【バングラデシュ】グラミン銀行ユヌス総裁解任の件 [Bangladesh removes Yunus from Grameen Bank]
貧者のための融資システム,「マイクロファイナンス/マイクロクレジット」の生みの親にして,ノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏が,グラミン銀行総裁の座を追われたのだそうだ:
「グラミン銀総裁を解任=マイクロ金融生みの親-バングラ中銀」(2011年3月2日,時事ドットコム)
"Bangladesh removes Nobel winner Yunus as Grameen Bank" (March 2, 2011, Serajul Islam Quadir, Reuters)
"Bangladesh turns up heat on Nobel winner Muhammad Yunus" (Mar. 1, 2011, Indian Express)
直接の解任理由はグラミン銀行設立法違反ということだが,本当はユヌス総裁がグラミン銀行の資金100万ドルを流用したという疑惑が原因だと考えられている。
しかし,ユヌス総裁の支持者に言わせれば,その疑惑自体はユヌス総裁とハシナ首相の政治的対立(2008年の総選挙)に根差したでっち上げなのだという。
で,その疑惑はどういうものかというと,この2010年12月1日付けのインディアン・エクスプレスの記事に短くまとめられている:
"Grameen Bank's Yunus 'stole' $100 mn" (Dec. 1, 2010, Indian Express)
疑惑について初めて報道があったのは2010年12月で,報道したのはノルウェー国営放送だった。同放送によると「ユヌス総裁がグラミン銀行から100万ドルを引き出してグラミン・カリヤン (Grameen Kalyan)という組織に流した」ということである。
グラミン・カリヤンはグラミン・グループの保健福祉部門なので,グラミン銀行のお金がそちらにまわるのは問題ないのでは?と思うのだが,目的外流用にあたるのでアウトなのだそうだ。
ちなみに,なぜノルウェー国営放送がユヌス総裁の不正なんぞを取り扱うのかというと,ノーベル平和賞を贈呈したのはノルウェー政府だからである。
この先,ユヌス氏が「汚れた英雄/堕ちた偶像」となってしまうのか,あるいは疑惑自体が嘘で,汚名を雪ぐことに成功するのか,しばらくは報道から目が離せない。
◆ ◆ ◆
ちなみにマイクロクレジットは無担保少額融資制度というように訳される。これは担保を持たない貧困層の為の少額の融資である。
それだけを聞くといい制度に聞こえるが(知っている人は知っていると思うが),金利は高い。年利20%である。ただ,ウィキペディア「グラミン銀行」の「評価及び問題点」にもあるように,バングラデシュにおける高利貸しの金利が100%を超えていることや同国の物価上昇率の高さを考えると相対的に低いともいえるのだそうだ。
脇道に逸れるが,以前,カンボジアに出張したとき,同地にもACLEDAという銀行があり,マイクロクレジットを行っていた。金利は月2~3%だったと思う。多分,グラミン銀行と同じように単利だったと思うが,そうすると年利24~36%ということになる。
カンボジアの農民の方々は苗の購入などの目的でACLEDAから金を借りるのだが,実際にはその金で中古車の転売などをやり,利子が膨れないうちに返済を済ませるという財テクをやっているそうだ。農業の振興にはあまり役だっとらん。2008年ごろの話。
◆ ◆ ◆
【2011年3月3日夕刻追記】
マイクロファイナンスに効果があるのかないのかという点については議論がある。
ニューズウィーク日本版の記事によると,「貧困改善を裏付けるデータは存在しなかった」のだそうだ:
「危ういマイクロファイナンス・バブル」(2009年7月1日,マック・マーゴリス)
この記事のもとになっている論文はこれである:
David Roodman and Jonathan Morduch, The Impact of Microcredit on the Poor in Bangladesh:
Revisiting the Evidence, Center for Global Development Working Paper Number 174, June 2009
過去,Pitt and Khandker (PK, 1998), Khandker (2005)といったマイクロファイナンスの効果に関する研究が実施されてきた。例えば,Pitt and Khandkerの研究(PK, 1998)では「マイクロクレジットはとくに女性に適用した場合,家庭の消費を増加させる」という結論が出ている。
しかしロードマントとモーダックがこれらの研究を再検討した結果,逆の結果が得られたりして,結局,「マイクロファイナンスが貧困改善につながる」ということは実証できないことがわかったのだそうだ。
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