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2012.09.09

「漢字拒絶」を主題とした韓国文化論【豊田有恒『韓国が漢字を復活できない理由』】

日本SF界随一の韓国通である,豊田有恒が書いた韓国文化論である。

韓国の漢字(ハンチャ)不使用の理由・背景についてわかりやすく解説してくれるのだが,話はそれだけにとどまらない。

韓国が漢字を復活できない理由(祥伝社新書282)韓国が漢字を復活できない理由(祥伝社新書282)
豊田 有恒

祥伝社 2012-07-01
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この本,李昭博大統領による竹島上陸という暴挙(向こうでは壮挙)の前(2012年7月10日発行)に書かれたのだが,韓国人がなぜあんなに竹島の問題で盛り上がり,日本を敵視するのか?ということを簡潔に説明してくれる。

まず,韓国というか朝鮮の歴代王朝が過去2000年の間に大小960回,約2年に一度の侵略を受けてきたという歴史が背景にある。

「自分が掲げた信念,理念,主張などを,死に物狂いで守らないと,異民族から突き崩されてしまう。相手の言い分など,耳を傾けたりしたら,最低限の要求すら踏みにじられてしまい,殺されるかもしれない過酷な歴史だったのだ。」(本書26ページ)

その結果,「冷静な議論ではなく,罵詈雑言に訴えても,相手の意見を圧殺した方が勝ちだと考える(本書26ページ)」ようになってしまったのである。

彼らの反日発言も同じ文脈で解釈できる。まず,日本=悪というイメージありき。そして,彼らの主張ありき。

日本側が竹島の領有に関する歴史的経緯を説明しても,それには耳を傾けない。竹島は韓国の領土である(トクトヌン・ウリタン)と主張し,その主張を補完する資料探しを行う。新羅の武将が于山島(ハンサンド)の住民を討伐したことを根拠として于山島こそ竹島,彼らの言う独島であると。竹島には新羅に反抗するほどの住民が住めないことを無視して。

小生は日本側および韓国・朝鮮側の竹島の古地図をネット上で見る機会があったが,韓国・朝鮮側の古地図では鬱陵島よりも西側(朝鮮半島側)に于山島が描かれていた。それが,韓国の資料館では位置関係を書き直して掲示していたりする。主張に合わせて事実を改変するという一例である。

本書では,現在の韓国では日本=悪というイメージ以外の多様な日本観は認められないということも述べられている。多様な価値観は国論を二分・三分し,外国勢力に付け入るすきを与えてしまう可能性があるからだ。たしかに,李朝末期,政治家は親清,親日,親露に分かれて抗争し,国を滅亡に導いた。その轍を踏まないためにも多様な意見の存在を許してはならないということなのだろう。

漢字不使用はこの反日政策の一環である。近代に入って以来,韓国語には莫大な数の日本製漢語が入った。漢字を使用することは「韓国語が,日本語によって『言語学上の文化変容』を受けていることを」認めることになってしまうからこそ,使用を認めないのである。


  ◆   ◆   ◆


本書では韓国語の中に存在する多数の和製漢語が紹介されている。

例えば,受取(スチュイ),取消(チュイソ),取調(チュイジョ)。これらは明らかに和製漢語であるが,韓国では愛用されているという。しかし,日本風(イルボノトウ)はいけないということで,韓国の国語純化分科委員会は「受取(スチュイ)」「受領(スリョン)」と言い換えるように指示しているということである。

ところがチグハグなことに,取消,取調なんかは生き残っている。著者によると,韓国ドラマ「朱蒙(チュモン)」では「取り調べろ(チュイジョ・ハラ)!」などという,高句麗時代にはありえない和製漢語が飛び出していたという話である。

他にも,韓国では社長(サジャン),取締役(チュイチェヤク)などの和製漢語が使われているが世の中に普及しすぎていてそのままになっている。中国語では社長は総経理だから,日本風が嫌なら,中国風を使えばいいのだがそうはなっていない。漢字にしないことで体裁を繕っているだけなのである。

中国なんかは便利だったらなんでも使う主義なので,和製漢語もそのまま受容することがある。例えば「共和国」,「司法」,「立法」,「行政」などの政治用語はそのまま導入された。「三権分立」については違和感があったらしく「三権鼎立」としているが。

結局のところ,韓国語の中には「日本は無い!(イルボヌン・オプタ)」と言いたいところだが,実際にはものすごく浸透している。それを隠すために漢字を排し,ハングルで記述しているのだが,結果として同音異義語だらけになって混乱を招いている有様である。


  ◆   ◆   ◆


反日政策の一環である漢字廃止によって,韓国社会がどれだけのマイナスポイントを抱えることになっているか,そのことを考え直してはどうか?というのが著者の主張である。

著者は本書の末尾に

「他国の言語政策について,日本人が物言いすれば,反発されるだろう。しかし,漢字復活は,韓国人のためでもあるのだ。」(本書211ページ)

と記しているが,この韓国をよく知る作家の言うことを理解する韓国人はいるだろうか?


  ◆   ◆   ◆


蛇足。

小生は昔,豊田有恒の『持統四年の諜者―小説・古代王朝』(角川文庫,1978年)という短編集を読んだことがある。武烈天皇から継体天皇に至る,王朝交代劇を描いた「歌垣の影媛」,「樟葉の大王」や白村江で敗れ新羅の孤島に残った兵士を救出する(千年以上前の残留日本兵)という内容の表題作「持統四年の諜者」等,読み応えのある古代小説が掲載された文庫本だ。

これらの作品中には渡来人や朝鮮半島の地名が多々登場し,いずれもハングル読みの振り仮名がついていた。そういう試みはそれまでにあまり見られなかったものである。当時はニュースで金大中を「きんだいちゅう」と呼んでいたぐらいである。

巻末の解説で荒巻義雄がこのように書いている:

「彼が古代史物にとりかかった途端,わが国と朝鮮との密接な関係に気付くと,直ぐさま彼は韓国語の習得にとりかかった。そして,僅々二,三年のうちにこれをマスターしてしまったのだから,ただ驚嘆する他はない」(『持統四年の諜者』226ページ)

『韓国が漢字を復活できない理由』は,韓国文化・歴史・言語に対して極めて造詣の深い作家が書いた本だからこそ,極めて重要な意義がある。

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