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2011.12.04

『グリーン・エコノミー』を読む

吉田文和『グリーン・エコノミー』(中公新書2115)を読んだ。

グリーン・エコノミー - 脱原発と温暖化対策の経済学 (中公新書 2115)グリーン・エコノミー - 脱原発と温暖化対策の経済学 (中公新書 2115)
吉田 文和

中央公論新社 2011-06-24
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著者は「はじめに」において

「地球温暖化対策を行いながら『脱原子力発電』を目指すことは可能か」(iiiページ)

という問いかけをしているが,「脱原発」は本書の主要な論点ではない。「経済発展と温暖化防止の両立は可能か」というのが本書の本来の問いかけである。

東日本大震災によって,温暖化防止のための原発推進というオプションの選択が困難になったという認識の下,再度,「経済発展と温暖化防止の両立」の可能性を問い直しているのである。

著者はこの問いに対して「それはポリシー・ミックス(政策統合)によって可能となる」という肯定的な答えを示している。

ポリシー・ミックスとは環境・経済・福祉といった諸政策を個別ではなく統合して扱うことである。

本書第4章~第5章ではデンマーク・ドイツ・オーストリアにおけるポリシー・ミックスの先例が紹介されている。例えばドイツのバイオガス政策では,農業廃棄物によってバイオガスを生産する農家にボーナスが与えられる。この政策に対し著者は,農業廃棄物問題の解決だけに留まらず,再生可能エネルギー普及と農業振興も兼ね備えた「一石三鳥」の政策であると評価している。またドイツでは,環境政策は雇用政策の側面もあることが示されている。風力発電をはじめとする再生可能エネルギー分野において2007年~2009年の間に30万人の雇用が生み出されたという。

こうした先例を踏まえ,著者は終章において日本が取るべきポリシー・ミックスとして,

「地球温暖化対策税(炭素税)を本格実施し,省エネルギーと節電を促進し,二酸化炭素を減らすと同時に,その税を社会保障税や年金保険料(雇用者負担)を減らすために使う」(257ページ)

という環境税の一般財源化や,

「エネルギー環境政策と産業雇用政策を連携して,人減らしのための省力化投資よりも省エネルギーと再生可能エネルギーの開発,利用を推進する政策により雇用を増やす」(258ページ)

という政策を提案している。


  ◆   ◆   ◆


本書の残念なところは,おおまかな政策提案に留まり,政策の詳細な(量的な)検討には立ち入っていないことである。例えば,環境税が温暖化ガス排出量削減やエネルギー産業の構造変化に与える影響のシミュレーションであるとか,税収を福祉政策や雇用政策に回す場合の効果であるとか。本書は新書なので,そこまでは求めるべきではないかもしれないが。

他にも残念な部分がある。「温度変化により材料を調理する機器」(145ページ)や「原発をこれまで行ってきたことのコスト」(249ページ)等の妙な表現には戸惑わされる。また,詳しい説明が無いまま図表だけが表示されている不親切な部分も目立つ。


  ◆   ◆   ◆


というようにいくつか難点を挙げてはみたが,ポリシー・ミックスによる環境・雇用・福祉問題の同時解決という考え方を示した点では刺激的な本であると思う。

莫大な資料を渉猟しているので,本書巻末の参考資料一覧を手掛かりに,より詳しい資料を読み,環境経済学について深く学ぶこともできる。

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