東京は武蔵野の原野に浮かんだみんなの想念
今日(2012年12月2日)の午後10時から,ETV特集『東京という夢』という番組を見た。
杉浦日向子『YASUJI東京』や『江戸アルキ帖』からの引用や東京に住む人々へのインタビューで構成された,不思議なテイストの番組だった。
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幕末生まれの絵師・井上安治の作品は,絵でも写真でもなく百数十年前の東京を見せる「窓」だった。そして,漫画家/時代考証家・杉浦日向子の作品もまた,江戸を見せ,空気を伝える「窓」だった。
さらに言えば,井上安治や杉浦日向子が見ていたのは百数十年前の東京あるいはそれよりも前の江戸だけではなかった。東京/江戸の向こうに透けて見えたのは武蔵野の原野だ。
「東京というのは,この地,この気で
地表に貼り付いている私たちの生活は
粗末な被衣にすぎない。」
(『YASUJI東京』,91ページ)
「雲ひとつない快晴の空が
大気の向こう側の宇宙の闇を
感じさせるように
安治の残した百数十葉の
<透明な窓>から
東京の向こう側が見えて来る。」
(『YASUJI東京』,97ページ)
「見渡す限りの葦の原。
耕作に適さない辺境の地。
<中略>
この原野の上に
今現在展開されている
<東京>という現象は
人々の想念のカタマリだ。
<中略>
原野が私たちに夢を見つづけさせる。」
(『YASUJI東京』,98~99ページ)
「東京というのは武蔵野の原野に浮かんだみんなの想念に過ぎない」というと,「色即是空」とか「砂上の楼閣」とか,そういった空しさを感じさせる言葉がまず最初に浮かんでくるが,杉浦日向子が感じ取ったのは,それとはもっと違った感興だ。
「踏みしめる
アスファルトの下の
<原野>を想う時
嬉しくて懐かしくて
身ぶるいがする。」
(『YASUJI東京』,100ページ)
東京の街という表面的なものの下に存在する武蔵野という実体(仏教的に見ればそれもまた幻想にすぎないのだが)。そこにつながっているという意識が東京人・杉浦日向子に静かな喜びをもたらす。
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