白河院ご荒淫:清盛落胤説
昨日,「平清盛」を見た。
「龍馬伝」以来,大河ドラマの撮り方が変わってきた。カメラワークも良くなったし,あとは「タイムスクープハンター」のように,メイクがリアル路線になってきたのも良い。
とくに今回は貴族たちに白粉(おしろい),眉無しが導入されるようになったのが好印象。杏とか,りょうとかの眉が無かったのはあの時代っぽくて良い。あと,国村隼が白粉でメークしていたのも貴族っぽくて良い。あとは全員鉄漿(おはぐろ)をやってもらえるともっといいんだけど,そこまでやると演じる側も見る側も衝撃が大きすぎるか。
「平清盛」第1話では,清盛出生の秘密がとりあげられた。
白河法皇が荒淫で清盛も崇徳天皇もご落胤という説はわりと知られた話である(清盛落胤説)。
海音寺潮五郎の『武将列伝』の「平清盛」の章でも紹介されているが,二つの清盛落胤説がある:
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一つは平家物語の説。
白河法皇は寵姫・祇園女御(ぎおんにょうご)のもとに通うとき,いつも平忠盛を供に連れていた。
ある雨の夜,白河法皇が祇園女御のもとに行く途中,前方に不気味な妖怪のようなものが見えた。白河法皇はその妖怪を殺すよう,忠盛に命じた。忠盛はその妖怪は狐狸のたぐいであり,殺すのは不憫であると考え,生け捕りにすることにした。
生け捕ってみると,その妖怪は実は老僧であった。白河法皇は無用な殺生を避けた忠盛の武勇と沈着冷静さを賞賛し,祇園女御を忠盛に賜ることとした。
祇園女御は白河法皇の子を懐妊しており,白河法皇は忠盛に対し,「その子が女ならば私の子とし,男ならばお前の子とする」と言った。果たして生まれたのは男の子であった。これが後の清盛である。
もう一つは源平盛衰記の説。
妖怪かと思ったら老僧でした,という忠盛武勇伝は同じだが,賜ったのは兵衛佐ノ局(ひょうえのすけのつぼね)だったというのが違うところ。こちらもやはり懐妊していた。生まれたのが清盛,ということである。
いずれも歴史書ではなく物語の記述なので,歴史家はとりあわない。だが,物語としてはやはり面白い。今回の大河ドラマでも形を変えて取り入れられたわけである。
◆ ◆ ◆
清盛も崇徳天皇も白河法皇のご落胤,というのはあまりにも乱れていて,ありえないだろー,と現代の感覚では思う。
だが,小生としてはこれはありうることだと思っている。そのヒントとなるのが,鎌倉時代の日記「とはずがたり」である。
後深草院に仕えた女房二条の書いた日記である。白河法皇や平清盛とは全く無関係なのだが,この日記に描かれているドロドロの恋愛関係を見ていくと,平安・鎌倉の宮廷はこんなものだろうという確信を抱かざるを得ない。
この二条という女性,西園寺実兼(さいおんじ・さねかね,通称:雪の曙)と関係をもちつつ,後深草院の寵を受けて皇子を生む。性助法親王(しょうじょ・ほっしんのう,通称:有明の月)とも鷹司兼平(たかつかさ・かねひら,通称:近衛大殿)とも関係を持つ。後深草院が嫉妬に駆られたかというと逆で,二条が他の男と関係を持つのを喜んでいるフシさえある。
より詳しい解説はドナルド・キーン『百代の過客』の「とはずがたり」の章をご照覧ありたい:
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こういうのを見ると,白河法皇と璋子の密通なんてありそうなことと思う。白河院,ご荒淫ならせ給うらん。
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