これ,あかん奴や:ヘルツォーク『小人の饗宴』
先日,『バッド・ルーテナント』の記事を書いた時に予告した通り,ヘルツォークの『小人の饗宴』(1969~1970年,西ドイツ)を日曜日にツマとともにYCAM(山口情報芸術センター)で見てきた。
一言で感想を言うと「これ,あかん奴や」。全編狂気に満ちている。
拾伍谷氏のコメントでは「胸糞の悪くなる最低映画」ということだったか,完全に同意。
小人のための福祉施設で,ある日,小人たちが反乱を起こし,低俗な破壊と暴力を繰り広げるという内容。
「低俗な」というのは知性のかけらも感じられない,クソ餓鬼のような行動をしていることを意味する。
小人たちは,同じく小人で盲目の兄弟をからかい,施設で買われていた豚の親子をいたぶって親豚を死に至らしめ,食べ物や皿を投げ合い,サルを十字架にかけて行進し,軽トラックを乗り回した挙句,竪穴に捨て,鶏を窓から建物の中に投げ込み,立ち上がれなくなっているラクダをからかい・・・というように執拗に悪事を繰り返してはゲラゲラと下劣に笑っている。
全編にわたり,小人たちがやたらに大きな,そして甲高い声で,幼稚なことを言い合っているのだが,これがまたイライラさせてくれる。挿入歌としてたびたび流れる民謡も気が狂いそうな高音の歌であり,いわば音響効果も映画の狂気を倍増している。
ヘルツォークの一貫したテーマというのは「狂気」で,それを最大限に発露したのがこの『小人の饗宴』。その後の作品は狂気を洗練するか薄めるかして商業化にこぎつけているのではなかろうかと思った。
先日の『バッド・ルーテナント』はR15+指定だったが,この『小人の饗宴』の方こそR15+指定なのではなかろうか,というのがツマの意見。確かに多感な時に,こんなのを見たら,その後の人生が狂いかねない。
「あかん奴」とは言ったものの,同時に凄い映画でもある。一見の価値あり。ちなみに上映中に観客が一名退場してしまったということを申し添えておく。
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コメント
お疲れ様でしたw
奥様と一緒にご覧になったとはまたチャレンジングなことでしたね。
類似する映画にファスビンダーやシュリンゲンズィーフのものがあります。しかし、彼らの作品が「胸糞の悪くなる最低映画だが、ゆえに良い」あるいは「ゆえに悪い」の判断を受け手に迫るのに対し、ヘルツォークの「小人の饗宴」はそうした判断すら拒絶するようなところがあるように思います。
「最低映画だが、ここには重要な何かが描かれている」ではなく「いやこれは単に最低」と言うべきなのでしょうか。
何にせよパワフルな作品ではあります。
投稿: 拾伍谷 | 2012.07.24 22:07