ダンセイニ『ぺガーナの神々』読了
クリスマスプレゼントとしてツマから貰った松岡正剛セレクト「天界物語八冊組」(松丸本舗ブックギフト・プロジェクト)の一冊,ダンセイニ『ぺガーナの神々』(ハヤカワ文庫FT)を読み終わった。非常に美しく,また,人間の持つ宿命について考えさせられるファンタジーである。
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この本の概要については訳者である荒俣宏の解説を引用するのが一番いいだろう:
本書『ぺガーナの神々』は,今でも神秘の色濃いアイルランドのかおりを漂わせた創作神話,つまりどこにもない空想の神話をあつめた,小さなファンタジイ集です。「神々のたそがれ」を歌うワーグナーの歌劇を通じて知られている北欧神話の上に乗って,ここではぺガーナ(あるいは異教の国<ペガーナ>)の神々の生と死とが物語られます。第一部『ぺガーナの神々』は,世界の誕生から破壊までのエピソードを背景にして,ぺガーナに集うすべての神々が紹介されます。そして第二部『時と神々』は,ぺガーナの神と人間たちとのあいだに生まれる闘いと祈りと憎しみの物語をしずかに語っていきます。
『ぺガーナの神々』における世界の構造は次のようになっている。
物語は<宿命 Fate>と<機会 Chance>とが賽を振って勝負をし,勝者が創造主たるマアナ=ユウド=スウシャイ MANA-YOOD-SUSHAIに,遊び道具として神々を作るよう依頼するところから始まる(「はじまり」)。
マアナ=ユウド=スウシャイは神々を作った後,スカアル Skarlの敲く太鼓の音を聞きながら寝入ってしまう。マアナ=ユウド=スウシャイと神々とが住まう場所をぺガーナという(「ぺガーナの神々」)。
マアナ=ユウド=スウシャイが寝ている間,神々は手慰みとして世界を創造する(「世界を創ること」)。人間を含め,あらゆる生命は世界創造の過程でキブ Kibという神によって創られたものなのである。ムング Mungという神はキブの仕事を妬み,全ての生命に死をもたらすこととした。人間を含め,全ての生命はムングが印形(しるし)を結ぶことによって死ぬのである(「神々が戯れること」)。
神々が創った世界は永遠のものではない。いつの日にか,マアナ=ユウド=スウシャイが目覚め,神々と世界とを壊してしまうことが運命づけられているのだ(「ぺガーナの神々」)。
『時と神々』では,人間たちを翻弄する神々ですら,<宿命>と<機会>とがプレイするゲームの駒にすぎないことが記されている(「南風」)。また,人間たちが信仰対象としなくなった神々は死ななくてはならないこともまた明らかにされる(「神々の秘密」)。
造物主たる神々の上にさらに超越的な存在があるという重層的な構造が,このファンタジーの世界構造を深み(高み?)のあるものにしていると思う。また,世界が存在するのはマアナ=ユウド=スウシャイが寝ている間だけだというのは,「世界はブラフマン(梵)の夢に過ぎない」とするヒンドゥー教の教えを思い出させてくれて面白い。
◆ ◆ ◆
ダンセイニの作品(英語)はグーテンベルクプロジェクトで公開されている:
Dunsany, Edward John Moreton Drax Plunkett, Baron, 1878-1957
今回紹介した『ぺガーナの神々』と『時と神々』の原作はそれぞれ
"The Gods of Pegana"
"Time and the Gods"
として公開されているので,興味ある人は読んでみられるとよい。
◆ ◆ ◆
このダンセイニの作品は荒俣宏と松岡正剛とを出会わせるきっかけとなったものである。そのあたりの事情は松岡正剛の千夜千冊・第二夜『ペガーナの神々』
(2000年2月24日)に詳しい。
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