梅棹『東南アジア紀行』の時代(1)
1957年11月,梅棹忠夫率いる「大阪市立大学東南アジア学術調査隊」によるインドシナ半島を巡る調査旅行が始まった。
隊員は藤岡喜愛,川村俊蔵,小川房人,依田恭二,吉川公雄,そして梅棹の6人だった。
6人は三菱重工からて供されたJ3, J6, J11という3台のジープに分乗し,1957年末から翌年の春にかけて,タイ・カンボジア・南ベトナム・ラオスを巡り,これらの国々の自然環境と文化を調査した。
彼らは「戦後日本が東南アジアに送り出した,最初の学術調査隊」(石井米雄)であり,その隊長が記した記録が,この『東南アジア紀行』である。
東南アジア紀行 (上巻) (中公文庫) 梅棹 忠夫 中央公論新社 1979-01 売り上げランキング : 95218 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
東南アジア紀行 下 中公文庫 M 98-3 梅棹 忠夫 中央公論新社 1979-01 売り上げランキング : 99083 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
タイにとって1957年という年は,サリット・タナラットがクーデターによって政権を掌握した年である。
ラオスでは前年の1956年に王国政府とパテート・ラーオ(左派)との間で和解が成り,連立政権が樹立されたところだった。
ベトナムでは第一次インドシナ戦争終結(1954年)以降,国家が南北に分裂し北緯17度線を挟んで両者が対立している状態だった。
カンボジアでは独立(1953年)以来,ノロドム・シハヌークによる,巧みに見えて極めて不安定な政治が展開されていた。
動乱の時代に訪れた一瞬の平和。その機に行われたのがこの調査旅行である。
資金も無く,言葉も不自由,情報も十分でない状況の中,梅棹はじめとする隊員たちの情熱と現地の人々の協力により,この調査は大いなる成果を収めた。
戦後の東南アジア研究は彼らによって始まったと言っても良い。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 小池正就『中国のデジタルイノベーション』を読む(2025.01.06)
- 紀蔚然『台北プライベートアイ』を読む(2024.09.20)
- 『ワープする宇宙』|松岡正剛に導かれて読んだ本(2024.08.23)
- Azureの勉強をする本(2024.07.11)
- 『<学知史>から近現代を問い直す』所収の「オカルト史研究」を読む(2024.05.23)
「東南アジア」カテゴリの記事
- 高野秀行『西南シルクロードは密林に消える』(2023.05.05)
- 納豆が食べたくなる本|高野秀行『謎のアジア納豆』(2023.04.20)
- 「情動エンジニアリング」について考える本(2022.03.19)
- 東南アジアの現代史はこれで:『はじめての東南アジア政治』(2022.02.11)
- ミャンマーにてクーデター(2021.02.01)
コメント