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2013.02.27

榧根勇『地下水と地形の科学』を読む

ラオス出張の合間に榧根勇(かやね・いさむ)『地下水と地形の科学』(講談社学術文庫2158)を読み終えた。脳のリラクゼーションのためには仕事と直接関係ないものが良い。

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榧根 勇

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この本,『地下水の世界』(NHK出版)というタイトルで1992年に出ていたのだが,つい最近,名前を変えて講談社学術文庫に入った。

著者は水文学(すいもんがく。みず・ぶんがくではない)の権威。この本では学術的な研究成果だけでなく,地下水と人間の関わりという文化的な話題も取り上げられている。


  ◆   ◆   ◆


内容は多岐にわたっているので,小生が興味を覚えた話題のみ取り上げる。


「硬水と軟水」

硬水と言うのはカルシウムとマグネシウムの含有量が多い水のことを言う。硬水と軟水の違いは相対的なものにすぎない。硬水らしさ,つまり硬度は,水の中に含まれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンの量を炭酸カルシウムの量に置き換えた後,ppmで表される。

一般に,日本の水は軟水,ヨーロッパの水は硬水と言われるが,これは,地下水の滞留時間による。地中をゆっくり流れ,その間に岩盤を溶かし,いろいろなミネラルを取り込んだ水は硬水となる。これに対し,岩盤のミネラルを取り込む暇もなく地中を流れ,湧き出した水は軟水となる。

日本では山から海までの距離が短く,また雨量も多い。日本では雨水は地中を30年ほど滞留したのち,海に流出する。つまり日本の水は非常に若い。だから軟水となる。

一方,ヨーロッパでは雨量も少なく,また傾斜も緩やかな中,雨水がゆっくりと地中を通過するため,硬水となる。ヨーロッパの水は相対的に高齢である。ヨーロッパではないが,オーストラリアの大鑽井(だいさんせい)盆地には年齢100万年以上の水がある。


「地下水の年齢測定」

水の年齢(降雨から何年経過したか)は放射性同位体を測定することでわかる。ラドンで数十日,トリチウムで60年,炭素14で5万年,塩素36で100万年までの年齢測定ができる。

例えば,トリチウム(T)は水素(H)の同位体で,自然界には普通の水,H2Oのほかに,HTOが存在している。自然界のH2OとHTOの比率は常に一定だが,雨水が地中に吸収されると,HTOの割合が12.4年で半減する(トリチウムの半減期)。この原理を利用すると,水の年齢が測定できるわけである。


「トレーサーとしての地下水温」

地中温度は浅い場所では気温や日射量など,天候の影響を受けて時々刻々と変化するが,ある深さ以上(8~15メートル)になると一定になる。地下水はゆっくり流れるので,地中温度とほぼ一緒の温度になる。

ある一定以上の深さの地中温度=地下水温はその場所の年平均気温より1~2℃高いのがふつうである。

より深いところになると,地中温度は地盤の熱によって上昇する。通常は100メートル深くなるたびに3℃ずつ上昇する。

もしも,ある場所の地下水温が急激に下がっていたら,それは,川や湖など他の場所からの漏水の影響が考えられる。つまり,地下水温をトレーサーとして利用すれば,地下水の流れを推測することが可能になる。

地下水温を利用して,著者は学生たちとともに,開聞町や東京都の地下水の流れを把握してきた。


「水・文学(みずぶんがく)としての『武蔵野夫人』」

本書の第五章では,大岡昇平『武蔵野夫人』を引用しながら,武蔵野台地の地下水の流れを探求している。

『武蔵野夫人』は心理小説だが,引用されている部分を読むと,大岡昇平は,武蔵野の水環境への造詣が深かったことがわかる。『武蔵野夫人』には「水文学(すいもんがく)」ならぬ「水文学(みずぶんがく)」としての側面がある。


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今を去ること20年ほど前,小生はO大学・M先生,S先生の下で,地下空間の熱環境を研究していた。その頃のことを思い出しながら本書を読み終えた。

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コメント

出張お疲れ様。この時期は気温差が大きいので大変そうですね。

昔ウィーンに行ったときの水道水の美味しさを思い出しました。水源はアルプスの雪解け水だとか。日本の軟水になれた体にはちょっとした感動でした。

「武蔵野夫人」について大岡昇平自身が「風景そのままではなく、成因から捉える地形学」と印象的な言葉を残しています。ストーリーそのものより、そちらの描写がとりわけ印象的な作品でした。「はけ」「野川」なんて地名は忘れられないものがあります。

投稿: 拾伍谷 | 2013.02.28 04:38

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