【環境・エネルギー政策には雇用の問題を含むこと】ロムニーのエネルギー政策
"Spending our energy dollars here for domestically produced energy while also funding research, development, and production of new sources of energy creates jobs, strengthens the dollar, and reduces our exposure to supply risks and volatility. We must vigorously embrace and develop all of our domestic energy sources." (Mitt Romney, No Apology)
今,エネルギー輸入に充てている資金を国産のエネルギーに投じること,そして,新たなエネルギー源の研究開発および生産に資金を供給すること。そうすれば,雇用が生まれ,ドルが強化され,また米国がエネルギー供給のリスクと不安定性に曝される心配がなくなる。私たちは積極的に全ての国内のエネルギー源を取り入れ,開発しなくてはならない。 (ミット・ロムニー,『ノー・アポロジー』)
「グリーン・ニュー・ディール」政策を掲げ,新エネルギー導入やCO2排出規制に積極的だったオバマ大統領に対し,共和党の大統領候補:ミット・ロムニー(Mitt Romney)は環境規制緩和と米国内の化石燃料開発を主軸とする新たなエネルギー政策を提案し対峙している。
ロムニーのエネルギー政策はこの小冊子にまとめられている:
"Believe in America: Mitt Romney's Plan for Jobs and Economic Growth, Energy Policy"
ここに書かれている内容を箇条書きにまとめると次のようになる:
- 規制緩和
- 石油掘削などに関わる許認可のスピードアップ
- 大気浄化法(Clean Air Act)や水質浄化法(Clean Water Act)などを見直し,エネルギー関連企業等を救済
- 原子力規制を見直し,多様なタイプの原子炉の建設を促進
- 米国内の石油・石炭・天然ガスの開発推進
- 米国内の資源埋蔵量の包括的調査の実施
- メキシコ湾から北極圏国立野生生物保護区まで,様々な場所で油田開発を推進
- カナダおよびメキシコでも石油・天然ガス開発を推進
- 環境保護局の過剰な介入を抑え,シェールガスの開発を推進
- 研究開発
- 新エネルギーの研究開発に充てられていた予算を従来型のエネルギー開発の予算に充当
- エネルギーを輸入から国産へと転換するための技術開発を支援するため,DARPA型の研究開発投資の仕組み(ARPA-E)を設立
米大統領選挙における環境・エネルギー政策論争で大事なポイントは,経済的にどのような効果が挙がるか,ということである。
例えば,オバマ政権は一連の環境・エネルギー政策によって1日100万バレルの石油輸入を減らすことができたと成果を誇っている(参照)
また,エネルギー安全保障に関するone-year progress report (PDF)では,自動車の燃費に関する規制によって市民がガソリン代を節約できたこと,風力・太陽光等の新エネルギー設備の建設,新交通システムの導入等により数万人の雇用が生まれたことなどが報告されている。
こうしたオバマ政権の主張に対し,異議を唱えるのがロムニーである。新エネルギー・環境保護関連の雇用,いわゆる「グリーン・ジョブ」が増える一方で,他の分野の雇用が失われていると述べている。グリーン・エナジーは資本集約型産業で,雇用を減らす方向に作用していると。"Believe in America"では外国の例を引き,グリーン・ジョブ1つに対し,スペインでは2.2の雇用が失われており,イギリスでは3.7のジョブが失われていることを示している。
ロムニーはグリーン・ジョブではなく,労働集約型産業である石油・石炭・天然ガス・原子力産業の振興を主張する。言うまでもなくより多くの雇用が生まれるからである。
また,ロムニーはオバマ政権の環境規制についても批判的である。環境規制によって電気業界では250000人が,ボイラー業界では800000人が職を失う危険に曝されていると言うのだ。
"Believe in America"ではオバマ大統領のエネルギー政策とロムニーのそれとを比較して,どちらがどれだけの量の雇用を生むのか,有権者に理解させようとしている。"Believe in America"の主張する所を図示すると次のようになる:
↑それぞれの環境・エネルギー政策によって生まれる雇用(青),失われる雇用(赤)の数。ロムニーの政策(青)によれば雇用が生まれ,オバマ政権の政策(赤)では雇用が失われるという主張である。
オバマ政権のままだと何百万もの雇用が失われるが,ロムニーなら雇用を生み出せるというわけである。
迫力はあるが,よく見ると怪しい。カウントして良いと思われるのは,2010年のメキシコ湾原油流出事件とその後の海底油田開発の延期によって職を失ったとされる19000人ぐらいで,あとは「可能性」の数値でしかない。
だが,本稿で述べたいのは数値の正確さの話ではない。
本稿で述べたいのは,オバマ大統領とロムニーとで環境・エネルギー政策が全く逆であること,そして,米国の環境・エネルギー政策では雇用確保が重要な判断材料だということ,この2点である。
以前,「『グリーン・エコノミー』を読む」(2011年12月4日)という記事を書いたが,環境・エネルギー政策は単独で扱うのではなく,雇用などポリシー・ミックスで扱うべきものなのである。
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コメント
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投稿: sac hermes | 2012.09.23 07:06