百万の田と百万の象の帝国:失われたラオ人の帝国
かつて「百万頭の象の国(ラーンサーン)」は,偉大な王プラ・チャオ・ポーティサラート陛下のもとで繁栄を極めていたのでございます。
あるとき,隣国「百万の田の国(ラーンナー)」の王,ケートクラオ陛下のご息女,ナン・ヨットカム王女殿下がポーティサラート陛下のもとに嫁がれました。やがて,お二人の間にはご聡明なる王子,チャオ・チャイヤセット殿下がお生まれになりました。
(ラーンサーン王国とラーンナー王国の勢力圏。赤い線は現在のラオス人民共和国の領域)
チャイヤセット殿下が12歳になられた頃,隣国ラーンナーで悲劇が起きました。おじい様であるラーンナー王,ケートクラオ陛下が何者かによって暗殺されたのです。実はそのころ,ラーンナー王家の威光は衰えており,国の実権は官吏や貴族たちに握られておりました。ケートクラオ陛下は王家をないがしろにする者たちの手にかかったのかもしれません。
ケートクラオ陛下には男子の後継者がおられませんでした。高僧たちの意見により,ラーンナーの王位は孫でいらっしゃるチャイヤセット殿下に引き継がれることとなりました。このとき,チャイヤセット殿下のお名前がチャオ・チャイヤセーターティラートと改められました。これ以降,人々は殿下のことをセーターティラート陛下とお呼びするようになりました。
セーターティラート陛下は御父上であるラーンサーン王ポーティサラート陛下とご一緒に,ラーンナーの都,チェンマイに向かわれました。このときお二人には9人の将軍,2000頭の象,30万人の兵士が付き従ったと言われております。
セーターティラート陛下がラーンナー王に即位されて一年後,新たな悲劇が起こりました。御父上,ポーティサラート陛下が野生の象を狩りに出かけられた折,ご自分がお乗りになっていた象から落ち,押しつぶされて亡くなられたのでございます。
すぐさまセーターティラート陛下がラーンサーン王位を継ぐことになりました。すなわち,セーターティラート陛下は御父上から引き継いだラーンサーン,おじい様から引き継いだラーンナーという二つの王国を治めることとなったのです。
セーターティラート陛下は御父上の葬儀のため,ラーンサーンの都ルアンパバーンに向かうことにされたのですが,そのとき,ご懸念になったのは,王家をないがしろにするラーンナーの官吏や貴族たちによって,チェンマイへのご還御が妨げられるのではないかということでした。そこで陛下は,名高いエメラルド仏をチェンマイからルアンパバーンに移すことにしました。
セーターティラート陛下のご懸念は当たりました。陛下のルアンパバーン滞在が長引くにつれ,ラーンナーの官吏や貴族たちは新しいラーンナー王の擁立を考え始めたのです。彼らはセーターティラート陛下の遠い親戚にあたる,シャンの王子,マエ・ク殿下,またの名をメクティ殿下を新たなラーンナー王に推戴しました。
このようにして,ラーンサーンとラーンナーという二つの王国が一つになり,広大なラオ人の帝国が生まれるという唯一の機会が失われました。
この後,ラーンサーン,ラーンナー両王国は,ポルトガル人鉄砲隊を従えたビルマ王,バインナウンの脅威にさらされるようになります。そしてセーターティラート陛下もまた,バインナウンとの戦いによってお命を失うことになります。
今宵はここまでにいたしとうござりまする。
アテブレーベ,オブリガード。
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