『東南アジア史』(文庫クセジュ):良書だが誤記多く残念
日本神話に関する読書をさぼって,今回はレイ・タン・コイ著,石澤良昭訳『東南アジア史』(文庫クセジュ)を読んだ。
小生の出張先が東南アジア全域に拡大しそうなので教養をつけようと思って。
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著者はベトナム人。訳者はアンコール遺跡の研究で高名な上智大の先生。
この本では古代から現代にいたるまでの東南アジア全域の歴史を概説している。
第1章では古代の東南アジア全域の様子が記述され,第2章から第6章までが,インドネシア,クメール(カンボジア),ベトナム,ミャンマー,タイ(+ラオス)の各地域の中世~近代の歴史が描かれている。
第7章では,西洋人が到来して旧来の秩序が破壊される過程,第8章では帝国主義への抵抗,そして第9章では第二次世界大戦後の各国の姿が描かれている。
小生が高校生だった頃は世界史の内容と言えば西洋史と中国史がメインで,東南アジアにはほとんど触れないというありさまだった。「シュリーヴィジャヤ」とか「ボロブドゥール」とか「アンコールワット」とか,たんに遺跡や国名だけが宙にさまよっているような状態だった。
本書を読むことによって,そういう単語だけが浮遊する混沌とした状態に骨組みが与えられたような気がする。
本書を読んで思ったのは,東南アジアは西洋や中国に負けないぐらい多様で豊潤な歴史を持っているということである(よくよく考えてみれば,南米もアフリカも同様に豊かな内容の歴史を持っているはずであるが・・・)。
インドネシア語に"Bhinneka Tunggal Ika"(多様性の中の統一)という言葉があり,多民族国家インドネシアのスローガンでもあるが,東南アジア全体を描写する言葉でもあると思う。
東南アジア各国・各民族の歴史を並べてみることによっていろいろな発見があった。
特筆するべきなのは,最も遅く東南アジアに展開したにも関わらず,帝国主義の時代を生き延び,現在に至るまで繁栄を謳歌しているシャム(タイ)のことである。
チャクリー朝はバンコクを首都に定めた。諸外国に開かれたこの港市を首都として持つことによって,タイは国際的な情勢に対する順応性を持つことができ,他の国のような植民地化の運命を逃れることができたと著者は述べている(115ページ)が,その指摘はおそらく正しい。
◆ ◆ ◆
しかし,本書で残念なのは誤記の類が頻出することである。例えば:
- 間違いとは言えないが,「紅河」の振り仮名が「ホンハー」(69ページ他)になったり「ソンコイ」(73ページ)になったりする一貫性のなさ
- 「リタイ王の王国は在位していたけれども」(107ページ)という日本語としては間違った記述
- 「サレカット・イスラーム」(145ページ)が2行後には「サリカット・イスラーム」になってしまう一貫性のなさ
ほかにも気になる表現が散見されるが,とくにまずいと思うのは巻末の参考文献リストである:
白石 隆『海の帝国 アジアをどう考えるか』(中公新書1551、2000年)は小生も以前取り上げた名著。
「堂」はまずいだろう。
石澤良昭先生は忙しくて,推敲する暇がなかったのか? また,出版元の白水社の編集者は気づかなかったのか?
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