« 新春企画・『中国は東アジアをどう変えるか』を読む (前編:『海の帝国』から12年) | トップページ | 新春企画・『中国は東アジアをどう変えるか』を読む (後編:言語への着目) »

2013.01.02

新春企画・『中国は東アジアをどう変えるか』を読む (中編:アングロ・チャイニーズとは何か?)

白石隆,ハウ・カロライン『中国は東アジアをどう変えるか』(中公新書2172,2012年)は,日本からASEAN諸国までを含む広い領域(東アジア)における政治経済秩序の現状と,興隆する中国の影響力についてまとめた本である。

中国は東アジアをどう変えるか ? 21世紀の新地域システム (中公新書 2172)中国は東アジアをどう変えるか ? 21世紀の新地域システム (中公新書 2172)
ハウC・S 白石 隆

中央公論新社 2012-07-24
売り上げランキング : 14359

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

この本の中で最も重要なのは,アジアの政治経済秩序に影響を与える重要なプレーヤーとして登場する,わりと古くて新しい集団「アングロ・チャイニーズ」に関して触れた第4章だろう。

「アングロ・チャイニーズ」について,山崎正和は毎日新聞の書評で「この新しい民族の興隆はそれ自体、文明史的に見て私には胸躍る事件である」と興奮気味に記しているのだが,それはどういう集団なのだろうか?

端的に言えば,「アングロ・チャイニーズ」とは,これまで華僑,華人,華裔(かえい),中国系などと呼ばれてきた人々のうち,英語を流暢に話す人々のことである。

前著『海の帝国』では単に「華僑ネットワーク」という言葉で扱われていたものが,本書では新たに「アングロ・チャイニーズ」という定義を与えられ,そして重要なプレーヤーとして取り上げられるようになった。

彼らはタイ,マレーシア,インドネシアといった国々で生まれ育った,中国人の子孫であり,アングロ・サクソン的(英米的)な思考様式とビジネスマナーを身に着け,英語のみならず中国語(北京語)や現地語にも堪能である。

アングロ・チャイニーズは東南アジア諸国でそれなりの政治経済的地位を占め,国際社会と現地社会とを結ぶインターフェースとして活躍する。中国(中華人民共和国)が台頭する状況の中,アングロ・チャイニーズは第二外国語として中国語(北京語)を習得し,今度は現地社会と中国とを結ぶ役割を担う。

ここで重要なのは,アングロ・チャイニーズは中国人の子孫であり,その文化的伝統を受け継いでいるものの,中国(中華人民共和国)本体の中国人たち,とくに貧しい内陸部農村の人たちと価値観を100%共有しているわけではないということである。

中国(中華人民共和国)が台頭し,アジアの政治経済秩序に影響を及ぼしていることは事実である。また,それに伴って,中国語(北京語/普通話)を学ぶ人々が増加していることも事実である。だが,中国が一方的にアジアの政治経済秩序を変化させるのかというとそうではない。中国も変容する。それは,中国沿岸部大都市の中産階級がアングロ・チャイニーズ化するということである。

国境を越えて,ますます多くのヒト,モノ,カネ,情報が交流するようになれば,中国本土においても,とりわけ沿岸部の都市の豊かな人たちは,教育,ライフスタイル,生活習慣,価値規範等において,農村に住む貧しい人たちとではなく,東アジアの都市の教育を受けたアングロ・チャイニーズをはじめとする中産階級の人々と,ますます多くのものを共有するようになるだろう。(『中国は東アジアをどう変えるか』,222ページ)

本書では中国沿岸部中産階級のアングロ・チャイニーズ化が中国(中華人民共和国)に何を引き起こすか,ということには触れていないが,前著『海の帝国』の第8章ではこういうことが述べられていた:

  • 中国は伝統的に農本主義社会である
  • 中国の過去の歴史を振り返ると,東アジアにおける貿易が盛んになり,商業が興隆した時代には,国家の基盤である農村が脅かされ,社会が不安定化したことがわかる

この見方を踏まえれば,(1)中国(中華人民共和国)の台頭は,東アジアにおけるアングロ・チャイニーズの価値を高める。(2)しかし,その一方で,中国国内においては中国沿岸部中産階級のアングロ・チャイニーズ化を引き起こし,(3)さらにそれが中国国内の不安定化を招くという逆説的な結果を生む…ということになりそうだ。

|

« 新春企画・『中国は東アジアをどう変えるか』を読む (前編:『海の帝国』から12年) | トップページ | 新春企画・『中国は東アジアをどう変えるか』を読む (後編:言語への着目) »

中国」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

東南アジア」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/44485/56452237

この記事へのトラックバック一覧です: 新春企画・『中国は東アジアをどう変えるか』を読む (中編:アングロ・チャイニーズとは何か?):

« 新春企画・『中国は東アジアをどう変えるか』を読む (前編:『海の帝国』から12年) | トップページ | 新春企画・『中国は東アジアをどう変えるか』を読む (後編:言語への着目) »