ムービープラスでメル・ギブソン主演『パトリオット』(2000年)を見た件
昨晩,NHK BSHiで2010年に開催された「BBC プロムス」"The Last Night of the Proms"を見た。「BBC プロムス」というのは世界最大のクラシック音楽祭である。2010年の最終夜,会場のロイヤル・アルバート・ホールとその周辺には8万数千人が集まり,全国各地の会場を合わせると30万人が参加したということである。
参加者の数にも驚いたが,毎回感心するのは最終夜第二部の愛国的な曲目に対する聴衆の盛り上がりっぷりである。どんな曲目が並んでいるかというと,
- 「ルール・ブリタニア」
- ヒューバート・パリー「イェルサレム」
- エドワード・エルガー「威風堂々」第1番
「ルール・ブリタニア」なんて「ブリタニアよ,大海原を治めよ」という歌詞だし,英国第二の国歌とも言われる「威風堂々」なんて「自由によって得られ,真実によって保たれし汝の帝国は強盛となるべし」という歌詞である。こうした歌を熱狂的に高らかに歌い上げる聴衆を見ていると,英国民の意識の中には世界を支配した大英帝国の栄光が強く残っているのに違いない,そして植民地支配については本当は反省してないだろ,などと思うわけである。
で,大英帝国の毒気にあてられた翌夕,今度は英国の支配に反旗を翻した米国民の戦い,すなわち独立戦争を描いた『パトリオット』(監督ローランド・エメリッヒ,主演メル・ギブソン,2000年)を見たわけである。
英軍のダビントン大佐に息子を殺されたベンジャミン・マーティン(メル・ギブソン)は復讐のため,家族のため,そして祖国のために立ち上がるのだった・・・という話である。
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この映画で描かれる英国軍の残忍なこと。無抵抗の米国負傷兵を殺し,黒人自由民を連行し,恭順しない市民を教会に閉じ込めて焼き殺す。まあ,とんでもない連中である(※ちなみに英語版のWikipediaを読むと,英軍の残虐行為の描写には賛否両論があるようである(参考))。
で,ベンジャミン・マーティンが率いる非正規兵が英国軍と戦う度に,小生なんか「あいつら『ブリタニアよ,大海原を治めよ』なんて世界の支配者気取りの傲岸不遜な連中なんですよ,やっつけておくんなさい」と思わず応援してしまう。映画だっつうのに。
『パトリオット』は内容も面白いが,映画史上でも意義のある映画だと思っている。なぜかというと,「独立戦争」を取り上げた映画だからである。
以前,瀬戸川猛資『夢想の研究』(創元ライブラリ,1999年)という本の「大君の都」という章を読んだとき,「米国には聖書スペクタクル映画は数々あるのに,アメリカ建国神話たる独立戦争や南北戦争を正面から取り上げた作品が無いのはなぜか」という疑問が呈されていた。
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南北戦争に関しては『風と共に去りぬ』があるんじゃないかなー?と思ったが,独立戦争に関してはこれといった作品名が思いつかなかった。それが,この『パトリオット』によって埋められたのである。瀬戸川猛資は1999年3月に逝去したので,『パトリオット』のことは知らない。もしもう少し長く生きて『パトリオット』を見ていたら,何か述べただろうか?
ちなみに,「米国には聖書スペクタクル映画は数々あるのに,アメリカ建国神話の映画はないのか?」という問題について,瀬戸川猛資はこのような推測を述べている。すなわち,ハリウッドのタイクーン(大君=支配者)であった
- ハリー・コーン(コロムビア映画創設者)
- ウィリアム・フォックス(20世紀FOX創設者)
- サミュエル・ゴールドウィン&ルイス・メイヤー(MGM創設者)
- カール・レムル(ユニバーサル創設者)
- アドルフ・ズーカー(パラマウント創設者)
- ハリー&ジャック&アルバート・ワーナー(ワーナー・ブラザース創設者)
といった人々はすべて東欧・ロシアから移民してきたユダヤ人だった。これらの人々にとっては旧約聖書の世界をスペクタクル映像で再現することには意義を感じても,「アングロ=サクソンの手になるアメリカ建国神話なんて,初めからつくる気がなかったに違いない」(『夢想の研究』72ページ)というわけである。
じゃあなんで2000年になってコロンビア映画が独立戦争をテーマにした,製作費1億1千万ドルもの大作に取り組んだのか,という疑問が発生するが,小生は単純に,タイクーンたちが支配していたころのようなこだわりが無くなったからじゃないの,と思っている。
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