戦争が文明を興隆させる?
「戦争,交易,労働の専門化,文明に先だって発生するのはこの3つです。」
UCLAの考古学者チャールズ・スタニッシュ(Charles Stanish)はそう語る。
ペルー・チチカカ湖盆地に存在した2つの古代国家,タラコ(Taraco)とプカラ(Pukara)の遺跡を調査した結果,紀元前5世紀~紀元後1世紀に起きた戦争によって,タラコは完全に滅亡。一方,プカラはこの地域における覇権を確立し,文明圏を築いたことがわかった。
"What Is War Good For? Sparking Civilization, Suggest UCLA Archaeology Findings from Peru" (July 25, 2011, Science Newsline)
スタニッシュらが2004~2006年に行った調査によると,最盛期には5000人の人口を抱えていたとされるタラコは紀元後1世紀頃の大火で滅亡した。
遺跡から発掘された石器・陶器・織物などの図柄によれば,当時,タラコは何者かと戦争を繰り返しており,この大火は単なる火事ではなく,戦争によって引き起こされたものだと推測されるという。
タラコの滅亡と同時期に,隣国プカラは興隆し始めた。紀元前5世紀から紀元後2世紀にかけて,プカラはアンデス高地における中心地となっていた。ピーク時には10000人の人口を抱え,神官,官僚,農民,戦士のような職業の専門化を成し遂げていた。
スタニッシュによれば,メソアメリカでも,メソポタミアでも戦争は文明の興隆に貢献しているという。スタニッシュはさらにアルメニアの新石器時代の遺跡の調査を行って,自説の検証を進める予定だ。
◆ ◆ ◆
以上がScience Newslineの記事の要約である。
気をつけなくてはならないのは,厳密に言えば「例を幾つ示しても理論が成立することの証明にはならない」ということである。
「文明」の定義にもよるが,たぶん,古代国家間(集落同士といったほうが良い?)の戦争は多くの古代文明の成立に影響を与えていることだろう。しかし,そうじゃないパターンもあるかもしれない。
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