児玉源太郎は二○三高地陥落にどのくらい貢献したか?:公式記録に見る児玉源太郎の行動
昨晩,BSプレミアムで映画「二百三高地」(1980年,東映)を放映していた。これで「坂の上の雲」と合わせて二日連続の「二○三高地」である。
スペシャルドラマ「坂の上の雲」でも,映画「二百三高地」でも,
1904年(明治37年)12月1日,児玉源太郎,第三軍司令部に到着->児玉が乃木を説得->児玉の指示で第三軍戦術転換->12月4日,203高地への猛攻->12月5日,203高地占領
という流れである。児玉到着以来,わずか数日にして勝敗が決したわけで,見る者は203高地陥落(さらには旅順陥落)は児玉の功績であるとの印象を受ける。
ドラマでも映画でも,児玉が司令部で指示を下す際,乃木は一言も口をはさむことがなかった。第三軍の指揮権を児玉が完全に掌握しているようにしか見えない場面だった。
だが,公式記録である参謀本部編「明治三十七八年日露戦史」(偕行社,明治45~大正4年)には児玉の旅順督戦に関する記述はあるものの,児玉の指揮介入を明確にするような記述は見られない。
児玉の到着,乃木との対面についてはあっさりとこれだけの記述である:
是日(12月1日)正午総参謀長児玉大将第三軍司令部に著し<総司令官は二十七日以来の戦況を知り憂慮する所あり児玉大将に旨を授けて派遣せしものなり>同軍司令官に会し之に伝うるに必ず攻撃の目的を達すべき総司令官の意図を以てせり
(参謀本部編「明治三十七八年日露戦史」第九編「旅順要塞の攻略」第6巻526頁。原文を現代仮名遣いに改めた。また<>は原文の注釈)
あっさりとした記述であるからこそ,想像の余地があり,児玉が乃木を説得するという場面が生まれるのであろう。
ともあれ,「日露戦史」によれば,以後の作戦指示は全て軍司令官=乃木から発せられており,公式には児玉は指揮をしていない。
児玉が再び登場するのは,12月2日夜~3日早朝にかけて第七師団と第三軍司令部との間で議論が交わされた時である:
第七師団長(大迫尚敏中将)は前夜(2日夜)軍司令官より攻撃に関し下問を受け先爾霊山(203高地)西南部山頂を確実に占領し尋てその範囲を其範囲を拡張して東北部山頂に及ぼし最後に老虎溝山を攻略するを適当とし是日(3日)早朝此旨を復答し斎藤少将(第七師団長指揮下。203高地攻撃隊長)もまた児玉大将の下問に対し略師団長の考案と同一の意見を復申し共に其承認する所となれり
(参謀本部編「明治三十七八年日露戦史」第九編「旅順要塞の攻略」第6巻534頁)
つまり乃木と児玉がそれぞれ203高地の攻撃方針について現地指揮官たちに下問し,それらの回答内容を承認したという話である。
次に児玉が登場するのは日本軍が203高地占領後である:
当時軍司令官並に満洲軍総参謀長児玉大将は爾霊山(203高地)占領の確実なるを信ぜしも敵の慣用手段たる夜間の逆襲により再び之を失わんことを慮り軍司令官は午後四時第七師団長に命じ同山攻撃隊をして同山を死守しまた前日の轍を踏むことなからしむ
(参謀本部編「明治三十七八年日露戦史」第九編「旅順要塞の攻略」第6巻553頁)
このとき児玉の援軍要請によって第八師団歩兵第十七連隊(満洲軍予備隊)が旅順に来ていたのだが,児玉はこの第十七連隊の指揮権を乃木に引き渡す:
歩兵第十七連隊は午後五時四十分児玉大将の指示により軍司令官の使用に供せられ同司令官これを第七師団に増加しかつ命ずるに同連隊を以て爾霊山(203高地)の占領を確実にしかつ爾後における攻撃の進捗を用意ならしむべきを以てす
(参謀本部編「明治三十七八年日露戦史」第九編「旅順要塞の攻略」第6巻553~554頁)
「明治三十七八年日露戦史」に記述された203高地の戦いにおいて児玉が登場するのは上に引用した程度である。第三軍の指揮をしているのはあくまでも軍司令官たる乃木であって,児玉はアドバイザー的存在に過ぎない。
児玉の積極的介入を伝えるのは公式記録ではなく,児玉の伝記なのだが,それらについては稿を改めて述べる。
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