発展途上国から世界を変える/地方から日本を変える: 田中直『適正技術と代替社会』
先週,北海道に出張していたのだが,移動中に読んだのがこの本:
![]() | 適正技術と代替社会――インドネシアでの実践から (岩波新書) 田中 直 岩波書店 2012-08-22 売り上げランキング : 46514 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
アマゾンの書評に書いたこととダブるところがあるが,本書の感想を以下に記す。
著者は1951年生まれ。もともとは石油会社の技術者であり,現在は国際協力NGO, APEXの代表を務めている。インドネシアでの排水処理やバイオマスガス化装置開発などの実践を踏まえて書いたのが本書である。
適正技術というのは昔からある用語だが,2つの意味を持っている。一つは発展途上国の実情に応じた技術という意味(Appropriate Technology)。もう一つは先進国において現在用いられているエネルギー多消費・環境破壊型の技術に対する代替技術という意味(Alternative Technology)である。
著者はこの2つの意味を重ね合わせ,地球の未来を担う技術として適正技術という言葉を用いている。
経済面でも技術インフラの面でも先進国に比べれば恵まれていないインドネシア。この地での適正技術開発というと,先進国の技術の劣化版を開発しているかのように勘違いするかもしれないが,著者は日本や現地のスタッフと協力して,コンパクトで効率の良い排水処理装置やバイオマスガス化装置を開発している。
本書で重要な点は,著者が「近代科学技術」の魅力を十分に理解したうえで,決して禁欲的で貧しいものではない代替社会を,適正技術を基盤として構築できる可能性を示していることである。
そしてまた,すでに技術体系を確立してしまった先進国では踏み出せない,別の道,すなわち地球環境にやさしく,資源を大量に消費しない,高度なレベルの技術体系を確立する可能性を,発展途上国が持っていることを実例によって示しているのも重要な点である。発展途上国だからこそ生み出せる適正技術。インドネシアだからこそ踏み出せる代替社会への道。
この本を読んでいて,本書でも触れられているエイモリー・ロビンス『ソフト・エネルギー・パス』の一節を思い出した:
温水が漏れているために湯槽を一杯にできないでいるのに,われわれは本当により大きな湯沸器を必要としているのだろうか。安価な,易しい技術でできる栓を使えばもっとよくなるのではないだろうか。(『ソフト・エネルギー・パス』76ページ)
適正技術とはまさにそのような技術のことである。小生も同じような例を挙げることができる: 例えば,都市部の移動手段として自転車を利用することは,自動車の利用に比べて何歩も後退したことになるだろうか? 風通しの良い伝統的な住宅は空調の効いたオフィスに対し,何世紀も遅れた居住空間なのだろうか?
◆ ◆ ◆
本書を読んで「発展途上国から世界を変える」ということを思ったわけだが,本記事を書いているうちに,「地方から日本を変える」ということを思いついた。
今月に入ってから,ある仕事で山口県内の再生可能エネルギー施設の視察を繰り返している。この視察を通して見たものは,木質バイオマス燃料(チップ・ペレット)の生産施設だったり,
水路式の小水力発電所だったり,
メガソーラー発電所だったりするわけである。
こうした再生可能エネルギー関連施設というのは,都市部では見られないものばかりである。再生可能エネルギー技術の中には適正技術とは言えないものもあるかもしれない。しかし,その多くは代替社会を支えるキーテクノロジーになるだろう。
地方において再生可能エネルギー技術を充実させていくこと,それがいずれ大都市圏に波及し,日本全体が代替社会へとシフトしていくのではなかろうかと思った。
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コメント
世界を南北に分けていた分割線は前世紀終わり頃より北上をはじめ、現在は「北」の先進諸国の内部に食い込んでいるように見えます。かつて南北で異なる意味で使われていた「適正技術」という言葉は、今では二つの意味を兼ね合わせた新たな意味づけを必要としているのかもしれません。
技術体系の確立とはすなわち雇用の問題でもあります。大幅な変化に対する抵抗は大きい。その点、途上国では先進国の未来を先取りする形での新しい体系の実験が可能であること、大変興味深く示唆に富むお話と思いました。
投稿: 拾伍谷 | 2012.09.13 06:32