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2011.05.24

関和彦『古代出雲への旅』を読む

先日は筑紫申真『アマテラスの誕生』を紹介し,図らずも,筑紫氏のご家族からコメントを賜るという幸運に恵まれた。

今回は大和から見て,伊勢・志摩とは逆の方向,出雲に関する書籍を紹介する。

関和彦『古代出雲への旅』(中公新書1802)である。

古代出雲への旅―幕末の旅日記から原風景を読む (中公新書)古代出雲への旅―幕末の旅日記から原風景を読む (中公新書)
関 和彦

中央公論新社 2005-06
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幕末,出雲国平田町(現出雲市平田町)に小村和四郎重義(おむら・わしろう・しげよし)という人がいた。家は廻船の商家だった。

慶応二年(1866年),55歳のとき,和四郎は『出雲国風土記』に見える神社を参詣しようと考え,旅に出た。和四郎はその旅での出来事を『風土記社参詣記』という記録にまとめた。

本書の著者,関和彦はこの旅日記に記された行程を実際に辿りながら,古代・幕末・現在と三重写しの出雲の風景を描き出している。

本書に記された和四郎の旅は次の3つである。

  1. 玉造温泉を経て松江の古社を巡る旅(慶応二年2月25日~28日)
  2. 嵩山(だけさん)麓の神社->中海の大根島->美保関->加賀潜戸(かかのくけど)->佐陀大社という巡礼の旅(3月22日~4月7日)
  3. 出雲大社とその周囲の神社を巡る旅(5月9日~5月16日)

風土記に記された神社は,江戸末期には所在が不明になっているものが多かった。和四郎は風土記の知識と地元の人々の証言をもとに,風土記の神社の所在を推定していくのである。


  ◆   ◆   ◆


この本で面白いのは,和四郎が旅先で出会った人々,例えば,亀尻の柏木又右衛門,神庭の錦織家の娘といった人々に関する記録を,著者・関和彦が別の場所・別の機会に目にするというエピソードである。柏木又右衛門に関する記録に出会った時の感動を著者はこのように記す:

慶応二年(1866)に和四郎と又右衛門が大根島で出会ってすでに百四十年余の歳月が経った。「わたし」という1人の人間を介して『出雲国風土記』を愛した二人がこの本で再会したのである。もしかすると「わたし」という存在がなければ二人の再会はなかったのではなかろうか。点と線で手繰る歴史研究の方法がここでは生きたのかもしれない。 (109ページ)

また,神庭の錦織家の娘の記録に出会った時も以下のように感動を述懐している:

この本の原稿を完成させた後,出雲市図書館でたまたま『島根の百傑』という本を手にして見ていたところ,わたしの目に「錦織竹香」という女性の名前が飛び込んできた。 <中略> 「錦織竹香」は雅号であり,本名は「久美」であったという。 <中略> 「錦織竹香」は幼いころから作法はもちろん書道・絵画・読書・裁縫を身につけたようである。十歳にて山本梅逸門下の正林霞湯に絵画を習い,好んで竹を描いたという。「竹香」の雅号のゆえんである。この「竹香」,否,「久美」こそ和四郎が会った少女ではないか。わたしは<こんなことがあっていいのか>と思わず声を上げそうになった。 (196ページ)

別々の所で入手したパーツが組み合わさるという意外性から得られる快感。それは学問の醍醐味の一つだろうと思う。


  ◆   ◆   ◆


最後に,この本に出てきた,ある神社にまつわる謎について触れたい。

和四郎は二番目の旅の途中,許曾志(こそし)神社(参考)に参詣するのだが,この神社では,狛犬ではなく狛猿,狛鶏が境内の入り口を守っているのだそうだ(172ページ)。

本書では,猿は猿田彦=佐太大神,鶏は「天の岩戸神話」の常世の長鳴鳥(ながなきどり)に関連がありそうだと述べているのだが,小生は別のことを考えている。

桃太郎の鬼退治の際,桃太郎に同行した動物は猿・雉・犬であった。これは鬼門(丑寅:うしとら)の方位に対抗し,裏鬼門を守る動物,申・酉・戌(さる・とり・いぬ)を連れていったのだという説(曲亭馬琴「燕石雑志」)がある。

裏鬼門は未・申(ひつじ・さる)だろ,という鋭いつっこみがあることは承知しているが,方位とからめた解釈は面白い。

許曾志神社の入り口を守っているのが,申・酉(さる・とり)というのは,何か方位と関係あるのではと小生は深読みしてしまうのである。

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