が出る可能性が高い。
FACTA発行人の阿部重夫氏によれば,最高裁で「選挙違憲」判決が出たら,この判決を踏まえて,弁護士グループは次の矢を放つ準備ができているという。次の矢は「国家賠償」だそうだ(参考)。しかし,国家賠償自体は本当の目的でなく,これを以て選挙制度改革を迫ることが最終目的であるという。
阿部重夫氏は,これを「日本の憲政史上,初めて起きる司法府による立法府に対するクーデター」と表現している。
これからの予定
「一人一票裁判」の判決は以下の予定で下される(「一人一票実現国民会議」より)。
3/6 (水) 午後2時30分 東京高裁 → 違憲だが無効ではない
3/7 (木) 午後2時30分 札幌高裁 → 違憲だが無効ではない(3月7日午後加筆)
3/14 (木) 午後2時30分 仙台高裁
3/14 (木) 午後3時30分 名古屋高裁
3/18 (月) 午後1時10分 福岡高裁
3/18 (月) 午後2時00分 名古屋高裁 金沢支部
3/22 (金) 午後1時30分 高松高裁
3/26 (火) 午後2時00分 福岡高裁 那覇支部
3/26 (火) 午後2時00分 福岡高裁 宮崎支部
3/26 (火) 午後3時00分 広島高裁
3/26 (火) 午後3時00分 大阪高裁
3/26 (火) 午前10時00分 広島高裁 松江支部
3/26 (火) 午前11時00分 広島高裁 岡山支部
3/27 (水) 午後3時00分 仙台高裁 秋田支部
多少なりとも政治に興味のある方は,括目してお待ちください。
※注(3月7日午後加筆)
Wikipedia「事情判決」によると,「公職選挙法219条は、行政事件訴訟法31条の規定は準用しないとしており、選挙訴訟においては事情判決を行うことは禁止されている。」
なので,行政事件訴訟法31条の適用によって,違憲選挙の無効性を回避することはできない。
しかし,昭和51年及び60年の最高裁はここでアクロバティックなことをしている。行政事件訴訟法31条の「直接適用」ではなく,「法理の適用」という方法によって,違憲選挙の無効性を回避しているわけである。
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