カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読んだ件
だいぶ前にツマが買ってきて読み終わっていた,カズオ・イシグロ『私を離さないで』(土屋政雄訳,ハヤカワepi文庫)を,今度は小生が読んでみた。
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これは映画にもなっているし,映画になったとき,NHKでこの作品を巡るドキュメンタリーが放映された。
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端的に言えば,この物語は「ヘールシャム」と呼ばれる施設で育った「提供者」キャシー,ルース,トミーの三角関係を描いた物語である。「提供者」であることが,彼女らの人生に暗い影を落としている。
「提供者」とは,臓器提供を使命とするクローン人間である。オリジナルの人間と同様に絵画や詩作のような創造的活動もするし,恋愛もする。教育施設を出てからは一般の人々と交流する機会もある。だが「提供者」には避けることのできない運命が待っている。
『わたしを離さないで』は三部構成になっており,いずれもキャシーの回想という形をとっている。第一部はヘールシャムでの,いわば学園生活,第二部はコテージとよばれる場所でのモラトリアム生活,第三部は「提供者」の世話をする「介護人」生活が描かれる。
介護人は提供者になる前の仕事であり,仲間の運命を見守る仕事である。キャシーは回想している時点では,すでに提供者となったルースやトミーの介護人となっている。しかしキャシー自身もいずれ提供者となる。
いずれ命を落とすのなら,「提供者」たちに通常の人間と同じような教育を施し,感情豊かに育てることはむしろ残酷なのではないかと思われるが,ヘールシャムでは人道的かつ文化的な教育が行われている。それは何故か,ということは第三部の終わりごろに明らかにされる。
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NHKのドキュメンタリーによれば,カズオ・イシグロがこの作品を執筆することになったきっかけはクローン羊ドリーの登場だったということである。
オリジナルの人間とクローン人間の運命の違いについてまず考えさせられる作品だが,小生などはさらに,家畜とペットの境界線は?ということを思ったりした。
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特殊な運命の中で生きる人々の心理を描いた,せつない話というと,萩尾望都を思い出すのだが,googleで「わたしを離さないで 萩尾望都」で検索すると,検索結果がウジャウジャ出てくる。同じことを思っている人は非常に多い。
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