パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』をどう読むか(2)
パオロ・バチガルピの『ねじまき少女』は,「ねじまき」(人造人間)のエミコと白シャツ隊隊長のカニヤという二人の女性が,他者によって翻弄される運命から自らを解放し,自らの人生を取り戻す物語である,というようにも読むことができる。
ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF) パオロ・バチガルピ 鈴木康士 早川書房 2011-05-20 売り上げランキング : 101806 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF) パオロ・バチガルピ 鈴木康士 早川書房 2011-05-20 売り上げランキング : 111942 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
エミコとカニヤとはついに相まみえることがなかったが,それぞれ,歴史を大きく動かす存在となった。
エミコはソムデット・チャオプラヤを殺害することによって,タイの政局を後戻りのできない状況に追い込んだ。カニヤは最後の最後にタイ人としてのアイデンティティに目覚め,カロリー企業の手からタイを守った。
タイの歴史を紐解くと,女性が危機に瀕した国家を救うという場面にしばしば出くわす。そういうことを梅棹忠夫が『東南アジア紀行』に記している。例えば,ビルマ・タウングー王朝のバインナウン王との戦いの中,アユタヤ朝のチャクラパット王を救った王妃シースリヨータイ。また,ヴィエンチャン王チャオ・アヌ(アヌヴォン)の侵攻からコーラートを守ったスラナーリー。
タニヤもまた,これらの女性たちの系譜に連なる者であり,『ねじまき少女』はタイらしい児女英雄伝説であると見ることもできよう。
東南アジア紀行 (上巻) (中公文庫) 梅棹 忠夫 中央公論新社 1979-01 売り上げランキング : 95218 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 小池正就『中国のデジタルイノベーション』を読む(2025.01.06)
- 紀蔚然『台北プライベートアイ』を読む(2024.09.20)
- 『ワープする宇宙』|松岡正剛に導かれて読んだ本(2024.08.23)
- Azureの勉強をする本(2024.07.11)
- 『<学知史>から近現代を問い直す』所収の「オカルト史研究」を読む(2024.05.23)
「東南アジア」カテゴリの記事
- 高野秀行『西南シルクロードは密林に消える』(2023.05.05)
- 納豆が食べたくなる本|高野秀行『謎のアジア納豆』(2023.04.20)
- 「情動エンジニアリング」について考える本(2022.03.19)
- 東南アジアの現代史はこれで:『はじめての東南アジア政治』(2022.02.11)
- ミャンマーにてクーデター(2021.02.01)
コメント