山本昌弘『株とは何か』:あらゆる面から株について語り尽くす本
「株とは何か」という茫漠たる疑問に対し,あらゆる側面から答えてくれるのがこの本である。
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株について書かれた本と言えば,金融工学について述べた本,株式投資指南本など,特定のトピックスについて述べた本が多いが,この本ほど株について網羅的に語っている本はあまりないのではなかろうか?
著者は第一章において,株には「資金調達(ファイナンス)の手段としての株」という側面と「企業統治(ガバナンス)の手段としての株」という側面の2つがあることを述べる。つまり株主から見れば,投資手段としての側面と投票券としての側面とがあるということである。小生なりに短く言うと「投資と統治の2面性」ということになるだろうか。
企業統治というのは,株主にとって利益をもたらすように企業が経営されることである。しかし,株が多くの株主に所有され,株主一人ひとりの発言力が低下すると,経営者は株主の言うことを聞かずに行動するようになる。これを「エージェンシー問題」といい,あるいは「株主の外部化」という。本書ではこの問題を「ファイナンスとガバナンスの相克」と呼んでいる。
第2章以降,著者は株の歴史から金融工学から会社四季報の見方からリーマンショックからベンチャー資金・企業再生に至るまでありとあらゆる角度から株について語り尽くすわけだが,常に中心にあるのは「ファイナンスとガバナンスの相克」という問題意識である。
例えば,日常の,株主が外部化されている状況では株には単なる投資手段としての役割しか無い。この状況では,やはり株式を単なる投資手段とみなす金融工学が大いに役に立つ。ところが,経営者の作為によって企業経営に大きな変化が起こると(例えばエンロン事件であったり,ライブドア事件であったり,リーマンショックであったり・・・),金融工学は全く役に立たなくなる。このとき,株主は企業統治の手段としての株の役割をやっと思い出すわけである。
著者本人も「本書は株についてのきわめててんこ盛りの書物となっている(5ページ)」と述べるほどの充実した内容の本である。多少なりとも株なんかに手を出しちゃった人は,本書を座右に置き,株価の上がり下がりだけにとらわれず,「儲かるためには投資先の企業のガバナンスが健全であることが大事」ということに思いを致すべきだろうと思う。
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