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2011.12.12

『坂の上の雲』第三部の主人公は乃木さんです

先週に続き,というか三年かけてスペシャルドラマ『坂の上の雲』を見ているが,現在放映中の第三部前半の主人公は乃木さんである。第10話と第11話では秋山真之と単に浮いているだけの連合艦隊を無理に出さなくていいと思った。

第11話「二○三高地」で激闘の末,日本軍第三軍は二○三高地を奪取,旅順艦隊撃滅を成功させるわけだが,ここで一つ問題が浮上する。

戦史通・近代史通は良くご存じの話だが,「乃木愚将」問題である。

旅順攻囲戦において歩兵突撃を繰り返し,大量の兵を戦死させた乃木さんは愚将であり,児玉源太郎への指揮権委譲によって二○三高地がようやく奪取できた,という説を『坂の上の雲』原作者の司馬遼太郎は唱えている。

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バルチック艦隊の興亡を描いた,吉村昭『海の史劇』も同じ説を採っており,児玉源太郎への指揮権委譲の話が出てくる。

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吉村 昭

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しかし,肝心の児玉源太郎への指揮権委譲のエピソードは司馬遼太郎の創作であるようだ。

そもそも児玉源太郎が督戦に来た事実はあるものの,第三軍の指揮をしたという事実は確認できないという。

また,第1回総攻撃の反省から第2回総攻撃以降は塹壕を掘り進めて損害を押さえる戦術に転換していることを見れば,乃木さんが愚将ではないことが明らかであるという。

そのような司馬説への反論をまとめているのが別宮暖朗『旅順攻防戦の真実―乃木司令部は無能ではなかった』である。

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別宮 暖朗

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司馬遼太郎は博覧強記の人として良く知られているが,サービス精神が旺盛で,読者が理解しやすいように物事の構図を単純化する。また,話をおもしろくするために重要なシーンを創作で補ったりする。

フィクションなのだからそういったことは自由にやっていいのだが,筆力があるあまりに,それが災いして,読者はこの人の作品がフィクションであることを忘れてしまう。司馬遼太郎作品を史実だと思っている人は非常に多い。なんと罪作りな作家であることか。

とか言いながら,小生も司馬遼太郎作品は結構好き。

ちなみに小生が好きな司馬遼太郎作品は

  • 『北斗の人』
  • 『梟の城』
  • 『覇王の家』
  • 『空海の風景』
  • 『尻啖え孫市』

だったりする。なんとマイナーな。『空海の風景』以外は完全なエンターテイメント作品である。

小生は司馬遼太郎はエンターテイメント作家だと考えており,なにか人生の指針や意思決定のヒントを与えるような作品を書いている人だとは思っていない。なので,経営者の人が愛読書として司馬遼太郎作品を挙げるときは,どういう意図で挙げているのか?と疑問に思ったりする。

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コメント

ご無沙汰しております。
毎度毎度興味深いネタを様々な視点で書かれておりますね。
ある程度以上の男性は司馬遼太郎の小説をバイブルのようにされていますね。
かく言う私の父もそんな感じですが。
経営系雑誌でも有名な経営者が司馬遼太郎の小説を上げていますね。
生き様とか夢とかに重きを置いているのだろうと、勝手に推測しております。
密かに、格闘家の方が「北斗の拳」、サッカー選手が「キャプテン翼」、バスケ選手が「スラムダンク」を上げているのと差異はないのでは?と感じております。

投稿: 娘は堀北真希になりそうもありません | 2011.12.13 17:35

どうもご無沙汰しております。

ご指摘の通りで,たぶん経営者は経営者なりに,アスリートはアスリートなりに理想の生き様をフィクションの中に求めているのでしょうね。

小生にとっては「消滅の光輪」や「銀河英雄伝説」の方が司馬作品よりもピンとくるものが多かったりします。

投稿: fukunan | 2011.12.13 18:35

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