abc予想とは?
小生よりも歳が1コ上の天才が数学の難問「abc予想」を解いたそうで。
「難問「ABC予想」解明か 望月京大教授、整数理論証明の論文」(中国新聞,2012年9月19日)
証明は500ページにも上り,素人が読みこなすことは不可能。だが,"abc"とは何か?ということだけでも理解しようと,ニワカに勉強をしたところである。
中国新聞の記事の例
上の記事の図解をもとにabc予想の例を簡単に説明すると次のようになる:
- 3つの自然数a, b, cの間に次の関係があるとする
- a + b = c
- aとbは互いに素"coprime",すなわち1以外の共通の約数を持たない
- a, b, cそれぞれの素因数をすべて掛けた数をr(a, b, c)とする
- ここで,r( )のことをradicalと呼ぶ
- r(a, b, c)^2 > cが常に成り立つ
こういうのは実例を挙げないとわからないので,手を抜いた例で考えてみる:
[例1.1]
a = 1, b = 2, c = 3とする。a + b = cが成立。aとbは互いに素。 r(a, b, c) = 1 * 2 * 3 = 6なので,r(a, b, c)^2 = 36。これは明らかにc = 3より大きい。
[例1.2]
a = 5^2 = 25, b = 12^2 = 144, c = 13^2 = 169とする。a + b = cであり,aとbは互いに素。 r(a, b, c) = 2 * 3 * 5 * 13 = 390なので,r(a, b, c)^2 = 152100 > 169 = c。
[例2]
a = 1, b = 8, c = 9 = 3 * 3とする。a + b = cである。そしてb = 2 * 2 *2なので,aとbは1以外の共通の約数を持たない,すなわち互いに素。 r(a, b, c) = 1 * 2 * 3 = 6なので,r(a, b, c) < cだが,r(a, b, c) ^ 2 = 6^2 = 36 > 9 = c。
Wikipediaの記事「ABC予想」より
Wikipediaの記事によると「Oesterle, Masserのabc予想」というバリエーションがあるようだ:
a + b = cであり,aとbは互いに素であるa, b, c(これをabc tripleと呼んでいる)は,有限個の例外を除き,全てが c < r(a, b, c)^k,ただし,k > 1を満たす。
中国新聞で出ていた例はk = 2の場合である。k = 2は大きすぎるような気がしていた。kをどこまで1に近づけれるか,という興味が湧いてくる。そこら辺を説明してくれているのが,ライデン大学のABC@Homeプロジェクトの解説記事である。
ABC@Homeプロジェクトの解説記事
ここの解説記事What is the abc conjecture?が"abc予想"について一番わかりやすく書いていると思う(英語だけど)。
ただし,この記事ではWikipedia(日本語版)と"abc triple"の定義が違っている。
Wikipedia(日本語版)では
「a + b = cであり,aとbは互いに素であるa, b, c」
を"abc triple"として定義しているが,ABC@Homeプロジェクトの解説記事では,
「a + b = cであり,aとbは互いに素であり,r(a, b, c) < cであるa, b, c」
を"abc triple"として定義している。つまり,r(a, b, c) < cという条件が加わっているのがミソである。
なぜなら,r(a, b, c) > cだったらr(a, b, c)^2 > cなのは当たり前。r(a, b, c) < cなのにr(a, b, c)^2 > cと不等号が逆転するというのが重要なのである。
abc tripleの例として挙げられているのが,(a, b, c) = (1, 8, 9)や(1, 63, 64)や(1, 9^n - 1, 9^n)といった例である。a = 1だけかというとそうでもなくて,ここを見ると,(3, 125, 128)という組み合わせもある。
ABC@Homeプロジェクトの解説記事ではabc tripleの質(quality)を定義している。ここの"abc triple"の定義では,必ずr(a, b, c) < cが成り立つので,r(a, b, c)を何乗すればcになるのか,ということ,ようするにr(a, b, c)^q = cとなるqを計算し,このqを質として定義している。
qの計算は対数さえ知っていれば難しくない。r(a, b, c) ^ q = cより,q = log(c)/log(r(a, b, c))である。
[例3]
(a, b, c) = (1, 63, 64)の場合,r(1, 63, 64) = 1 * 2 * 3 * 7 = 42だから, q = log(64) / log (42) = 1.11269.
"abc triple"とその質qの定義ができたところで,先ほどの「Oesterle, Masserのabc予想」を振り返ってみると,そこで出てきたkがqに対応していることがわかる。
ライデン大学はさらなるabc tripleの可能な限りリストアップしようとしてABC@Homeを立ち上げたわけである。2012年9月までに23157864個のabc tripleを収集したようであるが,今回の望月教授の証明によって,このプロジェクトも終焉を迎えるかどうか?
【9月24日加筆】
望月教授に関する報道があったためだと思うが,ここ数日,Wikipediaの記述がどんどん更新されている。abc予想の正確な定義は最新のWikipediaの記事で確認してほしい。
本記事の記述はおおざっぱなものだが,abc予想に関してなんとなく理解を促すものになったのではないかと思っている。
abc予想を理解するためには素因数分解や根基や最大公約数といった知識が必要だが,そのあたりの解説は新たな記事「abc予想に親しむ(1)」を見てほしい。
また,abc予想に関連して出てくるabc-tripleが具体的にはどんな数字か,ということについては別の記事「abc予想に親しむ(2)」を見てほしい。
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コメント
望月先生のサイトを覗いてきました。
"Inter-universal Teichmuller Theory"
これですね・・・思わずゴクリと息を飲んでしまいましたw
500ページとは判定する先生方も大変でしょう。
投稿: 拾伍谷 | 2012.09.19 20:32
abc予想の凄いところは,これが正しいとすると,フェルマーの最終定理が(n>=6のとき)簡単に証明できてしまうということです。
詳しくは先ほど修正されたwikipediaの記事をご覧ください。
現在,数学愛好者たちが猛烈な勢いでwikipediaの記事を加筆しているので,面白いです。
投稿: fukunan | 2012.09.19 23:50
ABC予想の正誤としてこんな質問をgooに載せてみました。
某有名掲示板で見たんだけどこれって正しいの?
望月教授のABC予想と矛盾はしてないの?
組み合わせは無限個になるんだって。
ちゃねらーが解明(´・ω・`)? ABC予想とビール予想
http://wc2014.2ch.net/test/read.cgi/rikei/143704 …
投稿: 素数さん | 2015.08.07 02:59